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12 クローンの世代

 S-006は立ちあがってその場から離脱しようとした。

 コンディションは最悪だ。先ほどミリアムから受けた傷もあれば、覚醒仕立てのイデアは今使えない。そのうえ、意識を失う直前ほどではないが頭痛と吐き気は残っている。そのうえ、仲間は全員殺されて生き残りはS-006だけ。


 ――こういうのを悪運っていうのか。隊長でさえ生き残れなかったってのによ。


 頭痛と吐き気と傷の焼けつくような痛みに耐えながら、S-006は最寄りの町アニムスを目指そうとした。そんなときだ、彼の前に司令官に相当する人物が現れたのは。


 それは空中に、空間をこじ開けるようにして現れた光から始まった。光は大きくなり、高さ180センチメートルほどになったときに中から人が現れる。青白いキャスケットを被った、可憐な女性の姿をした青年。リュカ・マルロー。


「いやあ、遅かったか。兵士たちが苦戦するなら助太刀も考えたんだけど」


 と、リュカは出てくるなり言った。そうやって辺りを見回した彼の視界にS-006が入るとリュカはさらに言う。


「君、生き残り? どうやらイデアにも覚醒しているみたいだけど」


「司令官サマじゃねえか。イデア……ああ、あの意味わからねえ能力。ガスを吸ったときには本当に気持ち悪かったぜ」


 S-006は言った。


「おめでとう。君はイデアに覚醒することで量産された使い捨ての旧式(老害)兵士からステップアップできた。喜ばしいことだよ」


 と、リュカ。その口調はどうにも嫌味がましいもので、裏に何か考えがあるようだった。が、S-006は詮索しない。あえてしないのではなく、戦うために生み出された彼には人の心を探る技術はほとんどない。


「何が言いたい?」


 S-006は尋ねた。


「そうだねー。不正アクセスしてきた連中を仕留めたいんだけど、その手伝いをしてくれる?」


 リュカは言った。


「何か知らねえが、仕留めるってことは殺せばいいのか。そうだろ、司令官サマよお」


「理解が早くて助かる。アニムスの町には第3世代を何人か潜伏させているから、彼らに目標を見つけてもらうよ。全く、誰だろうね。ボクの弱点を的確に……」


 リュカはここで言葉を止める。リュカは今、とんでもない可能性が頭をよぎった。

 裏切り。会員を4人失ったカナリス・ルートでは裏切り者を消すこともできない可能性がある。まだアポロやロムがそのために動いてはいるものの、手が回っていない可能性もある。


 ――ボクは情報を最低限しか関係者に回していないから大丈夫だけど他は? あの4人がやり方を明かしていなかった以上、関係者から情報が漏れたってことは。


 確認しなくてはならないことがまた増えた。リュカは眉間にしわを寄せた。


「君はボクの純粋な兵士。情報を漏らしたり次にやり損ねたら銃殺だよ。今回は生き残ってくれたしボクの目論見通りだったからいいけど」


 リュカの口調は先ほどとは打って変わって氷のように冷たかった。

 底のしれない人だ。




 リンジーたちはどうにか森を抜けてアニムスの町へと戻ってきた日は暮れており、町中には明かりが灯っている。とはいえ、それほど遅い時間ではないのでバーベキューなどを楽しむ旅行客がちらほらといる。

 町の中に入ってから少なくともリンジーは安心していた。が、彼女とは対称的にファビオは何か思うところがありそうな様子。加えて、ある特定の人を見たファビオは何とも言えない表情を見せるのだ。


「どうしたの、ファビオ」


 と、リンジーが尋ねる。


「詳しいことはゲストハウスで話すよ。とりあえずご飯でも買っていこうか」


 ファビオは答えた。

 隠しているようにも見えたが、ファビオはいずれ知っていることを2人に話そうと考えていた。あの日――アニムスに到着した日、ファビオはすべてのことを話していない。だが、クローン兵による襲撃を受けた以上、そしてクローン兵らしき人を街中で見かけた以上話しておくしかない。そう考えていた。


 そして一行はアニムスのとある店で購入した総菜を持ってゲストハウスに戻る。

 総菜のパックを開けてダイニングに入り、椅子に座り。


「町中でクローン兵を見たんだ」


 ファビオは言った。

 その突拍子もない一言にリンジーもミリアムも耳を疑った。それもそのはず、2人の中でクローン兵と言えば同じような顔をして銃やナイフをこちら側に向けてくる男たち。そのような人は町中にはいなかったはずだ。

 だが、リンジーはすぐにその認識を改める。


「……あんた、クローン兵についての情報を持ってたんだからそりゃわかるよね」


 と、リンジーは言った。


「そうだね。疑われるとは思ったけど、信じてくれて何よりだ。それでだ。クローン兵には世代があって、今日襲って来たのが第1世代。普通の人間と同じ速さで成長して同じ速さで老化して、人間と同じくらい生きると死ぬ。特別な処置は何もしていないから、本当に普通の人間と変わらない」


 ファビオは言った。


「第2世代は今日襲って来たクローン兵より戦闘に特化したクローンだね。とはいえ、成長を速めた結果、寿命がとても短かったから今では生き残りがいない。次が第3世代。第3世代は潜入に特化したクローンだ」


 さらにつづけるファビオ。と、ここでリンジーははっとした。


「ねえ、ファビオ。あんたに成り代わったやつも第3世代なんじゃないの?」


 リンジーは尋ねた。


「よくわかったね。そうだよ、僕のスペアも第3世代。彼らの特徴は暗殺技術と学習能力。人に成りすますために造られたから行動を模倣することが本当に上手い。ハリソン先生は第3世代クローン兵が主流だと聞いたよ」


 と、ファビオ。


「少しいいか? 第3世代は暗殺が上手い。ならば私たちも狙われる可能性がある。例えば、毒を盛られていたり」


 そう言ったのはミリアム。彼女はこれまで総菜に手を着けていない。口にしていたのはすべて密封されていたパン。彼女は総菜の製造元まで疑っていた。


「その可能性がないとは言い切れない……徹底的にやることをリュカが命じてくるのならありうるだろうね。彼、合理主義を絵に描いたような人だし、合理的に事を運ぶためにはタブーとされていた女装までするからね。ただ、イデア使いに毒は効きにくいからそこを意識して避ける可能性もあるとは思う」


 ファビオは答えた。

 相手取っているのはそれほどの敵だ。一行はそうして再認識した。



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