24 身辺調査の結果
ここは鮮血の夜明団本部。支部長や上層部の人間が集められた会議の後、会長の元に彼の信頼する者数人が集まった。
この男が鮮血の夜明団会長のシオン・ランバート。年齢は40歳近いが、まだ容姿には若さも残っており、そうは見えない。そんな彼がまず口を開く。
「エレナ……それは本当か?」
「間違いないぜ。鮮血で追ってたパメラ・ド・ブロイはすでに故人。私らがパメラだと思っていたのはリュカ・マルローだ」
と、エレナは答えた。
これまで――エレナが情報を持ってくるまで鮮血の夜明団の重鎮たちでさえパメラの正体に気付く者はなかった。「彼女の前で嘘をつくな」と言われている杏奈でさえわからなかった。
「許せませんね……嘘は正義に反します。春月で私がやつを殺せていればどれだけ良かったことか。ねえ、会長」
そう言ったのは、丸眼鏡をかけた緑髪の女。彼女の名は水鏡初音。正義感溢れる、鮮血の夜明団の監査官。
そんな彼女は隠せない殺気を放っている。
「ああ……だがそれも大問題だろう。カナリス・ルートは一度敵意を向ければ必ず殺しに来る。だから俺たちも手を出せなかった」
シオンは言った。
彼の言うことに賛成するかのように頷く杏奈たち。その中には鮮血の夜明団の暗部に所属する織部零やグランツ・ゴソウ、ヨーラン・オールソンも含まれていた。
「しかも、彼らはレムリア大陸の秩序を裏から保っている。いくら悪事を働こうが手出しができない。それに知っているだろう?」
「ここ15年、争いのある場所には常にカナリス・ルートがいた。そういうことだ」
杏奈とグランツはそう言った。
「ま、話を戻すぜ。リュカ・マルローは女装までしてパメラになりすましていた。話を聞けば女装に関しては完璧だが、変装にしては詰めが甘い」
そう言ったのはエレナ。
「だが、女装と偽名に意味はあっただろうというのが私とエレナの見解だ。身辺調査の結果と併せて考えるのが一番だろうがな。」
と、杏奈は言って黒いファイルをシオンに手渡した。
「エレナと零が命がけで得た情報だ。出身地からカナリス・ルート外での人間関係まで、リュカ・マルローについてがわかるだろう」
「ああ……」
シオンは杏奈からファイルを受け取って開く。
†
リュカ・マルロー。
出身地はスラニア山脈の西、ティアマットの町。
リュカは、新聞記者の一人息子として生まれた。両親との仲は悪くなく、適切な教育を受けてごく普通の――悪い扱いを受けなかった一方、優れた子供だと言われることもない子供時代を過ごした。
特筆すべき人間関係は幼馴染。エレメンタリースクールに入る前から親しかった女の子がパメラ・ド・ブロイ。幼少期から姉弟のように親しかったという。
その人間関係に変化があったのが、リュカとパメラが16歳の頃。パメラは3歳年上の男と付き合い始めた。リュカもパメラに恋をしていたが、それは破れる結果となった。
リュカは諦めずにパメラが男と別れるのを待った。が、1年経ってもパメラは別れない。そんなときにパメラと男は事故で死亡した。
この事故がリュカに影響を与えたことは間違いない。リュカはこの事故の後に女装するようになったことがわかっている。
それからさらに1年後、リュカが18歳のときにカナリス・ルートからの勧誘を受けて所属するようになった。
カナリス・ルートでは武器の一時的な保管や敵対者の捕縛などを担当。カナリス・ルートのリュカとしては絶対に表に出なかった。
リュカの関わった事件、闘争――
†
「よく調べたな。表に出てこないなら調べるのも大変だったろう」
シオンはファイルを開いたまま言った。
「そうだな。八幡昴が生きていればこの情報は手に入らなかっただろう」
そう言ったのは零。ファイルにまとめられた情報が手に入ったのは彼のおかげと言っても過言ではない。そんな彼も、リュカの情報を掴むために廃墟となったとある家を調査したという。
「ある女性――八幡昴の関係者と接触して、彼女の手を借りて情報を集めた。彼女もリュカの名前を知らなかったそうだが、リュカ春月で暗躍していたこともあったようだ。事件の形跡が見られないことからカナリス・ルートと関係ないことにも思えるが……あれは……」
零は嫌なものでも思い出すかのような顔をする。
「ひどい目に遭ったのか?」
と、杏奈。
「……いや。俺たち、鳥亡一族は変な方向に拗らせやすいらしい」
零の言葉から、杏奈は色々と察した。杏奈も零も同じ鳥亡一族という藍色髪青眼の一族で、共通して知る者もいる。だから杏奈は察した。
「宿命か……」
と、杏奈。
「とにかくだ。あの家で得た情報もファイルにまとめている。活用してやってくれ」
零はそう締めくくる。
「……俺もああやって拗らせてしまえば楽になるのか?」
その後に言った言葉はある1人を除いて誰にも聞かれていなかった。
リュカについての話を終えると極秘の会議は終わる。参加者がその場を後にしようとしたとき、初音は零に耳打ちした。
「そうですね、殺しに興奮するようになれば暗部のお仕事も楽しくなるかもしれませんよ?」
それは悪魔のささやき。零は声を聞いて震え上がるが――
「いや、俺はもう間違いを犯さない」
零はそう答えた。
「つれない人ですねえ……」
初音はそう言って、シオンについていった。




