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22 ロムの凶行

 疑念が拭えぬまま迎えた出発の日。ロムに言われるまま車に乗り、アニムス――大陸中央の山脈をこえた先にあるレムリア北西部の町へと向かう。ロムに何をするのかと聞いてみれば「そのうちわかる」と答えるだけ。

 ただ、ロムは山脈の道を通るときにこう言った。


「あんたを連れ出したのはパスカルでしょう。あの女、何のつもりで連れ出したの?」


 その口調は淡々としたもので、感情がこもっているのかも怪しい。


「パスカルは……ダンピールを保護している。わたしを連れ出したのも保護するためだって言っていた。連れ出されてからは、わたしのやりたいことに協力してもらうために一緒に――」

「そう。あの女、ついにカナリス・ルート殺しにまで手を染めたって言うじゃない。レムリアの秩序に関わるわ」


 と、ロムは言った。

 彼女を前にして、オリヴィアはカナリス・ルート殺しの真相については何一つ言い出せなかった。それと同時にオリヴィアの中に様々なものが湧き上がる。


 ――ロムは何を考えているの? まさか、ロムがわたしを……


 オリヴィアの中で募る不安。それは予想外の形で的中することとなる。


 2人が乗った車は山脈――スラニア山脈を抜けた。景色は茶色と灰色と白の風景から新緑の生い茂る風景へと変わる。ここまで来ればアニムスはそう遠くない。休憩を挟んで約2日もかかる距離であった。

 山脈を抜け、1時間ほど車を走らせたところでロムは車を止める。ここは深い森の中。


「オリヴィア、ここよ」


 ロムは言った。オリヴィアはロムが降りろと言っていることを察し、車を降りた。

 オリヴィアはロムに案内されるがままに森の奥――道からより外れたところへと歩いてゆく。果たしてそこに殺すべき人がいるのだろうか。

 車から少し離れたところまで来ると、ロムはオリヴィアの方に向き直る。そしてロムは口を開く。


「オリヴィア……あなたを生かしていたことが間違いだった。能力には利用価値があったからね、出来損ないではあったけれど」


 ロムはオリヴィアの思いもしないことを口にした。


「え……」

「黙りなさい」


 オリヴィアが声を漏らせばロムは即座に黙らせる。


「あなたは、私の手駒になれるはずだったの。なのに、カナリス・ルートの会員を3人も殺したと言うじゃない。これで全部パーなのよ……!」


 と、ロムは言う。


「ロム姉を探すためだったんだよ……なのに」

「黙りなさいと言っているの」


 再びロムはオリヴィアを黙らせる。


「私はカナリス・ルートの一員。同業者が殺されたとなっては黙っていられないのよ。だから、お前をここで処分する。手駒にできればと思って生かしていた。結果がこれよ。やはり出来損ないは出来損ない、あの悪魔の子は悪魔ってことね。

 そうそう、あなたの仲間はもうここには来ない。話によれば、皆あなたがいて迷惑だったみたいね? あなたが出来損ないのくせに人を殺すことばかり考えていたから。愛想をつかされたみたいよ」


 ロムはホルスターにあった拳銃を抜き、銃口をオリヴィアに向けた。イデアは展開していない。その様子を見るに、ロムはオリヴィアをその程度の相手としか思っていないらしい。


「何か言い残すことはあるかしら?」


「わたしの知っているロム姉は何だったの……?」


 オリヴィアは声を絞り出した。イデアを展開しようにも、感情が乱れすぎてできない。

 ロムは何も答えずに引き金を引こうとした。だが――そこに乱入者があった。


「オリヴィアを傷つけるのをやめてくれるかな?」


 その声。オリヴィアがロムの背後に注意を向けてみれば、そこには見覚えのある姿が。

 マゼンタのメッシュが入った鮮やかな水色の長い髪、ロムに並ぶほどの身長、独特の服装。アナベルだった。ロムの背後に佇み不敵な笑みを浮かべて鮮やかな髪をなびかせる。その妖しい姿は今のオリヴィアにとって頼もしく見えた。


「いつの間に私の背後を取ったというの?」


 ロムは言った。そのときには、ロムはイデアを展開していた。地面に展開された2本の座標軸だ。これでロムはいつでもアナベルに攻撃できる。が、果たして規格外の怪物(アナベル)にロムの攻撃が通用するのか。

 アナベルは答えた。


「最初から❤ オリヴィアを言葉責めしていた君の悲鳴はどんな声なんだろうね?」


「ふん、その挑発には乗らないわ」


 引き金を引き、銃弾がオリヴィアの右胸を貫く。オリヴィアの胸からは血がだらだらと流れ出て彼女は崩れ落ちるように倒れた。

 コントロールがぶれたらしく、ロムは歯痒そうな表情を見せ、アナベルから一気に距離を取った。


「一瞬だねえ。外しちゃったよ」


 と、アナベル。


「それはここに置いていく。殺すなり犯すなり勝手にしなさい」


 ロムはそう捨て台詞を吐き、車に乗り込むとその場を後にした。

 その様子を尻目にアナベルはオリヴィアにかけより、彼女を抱きしめた。


「あんな人のことは忘れればいい。ここからはアニムスが近いからそこに身を寄せようか。大丈夫、君は死なせない」


 アナベルはイデアを展開し、オリヴィアの傷を塞ぐように縫い合わせた。これでしばらくは持つだろう。



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