12 戦況を変える簡単な方法
動きのない中で現れたエミーリア。彼女の声と気配は影のドームの中にいるロッティにも伝わっていた。
「先に進まず、晃真はここにいないしあるのは影のドーム。何かあった……いや、変な敵と戦っていたと見たが、果たして」
エミーリアは言った。
「その通りだよ。わたしも晃真も中にいる戦士さんに有効打がなくて。だから閉じ込めた」
オリヴィアは答える。
「いい判断だ。ここからは、私に任せな。私ならその女を倒せるかもしれない」
「どうしてエミーリアが? この人……この中にいる人、攻撃を止めるような」
「大丈夫だ。私に任せな。小細工は無意味だってわからせてやるからさ」
オリヴィアの言葉を遮るようにエミーリアは言った。オリヴィアは心なしかエミーリアが頼もしく見えた。いや、エミーリアはオリヴィアからすればいつも冷静に構えており、安定感があって頼もしい人物だ。普段から頼もしい彼女が今はより頼もしく見える。
「エミーリアなら、できそう……おねがい、この人を斃して」
オリヴィアは言った。
「任せな。後でどうやって斃したか教えてやるからさ」
と、エミーリア。
オリヴィアは展開していたイデアを解除し、閉じ込めていたロッティを解放した。ロッティはその瞬間、オリヴィアに襲い掛かって来た。が、ロッティとオリヴィアの間にエミーリアが立ちふさがる。
「行かせないよ。お前の相手は私だ。ちょうど閉じ込められて暇していたんだろう?」
と、エミーリア。
「何がどうだか知らないけど、立ちふさがるのならお前の屍を踏み越えてでもあいつを追う。どうせ先生を殺そうとしているんだろう?」
ロッティはこの瞬間、オリヴィアを深追いしようとはせずにそう言った。
2人がにらみ合う中でオリヴィアは先に、晃真が少し前に向かった方へ進む。その方向に何があるのか分かったことではないが――
「殺そうとしても無駄だ。先生が死んでもいずれその地位を継ぐ者がいる。彼を殺したところで次も同じ。この教会に終わりなどない」
と、ロッティは続ける。
「大層なことだねえ。ならば、全員殺してやろうか。終わらせるにはそれが一番早い!」
エミーリアはそう言いながらイデアを展開した。普段であればこうすることはない。だが、今回に限ってはこの教会の敷地内に屍の山がある。それも大量に。エミーリアの右腕は黒く禍々しい外骨格を纏った。
「ふん、無駄なことを。力押しで私に勝てると思うな」
先に動いたのはロッティだった。彼女は青空のようなイデアを展開してエミーリアに突っ込む。オリヴィアにしたのと同じようにメイスを振り上げ、振りぬいた。対するエミーリアは右手でメイスを受け止めた。
「かかった……!」
ロッティは己の術中にエミーリアをはめたと確信してほくそ笑む。だが、エミーリアはここから反撃に移る。
「何がかかった、だって?」
エミーリアはメイスを払いのけ、体勢を整えるとよろめいたロッティに右の拳――禍々しい鎧を纏った方の拳を叩き込んだ。やはり、止まらない。どころか、エミーリアが殴った場所のイデアの密度が薄れた。
ロッティはそのパワーに吹っ飛ばされ、壁にぶつかった。とはいえ、ロブのように壁にクレーターは作らなかった。ロッティは壁にぶつかった瞬間、その場所で自身を固定した。
「……やってくれたな。まさか貫通してくるなんて」
ロッティはそう呟きながら能力を一度解除する。そうでもしなければ自分の肉体が崩壊しかねない。対するエミーリアはといえば、ロッティへの追撃を試みようと迫って来ていた。
「右腕はまずい……! 固定できない相手なんていないはずだったのに……!」
咄嗟に立ち上がり、突進してくるエミーリアを躱す。エミーリアの拳はロッティではなく壁に当たり、壁に大きなクレーターを作る。
――外したか。まあいいか。どうせあの女の精神さっきの一撃で乱れた。
エミーリアはロッティの方へと向き直る。その時、ロッティはエミーリアの背後を狙っていたのか、動きを止める。
「どうした? 怯んだかい?」
と、エミーリアは言った。
「……そんなことはない。私には神がいる」
ロッティはそう言うとメイスをぐっと握りしめ、エミーリアとの距離を詰める。が、このときにこれまでと決定的に違うことがあった。それはフェイント。ロッティは左を狙っているようで狙いを定めていない。エミーリアは無防備な部位への一撃をうけないためにフェイントも避け続け。だが、その時はやってくる。
「見えた。力押しのお前なら、きっとどこかに隙があるはずだった」
ロッティはエミーリアの死角に回り込み、その腕で防御ができない左脚に一撃を入れた。無防備な部位だったからか、エミーリアはその場に固定される。
「私の勝ちだ。異端に私を斃すことなんてできはしない。私には神がついておられるからな」
ロッティはそう言ってエミーリアにメイスを叩きつけた。1発にはとどまらず、何発も。だが、エミーリアは黙って殴られるだけはなく――右腕の届く範囲にメイスが入った瞬間、メイスごとロッティを吹っ飛ばす。
「じゃあ私は悪魔を名乗るか。神の敵対者は悪魔だと相場が決まっているからねえ」
吹っ飛ばされるロッティを前に、エミーリアはそう言った。




