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19 神殺し

 全身は痺れても、影は動く。オリヴィアは影を伸ばしてハリソンを切り裂こうとした。


「気づきましたか」


 と、ハリソン。このとき彼は影による攻撃をかわして、光の剣を持って。オリヴィアがさらに狙いをつけてきたとき、ハリソンは伸びてくる影を光の剣で切り裂いた。影は霧散する。


 ――わかってるよ、そんなの。痺れているのは、わたしの体なんだから。体とイデアは違うから!


 ハリソンが邪魔な影を切り裂いたことでオリヴィアは無防備な状態となった。ハリソンはそこに斬り込む。が、オリヴィアは瞬時に影を再展開し、ハリソンの剣を相殺した。影も光も粒子となって虚空に消える。


「わたしを……ダンピールを簡単に殺せると思わないで」


 オリヴィアは言った。

 その瞳にはどす黒い意思があった。ハリソンの思想やセフィリア教の教義とは相反するような。彼女はまさに悪魔の子だった。


「ダンピールですか……殺せますよ。この手で何人も殺しましたからね」


 ハリソンは影をかわしながら言った。


「彼女たちはモンスターだ。人になりきれず、中途半端でアイデンティティも危うい。空っぽな存在だ。だからどれだけでも危険なことができる。それこそ、教会の焼き討ちだって」


 そう続けるハリソン。再び光の翼を展開し、剣をその手に握る。神々しくも眩しすぎる姿を取り戻す。

 対するオリヴィアは、彼の言葉に動揺した。ハリソンの言葉はあまりにも正しすぎた。


 ――中途半端。わたしだ。わたしは……何? ロム姉に教えられた通りに人を殺してきたけど!


「わたしは……空っぽなの……?」


 オリヴィアの口から出た言葉はそれだった。ハリソンはその反応を確認し、わざと隙を作って光の刃を放った。


「それはこの町にいるロムが教えてくれますよ。今すぐ彼女に会うことはできませんがね」


 ハリソンは言った。

 彼なりの挑発だ。


「そうだよね……だから、あなたを殺してロム姉に会いに行く! 邪魔をしないで!」


 オリヴィアはその隙に誘われたかのように影を伸ばす。その影はハリソンの動きを読んでいたかのようにうねるが――ハリソンは何のモーションもなく光の刃でかき消した。それを皮切りに反撃に出るハリソン。最初から計算づくだったらしい。

 光の剣の間合いにまで近づき、オリヴィアに斬り込む。オリヴィアもどうにか影ではじくが、影だけが霧散する。力が、足りない。


「ああああああっ!」


 影が耐えられなければ、避けるまで。オリヴィアはさらに迫る光の剣、光の刃を躱す。躱してから、部屋の隅に展開していた影を利用して光をかき消す。光の剣は刀身の半分を失った。


「ふむ……」


 それでも冷静な様子のハリソン。光の剣を再生し、オリヴィアの展開した影を再び斬ったそのときだ――ハリソンのイデアがひどく乱れたのは。

 ハリソンは左手で胸を押さえた。


「……この戦いが最後ですか。刺し違える覚悟でいなくては」


 ハリソンは呟いた。

 彼にできた隙を狙うオリヴィア。今度は下からも狙おうとした。が、彼があらかじめ展開した光の刃によって影はみるみるうちに薄れゆく。


 その戦いの様子は、影の中で守られた晃真にも伝わっていた。神のごときハリソン相手に立ち回るオリヴィアは悪魔のよう。そして、正気を保っているのかさえ怪しかった。

 そんなオリヴィアの状態を察した晃真は彼女がここで死ぬのではないかとさえ感じていた。


「オリヴィア……やめてくれ……無理だけはしないでくれ……あんたが死ねば俺は……」


 晃真は呟いた。その声は影のイデアを通じてオリヴィアに届くこととなる。


 ――やめてくれ


 オリヴィアの脳裏に響く晃真の声。


「ごめんね、晃真。この人だけは殺さなきゃいけない気がする。この人を殺して、ロム姉に会ったらまたゆっくり話そうね……」


 光の刃を防ぎ切り、オリヴィアは言った。

 今がチャンスだ。オリヴィアは部屋中の影という影を刃と化し、ハリソンに向けて放った。


 ――引っ掛かるところはあるけれど、殺すべき人であることには変わりない。


 影の刃は光を飲み込み、ハリソンに届く。ハリソンの体は影の刃によって刺され、斬られ、刻まれ。


「そうですか……貴女は……」


 ハリソンはそう言いかけて絶命する。影によって切り刻まれた肉片は、礼拝堂の床に叩きつけられた。あまりにも無惨な死にざまだった。


「……行かないと。ロム姉のところに。ごめん晃真、後で戻る」


 オリヴィアはイデアの展開を解除して言った。


「待て、オリヴィア! その状態で――」


 晃真が見てみれば、オリヴィアは無傷。むしろ、傷を負っていたのは晃真の方。とはいえ、彼の傷もなぜかある程度は塞がっていた。オリヴィアが晃真を守るように展開していた影が傷を塞いだのだろう。

 オリヴィアは振り返ることもなく、礼拝堂を出てある場所へと向かうのだった。晃真はそれを見送ることしかできない。そのときのオリヴィアは焦っているようにも見えた。


「あんまりだろ……オリヴィア……俺の話くらい聞いてくれ……」


 晃真は言った。



神は死んだ?

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