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3 戦士は遺す

 リュカ・マルローからの連絡は途絶えた。彼とともにアニムスを攻めようとしていたアポロに、彼からの情報を待っていたタスファイ。2人は一度セラフの町で落ち合うこととなる。


 タスファイの拠点は採掘所近くの事務所――などではない。その場所はあくまでもダミーであり、実際の拠点はもっとセキュリティがしっかりしている。例えば、地図にないとされている場所――


「来たぞ、タスファイ。相変わらずわかりにくい場所だ」


 そう言ったのはアポロ。

 彼がそう言うのも無理はない。この拠点は青色の鉱石をかつて採掘していた場所、廃坑からさらに進んだ場所にある地下室。本来は立ち入り禁止ということになっており、地図にも詳細は記載されていない。だからこそ見つかる危険性は低い。


「仕方ないだろう。俺の担当は見つかるとまずい」


 タスファイは言った。

 アポロもこのことばかりは理解している。が、どうにもこの場所は無骨すぎてアポロの気に入る場所ではなかった。アポロは美しいものが好きだ。性格こそアポロとタスファイには共通する部分もあるが、好みにおいては相いれなかった。


「だからと言って居住空間がコレというのは理解に苦しむ」


 と、アポロ。


「だろうな。だが俺はこれでいい。こういうのが俺らしいと思っているからな。それで、本題だ。次に狙われるのは恐らく俺。昴もリュカも殺された今、俺は自分の手で自分の身を守らなければならないわけだが……」


 タスファイはここで一度言葉を切った。

 状況や敵の強さを見誤らないタスファイは、今のオリヴィアの強さがタスファイ自身に届き得ると踏んでいた。が、いざ言おうとなればプライドが邪魔をする。

 タスファイは戦士だ。北東レムリアの武家のうち、南進した一派を先祖に持ち、タスファイはその中でも戦いに優れた者であった。だからこそ、弱さを他人に晒すことに抵抗があった。


「何か思うところがあるらしいな」


 アポロは言った。


「俺は戦士だ。いざというときは俺がお前より先に死ぬはずだ。だから、俺が死んだあとに青色の鉱石のことと……シーラ・アッカーソンを任せた」


「お前、死ぬのか……?」


 タスファイが言うとアポロは聞き返す。


「戦士たるもの死が見えている戦いからも逃げてはならない。俺は、逃げも隠れもしない。だが俺の守るものは別だ。守るべきものは、いかなる方法を用いても守る」


 と、タスファイは答えた。

 タスファイは時に遠回しな言い方をする。だが、タスファイとのかかわりが少なくないアポロには言わんとしていることがわかった。


「了解したぞ。今引き継いでおくか?」


「ああ……極秘ファイルを渡しておく」


 と言ったタスファイは鍵付きの引き出しに入っていた水色のファイルをアポロに手渡した。


「確かに受け取ったぞ。お前の矜持は尊敬するが……くれぐれも死なないでくれ」


「お前の仕事人としての矜持も尊敬に値する。お前も胸を張れ」


 タスファイは言った。

 アポロはファイルを鍵付きのバックパックに収納し、タスファイの拠点を出る。アポロは運び屋という立場上、1か所に長居することはない。だから、彼はタスファイのいるセラフの町の実情を知らなかった。


「オリヴィア・ストラウス一味……リンジーの率いる裏切り者……加えてこの町での連続殺人事件。アポロはどこまで知っているのやら」


 そう言いながらタスファイは隣の部屋へ。

 その部屋には煽情的な服で身を包んだ銀髪の少女――オリヴィアと同年代くらいの少女がいた。目鼻立ちははっきりとしており、髪の毛だけでなく全身の色素が薄い。顔も整っており、まさに美少女である。


「お仕事は終わられたのでしょうか?」


 少女シーラ・アッカーソンは言った。


「そうだな。やはり引き継ぎは難しい。情報共有はしてきたつもりだが、どうしても俺にしかわからないことも多い。例えば、今のセラフの町の状況とかな」


 タスファイは言った。

 セラフの町の今。採掘場の状況や物価、このところ起きている事件などではない。タスファイの言う「今のセラフの町の状況」とは、町ゆく人々の顔色や表情、言葉。それらは町に住んでいなければわからない。短期の滞在でわかるのはせいぜいその断片だろう。


「そうですか……私もあまり外に出ないのでよくわかりません」


 シーラは言った。


「お前はあまりそういう事を考えなくていい。できれば世界の秩序や争いとは無縁な人生を送ってほしい」


「世界の秩序……?」


 聞き返すシーラ。


「悪い。今言ったことは忘れろ。恐らくお前には関係ないはずだ」


 タスファイは誤魔化すように言う。


「ずるいです、タスファイさんは。私、母様からカナリス・ルートを継げると言われてあなたに接触したのに、あなたは私をカナリス・ルートから遠ざけようとする。私だって……私だって……」


 シーラは己の想いを途中まで口にして言葉を切った。


「ずるい、か。好きなだけ言うといい。お前は血生臭い場所でやっていけるとは思えないのでな。お前とアリスは違う」


 と、タスファイは言った。




 ――あなたは正しいですよ。いえ、あなたの判断は正しいです。私を近づけないのは。ただの戦士だと思っていましたが、あなたはずるい。あなたの私の扱いはまるで愛人か何かではありませんか。どうして私をそのようにしか見て、扱ってくれないのでしょう? あなたの歪んだ感情が、気持ち悪いです。



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