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4 旅の終わり

 晃真は右手に灼熱の剣を持ち、キルスティが斬り込んだのとは反対側から斬り込んだ。剣の間合いは鋏より広い。リュカに迫り、剣を振るった。が、リュカは何のモーションもなしに青の光で剣を防ぐ。


「だから効かないんだってば。馬鹿なの?」


 リュカは言う。

 それでも晃真は熱の塊を左の掌の上に出し、リュカに向かって放った。だが、それも青い光によって防がれる。斬っても、殴っても無駄だ。晃真のいかなる攻撃もリュカには届かない。


「……仕方ないねえ、私も力を貸してやるか。人が死んでいない状況で全力は出せんが」


 エミーリアもそう言って晃真に加勢。それでも結果は同じだった。


「はいはい、ストレス発散は終わった? 今のでわかったでしょ、この空間ではボクにいかなる攻撃も通用しない。いい加減諦めてくれる?」


 リュカは青い光に守られた状態で言った。


「そうね……これで貴女を無力化できなければ諦めようか。いくよ、皆」


 パスカルは言う。それが合図だ。パスカルは炸裂弾をリュカに向けて投げ、近くにいたキルスティと晃真は再び攻撃に入る。晃真は拳を握りしめ、キルスティは麻酔を手に取る。さらにエミーリアとパスカルも加勢。

 だが――リュカに攻撃が届いた手ごたえはない。炸裂弾が炸裂した閃光に包まれ、パスカルたちのイデアは確かに消失した。一方で、リュカの能力はそれで無力化などされていない。4人の攻撃はすべて青い光の壁により、防がれた。


「はい、残念。やっぱり無理だったみたいだね。確かにこの空間がイデア能力と関係あるってことを見抜いたのはよかったよ。その辺りはまだ頭が廻るみたいだね」


 閃光が薄れゆく中、リュカは言った。


「でもね、ボクのこの空間でボクは無敵。モーゼスの言葉を借りるならそうだね、『次元が違う』かな?」


 閃光は完全に晴れた。青い壁も消え、黒と蛍光グリーンの空間の中でリュカは不敵に笑っていた。


「じゃ、あの銀髪野郎と同じやり口で殺せるのか? なあ?」


 と、キルスティ。


「さあね。いくら君の勘がよくても、ボクは焦らない。焦ればからくりがバレるからね。こういう能力の使い手は常に冷静じゃなきゃいけないの」


 リュカは言った。


「じゃ、もう一つ聞くぜ。お前、パメラ・ド・ブロイか?」


「違うよ」


 キルスティが尋ねると、リュカは即答した。


「……いや、そうだなあ。本名はパメラじゃない。けど、そう呼ばれていることもあるね。ボクにもいろいろと事情があるんだよ。君たちに話すことでもないんだけど。というわけだから、君たちの旅はここでお終い」


 リュカはそう言って携帯端末にメッセージを入力する。




 場所はアニムスの診療所に移る。オリヴィアとアナベルのいる病室にユアンがやってきた。


「オリヴィアの具合はどうかな」


 ユアンは尋ねる。


「痛みはないよ。けど……何もしたくない。カナリス・ルートの人間を殺さないといけないことはわかっているけど……」


 オリヴィアは答えた。


「そうだ、ブルックス先生。腕のいい錬金術師に頼みたいことがあってね……オリヴィアの死体を偽造してほしいんだけど」


 オリヴィアに続き、アナベルも言う。その表情と口ぶり、言葉から何かを企んでいるようでもあった。アナベルにそう言われ、ユアンは眉がぴくりと動く。


「死体の偽造……生きた人間を作るわけではないからぼくにもできる。ただ、死体の偽造をぼくに依頼しようとする背景を知りたいな。話せるかな?」


 と、ユアン。


「オリヴィア、命を狙われているんだよ。カナリス・ルートから。今のところ、ここにそれらしい気配が近づくことはないけど、いずれ見つかるだろうと思ってね。その前にオリヴィアは死んだんだって知らせておくべきだと思うんだよ」


 アナベルは答えた。


「カナリス・ルート……聞いたことのない組織だ。何をしているのかも見当がつかないが、人の命を奪いに来るとなると裏稼業でもしている組織かな?」


「いや、もっと恐ろしいよ。レムリアの秩序や争いの8割に関与しているといわれる、武器商人たち。これまで表に出てくることはなかったけど、構成員が殺されているからね。正直何をしてくるかわからないね」


 と、アナベル。ユアンは顔をしかめた。


「医者やってるとろくでもない人間と関わることも多いけど、そんな人と関わったことはなかったね。わかったよ、オリヴィアの細胞から死体のダミーを作るよ」


 ユアンは何かを察したようにそう言うと、一度病室の外に出た。


「アナベル……どうしてあなたはわたしにここまでよくしてくれるの……わたし、出来損ないだよ? パスカルや晃真にも愛想を尽かされるくらいの」


 オリヴィアは言った。

 そう言われたアナベルは少し返答に困っていたようだったが。


「私と同じだと思ったからだよ。本心からは人を信じ切れていない、何者にもなれない、善悪どちらでもない。それが私と同じ。今はどうかわからないけど、昔の私は少なくともそうだった」


 アナベルは答えた。


「昔のアナベル……どんな人だったんだろう」


「そこは想像にお任せだねえ。人が思うだけ私の過去の可能性があるということで」


 オリヴィアに過去を聞かれればアナベルははぐらかす。

 彼女は過去を語らない。過去に興味がないのか、あるいは相当なトラウマがあるのか。



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