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15 神の代理人

 教会の中心にある建物。かつて礼拝堂だった建物に晃真はたどり着く。ドアをあけてみれば、そこには1人の中年男性――ハリソン・エンジェルがいた。教会が襲撃されているというのにハリソンは穏やかそうな顔で待っていたらしい。ただし、その顔色は悪く、何か病気でも患っているかのよう。


「おや、貴方ですか。てっきり外で暴れていた彼女が来るかと思いましたが」


挿絵(By みてみん)


 ハリソンは平然とした様子で言った。感情の起伏が穏やかなのか、相当なポーカーフェイスなのか、晃真からはハリソンが焦りや怒りを抱いているようには見えなかった。


「タイミングの問題だ。あんたを殺すと息巻いていたのは事実だが、俺より遅れているらしい」


 と、晃真は言った。


「そうですか。神は貴方を選ばれましたか。それでは、貴方のやり方を参考にしましょうか」


 と、ハリソン。

 彼はほんの少し微笑み。


「光あれ――光より審判の刃は生まれん」


 光の塊を顕現させ、さらにそれを波打った剣の形へと変えた。


「さあ、始めましょう。私が死んだところでこの教会もカナリス・ルートも、何の影響もありませんからね」


 と、ハリソンは言った。

 晃真もそれに応じるように灼熱の剣をその手に持った。戦いが、始まる。先に動いたのはハリソンだった。己の死に意味など見出しておらず、その恐怖を捨て去っているからこそ動けた。剣の間合いまで近づいて斬撃を繰り出す。対する晃真も灼熱の剣で受け止めた。

 斬撃は重い。晃真は踏ん張りながら次の動きへ。ハリソンの剣を弾き、今度は晃真が斬りかかる。やはりハリソンはいともたやすく受け止める。


「八幡昴よりは楽な相手か」


 そう言ったのは晃真。するとハリソンは眉をぴくりと動かし。


「……そうですか。貴方がやったのですか、昴を。

 ――この者に天罰を与えたまえ」


 ハリソンは光の剣からまばゆい光を放った。それは同心円状に広がり、晃真が避けることはほぼ不可能。晃真は光を斬ろうとしたが――そんなことは無駄だ。晃真の全身にビリビリとした感覚が走る。


「昴は我々の大切な兄弟でした。我々の盾となり、外部から我々に仇なす者を斬り伏せていた。そんな彼が斃れたのです。相当な事でしょう」


 ハリソンはそう続けた。その言葉を聞きながらも晃真は動けないでいた。どうやらハリソンの放った光は一時的に動きを封じるらしい。


「昴は、死んでも代わりがいるとは言っていましたが何もこんなに簡単に斃れていいはずがありませんでした。彼の言葉を借りるとすれば、弔い合戦です」


 と言ったハリソンは動けない晃真に再び近づいた。そんなとき、晃真はイデアを展開。熱の塊は壁のようにハリソンを阻む。


「あんたは弔い合戦と言うだろうが、俺は八幡昴の真意なら知っていたよ。言ったところで信じるはずはないだろうが」


 晃真はそう言い、灼熱の壁から離れてイデアを――灼熱の剣含めたすべてを展開しなおした。もう、晃真は動ける。


 ――あの光だけは撃たせてはいけない。俺には防げないからな。とはいえ――


 晃真はハリソンと斬り合える位置にまで距離を詰めた。からの、斬撃。ハリソンは斬撃を受け止めるが、今度は晃真が熱の塊を放つ。斬撃はブラフにすぎない。

 だが、ハリソンはその剣に先ほど放とうとした光を纏う。晃真はそれを見逃さず、その隙にハリソンの懐へと飛び込んで灼熱の剣を消す。


「させるか」


 と言って、ハリソンの脇腹に右ストレートを叩き込んだ。


 ――なんだ、これは。戦う人間の体じゃないだろう……。むしろ、衰弱した人間の方が正しい……?


 違和感こそ覚えたが、ハリソンの展開していたイデアは消える。晃真はここでできた隙を狙い、拳に熱の塊を纏ってもう1発。ハリソンはこれで吹っ飛んだ。


「……おかしい」


 晃真は呟いた。これまでに戦った昴と比較しても明らかにハリソンは弱い。そもそも、この教会にいるロッティ以外の人間が弱いと晃真は感じていた。


 ――何もかもおかしい。信者の狂気的な様子はまだわかる。わからないのはこの教会がなぜセフィリア教から切り離されたのか、ハリソン・エンジェルがなぜここまで弱いのか。それに、今までのやつらみたいにピリピリした空気がなかった。なぜだ……?


「何がおかしいのですか?」


 ハリソンはそう言って立ち上がろうとする。が、ハリソンは胸を抑えて眉間にしわを寄せた。


「いや」


 晃真は言った。今こそハリソンを殺す最大のチャンスであったが、晃真には気になることがありすぎて、ハリソンが命そのものをなげうって何かをしてくるような気がして行動ができなかった。昴がそうだったから。


「私を前にして、相当油断しておられるようですね。死にますよ」


 ハリソンは言った。先ほどまでとは雰囲気が変わっている。晃真が気づかないうちにイデアを展開しており、その瞳は金色に染まっていた。さらに彼の背には金色の翼が生えている。晃真はこのとき、教会に来て初めてハリソンの圧を感じた。


「なるほど、隠していたというわけか」


 晃真は呟き、再び灼熱の剣をその手に持った。


「……ええ、こうなれば私はもう戻れないでしょう」


 ハリソンは呟いた。



ハリソンの信じる神が実在するか否かは、神のみぞ知る。

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