1 別荘でのひとときⅠ
オリヴィアは無事にパスカルや晃真たちと再会を果たした。パスカルがそのこととオリヴィアの現状を親友である杏奈告げると、杏奈からは鮮血の夜明団所有の別荘に案内された。
杏奈の言う別荘がここ、方洲荘である。海に面した別荘は毎年夏には鮮血の夜明団の構成員がリフレッシュするために訪れる。
「本当は構成員じゃなきゃ使えないんだけど杏奈とエレナが推薦してくれたからね」
と、パスカルは言う。
方洲荘は小綺麗な白い建物が集まったものだ。その数は50棟を越えるが、すべて合わせて方洲荘という。
これまでに別荘を訪れる経験をしたことのなかった一行は、気分から浮かれていた。特にヒルダ。
「お姉ちゃんの言ってた別荘よりすごい!」
ヒルダは言った。
「この時期なら海では泳げるってよ」
と、キルスティ。
彼女もまた本気で楽しもうとしている。それと同時に晃真の方をちらちらと見る。
「……とにかく荷物を置いてこよう! 海に入るのはその後だ!」
晃真の顔は赤い。
というのも、方洲荘に行くのならぜひ海に入るといい、といわれたので一行は道中で水着を買っていた。もちろんオリヴィアも例外ではない。晃真にはオリヴィアの水着姿を見る心の準備ができていなかった。
「そうだよね。荷物置いたら着替えてこよっか」
とオリヴィア。
一行は一番海に近い棟に向かう。そんな中でオリヴィアは季節の移り変わりを肌で感じていた。最初にパスカルに出会ったのは春――4月の終わり。それから旅を続け、もう7月も半ば――夏だ。少し前、アニムスの町に旅行客が訪れていたのももっともだ。
「時間が経つのってゆっくりなようで早いなあ」
オリヴィアはそう呟いて別荘の建物に入った。
しばらくすると一行は着替え終わり、砂浜に出てくる。オリヴィアが着ることになったのは白と黒のワンピース水着だ。これはオリヴィアと晃真が2人で選んだもの。もっと露出の多いものを選ぼうとしたオリヴィアに晃真が薦め、オリヴィアも可愛いからと選んだのだ。
そんな水着姿のオリヴィアを、一足先に砂浜に出ていた晃真が見て頬を赤らめる。
「……どうしよう、可愛いなんて安い言葉では表せない」
晃真はオリヴィアのことを直視できずに呟いた。
「可愛いって言ってくれるだけでも嬉しいよ。それに、この水着は晃真と選んだんだから」
オリヴィアは言った。
「そうだな……パスカルたちもまだだから、先に海に入るか」
晃真はそう言ってオリヴィアに笑いかける。
2人はほとんど人のいない砂浜を歩いてエメラルドグリーンの海に入る。海は適度に冷たい。これが海だ。
オリヴィアはしばらく海を見ていたが――晃真はオリヴィアを抱き寄せて唇を合わせた。戸惑うオリヴィアを前にして晃真は言う。
「誰も見ていなかっただろ?」
晃真はオリヴィアに、これまで見せたことのない表情を見せた。
「誰も見てないからって、びっくりした。でも、晃真からなら悪くないかも」
と、オリヴィア。
2人は互いのことしか見えていなかった。そんなときにパスカルたちも建物から出てくる。まずピンクのフリル付きの水着を着たヒルダが海に入ろうと出てくるのだが、そのときに愛し合うオリヴィアと晃真を見た。
「へっ……オリヴィアお姉ちゃんと晃真お兄ちゃん!?」
と、ヒルダ。
その声に気づいたオリヴィアと晃真はヒルダの方を見た。もうパスカルたちも着替え終えて出てきている。
「せっかく恋人同士になれたんだからあんまり突っ込むものじゃないよ、ヒルダ」
そう言ったのはパスカル。彼女はいつも結っている髪を下ろして黒いビキニを着ており、ほどよく筋肉のついた健康的な肢体を見せている。
「たしかに……病室で言ってたもんね、好きだって」
と、ヒルダ。
そして彼女は何を思ったのか海に入り、ある程度の深さがあるところまで行くと――頭から潜り、海の中で逆立ち。海の上に出た脚を開く。
「何やってんだか。いやわかるけどさあ?」
エミーリアが言う。
「アトランティス湾に沈められた人か。まさかヒルダが知っていたとは」
キルスティも言った。
アトランティス湾に沈められた人。このレムリア大陸でもそれなりに知られたネタだ。
エミーリアもキルスティもセレブの着るような水着に着替え、サングラスをかけている。どちらも謎のオーラを隠せていない。
「てか、ヒルダもほどほどにな。さすがの私も溺死は助けられないぜ」
キルスティは言った。
彼女の言葉が届いたのか、ヒルダは「アトランティス湾に沈められた人」のポーズをやめて水面に顔を出す。
「ちょっとやってみたかったんだよね」
ヒルダは濡れた顔をくしゃりと歪めて笑う。彼女は、モーゼスを斃してからよく笑うようになった。これまでヒルダを縛っていた枷から解放されたのだろう。
変わったのはオリヴィアも同じ。ロムからの裏切り――裏切りですらない彼女の仕打ちを受けて精神崩壊を起こすまでだったが、オリヴィアも立ち直りつつある。何より今の彼女には晃真がいる。その晃真だって変わってきている。
「私は見守れればいいか」
パスカルは言った。




