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20 置き土産

 ハリソンの死、オリヴィアの離脱。それからしばらくして、他の5人――パスカルたちやエミーリア、キルスティが合流した。


「この様子を見るに戦いは終わったって感じか。あっけない」


 と言ったのはキルスティ。彼女は傷だらけの内装や血だまりを作るハリソンの遺体、傷を負った晃真を見て言った。


「ま、クソッタレ聖職者は心臓が弱っていたと聞く。心臓発作で死ねば案外あっけなく終わるし、オリヴィアも晃真も強い。どっちにしろ、ハリソンは討ち取った。肝心の引きつぎは阻止できなかったが」


 キルスティに続き、エレナも言う。


「で、オリヴィアがいねえな。治療しようと思ったがこの場で治療できるのは晃真だけってか?」


 キルスティは晃真に近づいて言った。


「オリヴィアは……ロムとかいう人に会いに行った。止めようとしたがオリヴィアは……必ず戻るとは言っていたけど……」


「あー、わかったから。治療するぜ。どういうわけか傷が微妙にふさがってやがる。失血の心配がないってことは安心だが」


 キルスティはここで治療に入る。晃真の服を脱がせ、ハリソンとの戦いで負った傷の状態を確認する。

 それと同じとき。ヒルダはハリソンの亡骸から妙な気配を感じていた。死んでいるのに、生きている。いや、死体から何かが誕生あるいは復活しようとしている。これは一体――


「伏せて! まだ斃せていない!」


 声を上げるヒルダ。

 直後、切り刻まれたハリソンの亡骸から光の塊が溢れ出して人の形を成した。人の形をなした光の塊からは翼が生え、瞬く間に空中に浮遊する。一言で表すならば天使、あるいは神。ハリソンの亡骸から現れたものは神々しく、あまりにも眩しすぎた。


「ヒヒッ……まだ私が直接ぶっ殺せる相手が残ってたってか?」


 キルスティは言う。


「いや、キルスティの弱点よ。この相手は。すでに一度死んでいるんだったら毒も暗殺も効かない。やるならハリソンが生きている間にやるべきだったのかも」


 治療を中断しようとしたキルスティに向けてパスカルは言った。


「それなら仕方がない。じゃ、私は医者の仕事でもしているよ。そっちは任せた」


 と、キルスティ。

 そんな一行を、光の異形は静かに見下ろしていた。


「うん、やってみるよ。私だって戦えるんだって証明しないと」


 そう言ったのはヒルダ。彼女はすでにガトリングの形をしたイデアを展開しており、銃口を光の異形に向けていた。

 引き金を引く。イデアの弾丸は角度関係なく光の異形へと命中する。これで注意は引けた。が、効いているようには見えず。光の異形はヒルダに狙いを定めて光の刃を放つ。


「させない!」


 パスカルが壁を展開し、光の刃をはじいた。と、そのとき。前に出たエレナとエミーリア。


「おら、撃ってこいよ、その光をよお」

「やっぱやるしかないねえ。この力で」


 2人は同時に言った。

 エレナもエミーリアもイデアを展開し、他の仲間の前で光の異形を迎え撃つ。光の異形は光の刃を放ってきた。するとさらにエレナが前に出て受け止め。


「待ってたぜ! クソッタレ聖職者!」


 破片のビジョンが光の異形を切り裂いた。異形の動きが鈍る。その隙にエレナがエミーリアの方をちらりと見ると、エミーリアもまた異形に近づいていた。


「やっちまいな、エミーリア! ここにはあんたを悪魔と言う人はいないぜ!」


 と、エレナ。

 エミーリアはわかっている、と言わんばかりの勢いで右の拳――禍々しい外骨格を纏った拳を異形に叩き込んだ。光の異形を禍々しいものが侵食する。


「死後のイデアでもイデアであることには変わりない。もう一発だよ!」


 エミーリアの拳がもう一発。ダンピールでもけた違いの膂力を誇るエミーリアが、屍の山によって得た、イデアを破る力。それは死後に残るイデアさえも打ち砕く。

 光の異形はあっけなく粉砕され、光の粒子となって虚空に消えた。その様子をしばらくエレナは見ていたが。辺りの様子から今の状況を思い出す。


「ったく、死んでもこうやってイデアが消えないのは厄介な話だ。で、オリヴィアはロムって人に会いに行ったと」


 エレナは言った。


「ああ……もうどこにいるのかもわからない」


「なるほどねー。しばらくここに残ってオリヴィアを探すか?」


「俺もそうしたい。それに、最近のオリヴィアはたまにおかしいところがあった。何か焦っていたような――」


 晃真が言いかけたとき。

 ここにいる6人は言いようのない感覚に襲われた。近いのは恐怖か。心の底に恐れているものを投げ入れられたかのような感覚だった。

 これ以上オリヴィアを追うな、といった意志がこの空間にあるようでもあった。


【オリヴィアを追いかけるな】


 脳内に直接響く声。これは6人全員が聞いていた。この声に反抗しようとする意志を持てば、さらなる恐怖が襲う。


「オリヴィアが戻ってくるのを待つしかない」


 エミーリアは言った。


「大丈夫だ。オリヴィアは必ず戻ってくる。オリヴィアは、私たちが思うより強いのかもしれない」


 と続けるエミーリア。

 この場では誰もエミーリアに反論しなかった。オリヴィアを追う意志を持てば、それ以上の恐怖で精神が壊されそうになるから。



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