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17 第1世代クローン兵S-006

 尋問をするうちに時間は経ち、夕方になった。リンジーたち4人はかわるがわる尋問し、手が空いたときには――暗殺者が近くに来た時には、暗殺者を始末する。それを繰り返していた。


「聞きたいことはおおかた聞き出せたか」


 そう言ったのはミリアム。彼女の服や顔には返り血がついていた。それは決して尋問していたS-006のものではなく、襲撃してきた暗殺者のものだ。


「待って、まだ聞きたいことがある。というよりは提案かな」


 と言って、ファビオがS-006の前へ。


「これは尋問でも拷問でもなく提案なんだけど。カナリス・ルートはろくでもない連中だ。僕たちのように彼らを見限ってこっち側に来ないかい?」


 ファビオはそう提案した。

 その提案にS-006だけでなく、ミリアムも耳を疑った。それもそのはず、S-006とミリアムはつい先日に殺し合った2人。和解するという選択肢もない。


「はっ、正気か? 俺にはカナリス・ルートしかねえ。クソだろうがなんだろうが俺にそれ以外の居場所は無え」


 と、S-006は言った。


「つーか、どうせ使い捨ての兵士として扱うんだろ。どうせ俺はクローン……まともに生きることも許されていねえ人間だ。そうだろ?」


「違う……ここにいる人は皆、カナリス・ルートの関係者で、まともな人生を送れなくなった人だ。僕だって、クローンになりかわられ、いずれは殺されるはずだった。それに君のようなクローンの兵士を救いたいと、ずっと思っていた」


 ファビオは言う。


「僕の言うことを信じてくれ。これでもハリソン・エンジェルにクローンの扱いについて意見したんだ」


「その後のことは大方想像がつくぜ。ハリソンが司令官サマと同類の人間ならな。あいつらに人の心なんざ無えよ。だからどうしたって話だがな?」


 S-006は自嘲気味に言った。すると、今度はリンジーが口を開く。


「それは同意。ただ、あんたに似た人を知ってんの。オリヴィア・ストラウスっていうんだけど」


「は? 誰だ、そいつは」


 と、S-006。


「カナリス・ルートを殺して回ってる、あたしの義妹。あんたと同じようにカナリス・ルートを信じて、教えられた通りに生きて。でもね、最後には裏切られて再起不能に。ま、あんたに限ってそうなるとは思えないけど。そうなる前にあんたは死ぬだろうね」


 リンジーの言葉は彼女の目論見通りS-006の神経を逆撫でした。目の前にいるクローン兵は案外単純な男だった。


「てめえ、言ってくれるじゃねえか。俺は違う……司令官サマに認められたからな……」


 S-006は言った。


「それで認められたとでも思ってんなら大層おめでたい頭だよね。認められることより自分に正直に生きることの方が大事じゃないの? せっかく自由になるチャンスなのに」


 リンジーはさらに言う。


「兵士なら傷つくこともあっただろうね。そのときに誰があんたを気にかけてくれたか、よく考えな」


 言うだけ言うと、リンジーは空を見た。日は沈み、西の空が赤く染まっている。明かりもつきはじめ、状況はまた変わってきた。

 動くなら今だ。


「よろしく、ミリアム。こいつの手足を落として」


 そう言ってリンジーは拘束を解いた。その瞬間にミリアムはS-006に斬りかかる。狙いはその手足。だが、彼女の剣がS-006に届くことはなかった。

 糸だ。リンジーが拘束を解いた直後、アナベルの放った糸が代わりにS-006を拘束した。


「おっと、治療の手間を考えると私がやった方がいいんじゃないかな? で、クローン兵くん。抵抗すればどうなると思う?」


 アナベルは言った。

 彼女に拘束されたS-006は無理に抵抗しようとしない。これも尋問途中のアナベルの脅しが効いている。下手に抵抗すればS-006は死よりも屈辱的な目――誇り高いわけでもない彼にとっても屈辱的に感じる、尊厳を奪うような目に遭うとは聞かされた。


「……クソ。死ぬときにてめえの興奮する声を聞くよりはマシだ」


 と、S-006。

 アナベルはにやりと笑い、言った。


「行っておいで、3人とも。夜になれば視界も悪くなる。できるだけ明かりが少なくて遮蔽物が多い方を選ぶといいよ」


「感謝する、アナベル。行こうか。立ち入り禁止区域へ」


 と、ミリアムは言った。リンジーたち3人はアニムス湖の湖畔を離れ、立ち入り禁止区域の方向へ。


 その10分ほど後。リンジーたちと入れ替わるようにして金髪の青年が現れる。ヨーランだ。いつものように生気を感じさせる、その気配は異様なものだ。ヨーランの異様な気配にS-006は身震いした。


「そう身構えるな。ぼくは君を解放しに来ただけだ。その女を殺して、な」


 と、ヨーランは言う。彼の腰にはミリアムの持っているような細身の剣がある。


「ふふ……殺し愛ってことでいいのかな? 君の断末魔だけは絶対に聞きたかった。絶対に達するってわかっているからねえ♡」


 アナベルはくわっと目を見開き、そう言った。その表情には並の者は怯むだろうが――ヨーランは違う。すぐさま剣を抜き、アナベルへと斬りかかる。対するアナベルは舌なめずりをしたかと思えば、糸をヨーランの右手に絡ませた。


「甘い」


 ヨーランはさっそく、棺を開いた。そこから伸びるのは青白い手。それらが糸をかいくぐってアナベルに迫るが――アナベルは一瞬にして消える。次にアナベルが現れたのは、ヨーランの背後。


「君の生首、また見られるとは思わなかったよ♡」


 ヨーランの首に糸が絡み――ヨーランの首珠が地面に落ちた。



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