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20 箱庭の創造者

 リュカは戦いの中で武器を持ち換えた。斧からよく研がれたナイフへ。ラッキーヒットができるだけ致命傷になるようにと考えてのことだった。


「粘るねっ! でもそろそろ疲れてきたんじゃないの!?」


 リュカはミリアムに斬りかかった。力も素早さも底上げされているようだが、ミリアムにはそんなことなど関係ない。リュカの付け焼き刃の技術など通用しない。


「むしろお前がナイフを使ってくれることで攻撃は(さば)きやすくなった。かじった程度の練度だとはわかっている」


 ナイフをかわし、(さば)く。捌いて、斬る。当然のようにミリアムの剣は防がれた。それでもミリアムは焦らない。

 そして、ここに乱入者がひとり。荊が鞭のようにリュカを打つ。


「痛っ……え……」


 リュカは声を漏らした。それもそのはず、リュカはこの空間であらゆる攻撃を受け付けない。はずだった。荊の一撃をくらうまでは。


「予想通り。これでこの空間に入れた時点で効くと思ったんだよね」


 その声とともにリュカの前に現れたリンジー。彼女はイデアを展開し不敵に笑う。


「不正アクセス……許されないことだよ。それに君も裏切り者じゃないか」


 と、リュカ。


「ロムより大切な人がいたんだよね。あたし、もう自分に嘘はつかないから」


 その声とともに、戦いの第2ラウンドが始まる。荊を伸ばし、リュカに叩きつける。リュカは蛍光グリーンの壁が展開されないことに焦り、荊を咄嗟に避ける。身のこなしは軽いが、やはり戦いは本業ではないようだ。

 避けた先にも、また荊。リンジーはそこまで計算づくでいたようだ。


「……ここでは無敵のはずなのに!」


 と、リュカ。

 とはいえリュカもまだ隠し玉を持っている。これまでに閉じ込めた者やリュカの命を狙って来た者に対しては使っていない隠し玉だ。それを使うときが来た、とリュカは確信した。口では焦ったようなことを言っても、内心はまだ冷静だった。

 この空間の中でなら、勝てる。


「でもさっき通ったでしょ? まさに不正アクセスじゃん」


 と、リンジー。

 それと同時に叩きつけられる荊。その動きに慣れてきたリュカは跳びあがって躱し――空中に蛍光グリーンの円を展開。その中央にエネルギーを集めて撃ち放つ――


「君が不正アクセスなら、この光はセキュリティだ。このセキュリティで排除しないと」


 と、リュカは言う。

 放たれたエネルギーの光線。リンジーはよけようとしたが、光線はリンジーを狙ってくる。リンジーは荊を盾のように展開することでどうにかエネルギーを分散させる。だが。


 ――すごい強さだ。荊がなかったら死んでいたかも。


 そのエネルギーは気を抜けば荊を突き破ってリンジーに達しそうなものだ。が、このエネルギーだ。リュカにも隙があっておかしくない。リンジーはリュカの死角から荊を伸ばし、消耗しない程度にこの空間に張り巡らせる。そうしたリンジーはあることに気づく。


 ――この空間。あたしの能力で干渉できるみたいだ。ここに入り込めたみたいに、この空間を弄ることができるみたい。それこそ、外に繋げたり。入ってくるのと逆にすればいいとはわかっているから……あとは。


 光線が止んだ。リンジーは目がくらみそうな中で辺りの様子をうかがう。

 荊の隙間から見える景色は、新たな荊を張り巡らせた以外に変化はない。やはりこの空間は異質だ。


「生きてるの? これで死んでくれると思ったんだけど……」


 と、リュカ。口調こそ軽いが、そこには確かな怒気があった。

 リンジーはリュカを怒らせた。彼女自身もそう認識し、身構える。リュカから見て、荊を挟んだ反対側で。


「まあいっか。セキュリティならまだある。こういうことを見越して何重にもセキュリティを仕込んだんだ。生きては帰さないよ――」


 リュカはそう言い終わらないうちに、目の端で斬撃をとらえる。当然ながら斬撃は壁で防がれる。リンジーの攻撃以外は無駄なのだから、ガードする価値も攻撃を見る価値もない。が、リュカはうっかりミリアムの方に注意を向けた。


「畳みかけるぞ、リンジー!」


 と、ミリアム。それが攻撃の号砲となり、四方から荊が迫る。


「何が畳みかけるって? デリートオール。少し時間はかかるけど、確実性ならこれだよ」


 と、リュカ。

 彼がそう言った瞬間、リンジー、ミリアム、ファビオの3人の首に蛍光グリーンの光がまとわりつく。と同時に、この空間――リンジーたちのいる、リュカの支配する空間に激しいノイズが走る。

 起爆まで30秒。


「来た……!」

「やりやがった……!」


 同時に言うリンジーとリュカ。それぞれの反応は正反対だったが、反応したものは同じ。この空間の乱れに対して。勝利を確信するリンジーに、焦るリュカ。

 リュカの焦りに乗じてリンジーはさらに荊を伸ばす。荊を伸ばしてこの空間を形作るイデアに干渉する。そうすることでこの空間から脱出し、リュカを元の世界に引きずり出すことを狙っていた。

 起爆まで15秒。


 ――ここでは勝ち目がないから、せめて外で!


 空間に走るノイズはより大きくなる。それだけリンジーが空間に干渉し、リュカのイデアが保てなくなってきているということだ。一方でリュカの「デリートオール」というセキュリティも起爆まで数秒となる。


 やがて、空間は崩壊する。「デリートオール」の起爆は――



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