22 戦いの終わりに抱擁を
戦いの後、一行はミリアムの提案でアニムスの町のとある場所に向かうこととなった。
ブルックス診療所。名医といわれる、錬金術を使える医者がいるという診療所だ。が、なぜ診療所に向かうのか、一行のほとんどは理解していなかった。キルスティに至っては文句さえも言っていたが、エミーリアがなだめたことで口論にはならなかった。
リュカの空間が崩壊して戻ってきたのが早朝。歩き続けて診療所にたどり着いたのは、午後も遅い時間になってからだった。
診療所に着くと、ミリアムが呼び鈴を鳴らし。
「オリヴィア・ストラウスへの面会希望です」
と言った。
オリヴィアの名前を耳にして表情を変えたのは晃真だった。オリヴィアがエピックの町で姿を消してから、晃真は口数が減っていた。
「会えるのか……オリヴィアに」
晃真は言った。
「ああ。アナベルからの情報だ。間違いはないだろう。精神的に参っているらしいが、お前たちと再会したとなると……」
ミリアムはそう言って口ごもる。ミリアムはオリヴィアのことをよく知らない。一度戦ったことがあるくらいで、彼女の人柄に触れる機会などなかった。が、ミリアムとオリヴィアの両方を知るヒルダは「優しい人」だと言っていた。
しばらくするとドアが開けられ、助手の青年が一行を病室に案内する。いわく、この診療所は事情があれば秘密裏に入院するという形でかくまってくれるらしい。オリヴィアはそうして秘密裏に入院しているとのことだった。
「オリヴィア……」
歩きながら晃真は言った。湧き上がる想いを押さえられないことは誰から見ても明らかだった。
「晃真ってばあの空間ではオリヴィアに会えないまま死ぬのか、なんて言ってたぜ。ま、そういうことだ」
と、からかうような口調のキルスティ。そう言われた方の晃真は顔を赤くする。ある場所ではオリヴィアの恋人を名乗っても、照れるときは照れるのだ。
病室のドアを開ける。
ドアの向こうにはベッドに座るオリヴィアがいた。だが、彼女は麗華やハリソン、モーゼスを倒したのが嘘のように覇気がない。何か後悔するようなことがあるかのようだ。
「オリヴィア……本当にオリヴィアなんだな……!」
そう言った晃真はオリヴィアに駆け寄る。
「来てくれたんだね……もう会えないかと思った」
オリヴィアは言った。
その表情は心なしかドアが開いたときよりも穏やかになっていたが。
「……ごめん、晃真。わたしも謝らないといけないことがあって……その……エピックでは急にいなくなってごめんなさい。晃真よりロムを優先してごめんなさい。わたし、晃真たちに嫌われたり見捨てられたりしても仕方ないよね」
オリヴィアはそう続けた。やはりオリヴィアにもうしろめたさや罪悪感があったようだ。
「それはしない。オリヴィアを探せない状況だったけど、見捨てようとは思わなかったよ。パスカルもキルスティもエミーリアもヒルダも同じだ」
晃真は言った。
後ろではリンジーとキルスティが期待の目で晃真を見ている。2人は晃真の想いを知っているのだ。
「オリヴィア。俺は、あんたのことが好きだ。シンラクロスにいたときくらいから。もう離れたくない……離れないでくれるか?」
オリヴィアが消えて、探すこともできない状況に追い込まれて、晃真は引き離される辛さを身をもって知った。だからこそ今言わなくてはと感じていた。
「うん。離れないよ、晃真。あなたとなら、どんな不幸でも耐えられると思う」
と、オリヴィアは答えた。
オリヴィアの言葉を聞いた晃真はベッドに座る彼女を抱きしめた。晃真の腕の中にいるオリヴィアは、晃真の自分にはない力強さと温かさを感じていた。何度か晃真に抱き抱えられはしたが、今回は違う。そこにあるのは紛れもなく愛と信頼だった。
もう放さない。もう離れない。それは互いに思っていることだ。
「わたし、もう惑わされないからね」
晃真の腕の中でオリヴィアはそう言った。
「よかった、晃真もオリヴィアも。で、私たちもオリヴィアとの合流は果たせたわけだけどね」
そう言ったのはパスカル。
「しばらくゆっくりさせてあげたいけど、カナリス・ルートがどう動くかが問題ね……」
パスカルがさらに続けると、リンジーが手を挙げながら言う。
「あたし達が探りを入れてみようか? 持っている情報は、あたし達の方があると思うし」
「それはありがたいね。頼んでもいい?」
と、パスカル。
「任せて。あんた達を狙うやつがいたら知らせるし、反対に狙いやすいやつも知らせるから」
リンジーは悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「私もリンジーも戦える。心配はいらない」
と言ったのはミリアム。
カナリス・ルートを敵に回したとはいえ、引き離されたオリヴィアと再会できたのだ。加えて、オリヴィアも万全とはいえないだろう。少しくらい、戦いから離れた場所で休んでもいいだろう。一番それを考えていたのはパスカルだった。
「任せてもいいかな?」
と、パスカル。
「大丈夫だよ。それも罪滅ぼしのうちに入るからね」
ファビオもそれを承諾した。




