2章4 飛行艇の中
飛び立った飛行艇の中の空気は重かった。襲撃に失敗したうえ、待機していた者たちとフードの女以外は全員が殺された。
誰がメンバーを殺したのかも明らかにならないまま、フードの女だけが飛行艇の中に戻ってきたのだ。彼女は一通りの治療を受けたようで、今はぴんぴんしている。
「グラシエラ……あんたも戻ってきたのか」
飛行艇で待機していたルートビアは言った。
「ええ。彼ら、只者じゃないでしょ。それに私の能力とは相性が悪かったわけよ」
グラシエラと呼ばれた女はそう言った。
彼女がフードを脱ぐと、綺麗な顔と銀色の長い髪が露わになった。
「そうだったのかよ。いや、あそこに金髪ツインテールの女いたか? あいつがいたなら……」
「……警戒すべき相手みたいに言っているけれど、私からすれば大したことなかった。それに、そっちは見失った。それは後で話し合うべきでしょう」
それだけを言って、グラシエラは飛行艇の内部――それも責任者に近い者たちが集まるような会議室に向かった。
会議室にはすでに何人もの男女があつまっていた。ウェーブがかった黒髪を肩まで伸ばした、顔の整った男はグラシエラの姿を見るなり口を開く。
「全滅に近い状態だったから、何があったかと思ったぜ。とりあえずお前は無事か、グラシエラ」
「ええ。どうにか。私が死んでも後味が悪いでしょ」
グラシエラはそう答えた。
「そうともいう。それと、報告を頼む。ほら……俺、一応ここのリーダーだろ?」
「はいはい」
と、グラシエラは言って椅子に座る。
グラシエラ以外のメンバーは眠そうにしていたり、机の上に足を置いていたりとやりたい放題にしている。ここには秩序というものが見受けられない。少なくともグラシエラの目で見れば。
「襲撃対象は4人。ルートビアの言うオリヴィア・ストラウスも含まれていたけれど、私があの4人を分断したときに崖の下に消えた。生存の可能性があるにしても、あそこには錬金術の魔物……アブソルバーが生息している。よほどのことがない限り生存の可能性は薄いでしょうね」
グラシエラは一度、言葉を切った。
「アブソルバーなあ……駆除できればいいんだがなぁ?」
この飛行艇のリーダー・クラウディオがぼやく。が、それを無視したグラシエラは。
「私が戦ったのは3人の方。ご存知の通り、私は恐怖を操るイデアを使うのだけど。まあ相手がイデアを直視しなければ発動することはない。予想できるでしょ、相手がどうやって対処してきたか」
「そーだね。見ないで攻撃できるならその意味なんてない。盲目のやつでもいたのかよ?」
刺々しいフードを被った長髪の少女が口を挟んだ。
「盲目、ではなかった。見ないで弾丸をばらまいてきやがった。一応、たかが弾丸と思ってはじいてみたわけ。それでも追いつけなかった。飛行艇に取り付けた機関銃みたいな撃ち方をしてきてたしね……リンジーも銃声くらい聞こえたでしょ」
と、グラシエラ。
「あん、だから早かったのかよ。納得。しっかし、そういう相手はともかく別動隊が正体不明の相手にやられたってことについてはどうなんだよ」
と、リンジー。すると。
「アブソルバーじゃねえんだよ、それが。わかってるのは、そいつが躍るようなやり口で別動隊を全滅させやがったってことだ。追跡チームをどうこうしたのとは関係ねえ」
クラウディオはそう返した。
「それでよ、調査拠点にいた連中はどこに向かおうとしているんだっけか? お前に聞いてるんだよ、ヴァルト」
クラウディオの言葉を聞くと、水晶を見つめていた少年は言った。
「いったんスラニア山脈の第3調査拠点に向かってからマルクト区に向かうみたいだ。一人はぐれても目的地を変えることはないみたいだよ」
ヴァルトはそう答える。
すると、クラウディオは通信機に文字を打ち込む。ここではない場所にいる、とある人物に向けてのものだ。
「ま、俺達は俺達で動いていいわけだが。問題はボスたちがどういう行動に出るかだな。実際、俺もボスもこっちでの活動以外にやることがあってよ」
と、クラウディオは言った。
「戦闘はあたしたちに任せてりゃいーだろ。そもそも、リーダーはそっちでしかできないこともあるんだから余計なことしなくていいっての」
リンジーは言う。
「……まあそうだな。当分は、目的地はマルクト区ということでいいだろ。もしイレギュラーがあれば、その都度変更する……でいいか?」
「いや、私がプランCまで考えたよ」
グラシエラが口を挟んだ。
「詳しく」
「プランAはマルクト区への直行。プランBはボスたちとの合流、もちろん事前の連絡ありで。プランCは私たちのセーフティハウスに移動して、あの3人と全滅させてきたやつの動きを見て行先を決める」
と、グラシエラ。
彼女はこの中でも作戦についてよく考えているようだったが。
「ま、どれでもいいんじゃねえか? 俺とリンジーとグラシエラとルートビアでどうにかなるはずだ。当分はプランAで行かせてもらうぜ」
クラウディオは言った。
グラシエラとは対照的に、彼はあまりものごとを深く考えていないようでもあった。




