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10 VSクローン兵

 クローン兵S-006は一通り吐き終えると何やら不思議な気配を纏う。傍らには多面体のビジョンが現れ、さらに2つのもの――絶対零度に達するような冷気と、せいぜい80度前後の熱気。それらによってS-006の周りには激しい空気の渦ができた。


 ――なんだ、これは。吐き気は治まったが、頭が(いて)え……どうしてあいつらは平気なんだ。


 S-006は戦っているクローン兵たちを見た。いや、彼らは戦っているというよりは、銀髪の女剣士ミリアムに翻弄されている。翻弄されては斬られ、その血は地面を染める。発砲しても当たらず、ミリアムはその隙を突いて殺しに来る。


 ――勝てるのか!? あの野郎、強い!


 S-006が立ち上がり、ナイフを抜こうとしたとき。ミリアムの前にクローン兵の隊長――S-001が立ちはだかった。いともたやすく剣を小銃で受け止めて言う。


「よくも我が同志を殺してくれたな。お前は何だ? その剣筋はクロル家の者か?」


 S-001――S-006と同じ顔をした男は言った。


「今は違う。とにかく、私の仲間に手を出すならお前も斬り殺す」


 と、ミリアム。その口調は淡々としていたが、彼女はある特徴に気づく。これまでに殺してきた者たちとこのS-001も同じ顔をしていた。だから、彼らがクローン兵だと判断した。


「なるほど。そういうことか、クローンは……本当に戦闘用なのだな」


 ミリアムは言った。


「哀れに思うか? 戦うために造られて、お前のような普通の人間のような暮らしも許されない。そのうえ、新しいクローンが作られれば用済み。同情するか?」


 と言って、S-001はミリアムに銃口を向けた。


「どうでもいい。クローンに居場所を奪われたやつもいるからな、複雑だ。同情とか、一言で言えることではない」


 と言って、ミリアムはS-001の背後に回り込んで剣を振るう。S-001はすんでのところで躱し、発砲。するとミリアムは弾丸すべてを剣で切り裂き、S-001の持つ小銃の銃口を切り落とす。


「そうか」


 それだけを言ったS-001。小銃を投げ捨て、ナイフを抜いてミリアムに応戦する。ミリアムの剣筋を見切り、その隙をかいくぐり、斬撃。ミリアムは懐に飛び込んでの一撃を躱すが、ナイフはミリアムの服を切り裂いた。


 ――こいつ、女か!? いや、そんなことより!


 もう一撃、とS-001は踏み込んだ。が、ミリアムは一瞬でS-001の背後を取り、剣を振るい。S-001は背中に焼け付くような痛みを感じた。

 S-001のような第1世代クローンには痛みに耐えうる体の機能――異常な脳内麻薬の分泌は存在しない。

 振り返り、ナイフでミリアムの腹を刺そうとしたところでもう遅い。ミリアムの一閃がS-001の首を落とし、彼女に返り血が飛んだ。


「……これで終わりか? 私は、何人殺した?」


 ミリアムは呟いた。

 今殺したS-001で1人、それ以前に殺した人数は不明。そもそも、どのクローン兵が死んでいるのかもわからない。が、ミリアムは生死の確認をリンジーに任せている。キルスコアを知ることはないだろう。


 ミリアムはその先の様子を確認する。クローン兵に対抗するために展開していたイデアは索敵の妨げになるので消した。しばらく見ていると、辺りに妙な気流が生じていることに気づく。普通の風ではない。高温と低温がぶつかり合ったときに生じるようなもの。


 ――まだいる? 高温と低温を同時に操るなんて、イデア能力者以外にいるのか?


 ミリアムは罠である可能性を考え、一度退くことを選んだ。そして。


「え? まだいるの?」


 リンジーは言った。


「ああ。これは私の予想だが、残りはイデア使いだろうと考えている。それも覚醒したての。イデアに覚醒してしばらくは動けないし、能力のコントロールも効かないことが多い。残りの敵は、その可能性が高い」


 と、ミリアム。


「コントロールできない、ね。チャンスじゃないの? あたし、覚醒したてでコントロールできなかったときはロムからすぐにねじ伏せられたし」


 リンジーは言った。彼女は今の敵の状況を楽観しているようだった。だが、ミリアムは違う。


「コントロールできないからこそだ。特に炎や氷、雷を操る能力の場合、無差別に攻撃してくる。普通のイデア使いを相手取るときのセオリーが通用しない」


「それはそうだけど……」


 リンジーには焦りもあった。敵がいれば、いつ寝首を掻かれるかもわからない。倒せる敵がいるのなら、今やっておくべきだ。


「リンジー。君も消耗しているんだ。ミリアムに従おう」


 そう言ったのはファビオ。ミリアムとは打って変わって穏やかな口調だった。


「……そうだね。確かにゲートに干渉するだけでかなり疲れたからね。仕方ない」


 と、リンジーは言った。

 そのときだ。ミリアムが近づく気配と風の流れの変化に気づいたのは。


「やはりか……残りの敵が近づいてきている。私たちの首を取りに来たのか。イデアの制御もできていない状態で」


 ミリアムは言った。


「確かに、近づいてる。あれはイデア使いの気配でしょ。制御はお粗末だけど」


 リンジーも言う。


「リンジーとファビオは下がってて。次のやつも私がやる」


 と、ミリアム。

 近付く気配を前に、ミリアムは銀の剣を抜いた。


「次の相手は少々てこずるかもしれん」



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