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6 それぞれの思惑

 エレナの部屋。パスカルとヒルダは何か思うことがあるような顔で戻ってきた。


「おかえり。何か変わったことは?」


 エミーリアが出迎える。


「いたよ、ターゲットが。私もあの写真は見たけどね、写真の人で間違いないと思うよ。違うのは服装くらいだったから」


 と、パスカルは答えて紙袋をテーブルに置いた。


「やるなら早い方がいい。おそらく私やヒルダの顔も覚えられている。それからアナベル。あいつ……行動の意図がまったく読めない……!」


 そう言った彼女はどこか焦っているようだった。口調にも表情にも出ていた。普段は穏やかな彼女からは予想もできない。


「落ち着きな。私たちはエレナと連携してヤツを斃しに行くんだろ?」


 エミーリアは言った。


「そうだけど……あまり時間はない気がする……私たち、もうカナリス・ルートの人間を3人殺しているの。モーゼス・クロルに林麗華、それから八幡昴。もうどこから攻撃されてもおかしくないはずだからね」


「……ああ。私もそれは思う。だがね、パスカル。ここにいるのがハリソン・エンジェルだけだとは思えないんだよ。自由に動けるヤツがここに来ていれば私たちを攻撃することなんて容易い。そう思わないかい?」


 と、エミーリア。

 パスカルも彼女の言い分には納得したようだった。


「それもそう……だね」


 パスカルはどこか腑に落ちないところもあるようだった。が、彼女もわきまえることはわきまえている。


「とはいっても、早めに片付けておきたいのは事実。噂によればヤツはもう長くないと聞くぜ」


 会話に割り込む声。エミーリアとパスカルは声の方向を見た。

 エレナだった。


「いやー、調べてみたんだけどよお。あのクソッタレ聖職者、心臓が弱っているんだと。ま、中年のイデア使いにありがちなことではあるんだよなあ」


 と、エレナは続ける。

 このところ、40歳前後で死ぬ人が増えているという。そのような人の半分以上がイデア使い。しかも、イデア使いは一部の例外を除いて短命らしい。


「……なるほど」


 パスカルは何か思いついたかのよう。


「パスカル。お前の考えることは、クソッタレ聖職者を早いところ片付けて後に続くやつに何も引き継がせねえってことだろう? いい線いってると思うぜ」


 と、エレナは言った。


「よくわかったのね。私より年下なのに本当に頭が切れるし観察力もある。かなり頼りにされてるでしょ?」


「あー、聞こえねえ。私はただの暗部の人間だぜ。頼りにされるのは杏奈だけでいい。私は常に枠の外にいるべき人間だからよお」


 エレナは言う。

 それは彼女なりの謙遜でもあった。


「杏奈も確かに頼りになるけど貴女もね。先に来て情報を集めてくれてありがとうね」


 パスカルは言った。


「いいってこった。で、いつやる? 私もオリヴィアも、晃真もキルスティも準備はできている」


 エレナは言った。


「早ければ明日にでも。ターゲットがくたばる前に仕掛けたいからね」




 その日の夜。

 ヒルダは妙な気配を感じ取って目を覚ました。これはイデア使い特有の気配。その気配は昼間に接触したハリソンのそれとは異なるうえに、2人分。


「……そんな」


 ヒルダは声を漏らす。先に攻撃するつもりだったというのに――

 だが、ヒルダは我に返り、声を張る。


「皆起きて! 私たち、攻撃されるかも!」


 その声に最初に気づいたのはオリヴィアだった。彼女は過去の経験から、味方が大声を上げたときには何かがあったのだと思うようになっていた。


「……そう。事情はわかった。ちょっと外に出てくる」


 オリヴィアはその言葉だけを残して玄関から外に出た。


 ――大丈夫、夜は私の独壇場。夜や密室、屋内では普段よりうまく戦える。


 イデアを展開し、辺りからの攻撃に備える。さらにこの借家にやってきた者たちの正体をこの目で見ようと――


「この影。わかるでしょ、オリヴィア。私がここにいるって」


 影を通じてオリヴィアはある人の声を聞く。その声はオリヴィアにも聞き覚えがある。声の主は――


「リンジー……どうしてわたしたちのところに?」


 オリヴィアは呟いた。


「攻撃するつもりはないから。オリヴィアがいる以上。だから、私の話を聞いてくれる?」


 そう言いながらリンジー――水色の髪の女が夜闇の中から姿を現した。

 彼女の姿はオリヴィアが最後に見たときから一切変わっていない。姿だけではない。その態度、物腰もオリヴィアが最後に見たときと同じ。


「いいよ、リンジーなら」


 オリヴィアは言った。


「わかった。それじゃあ、私とオリヴィアだけで、影の中で2人きりになれる?」


「いいけど、どうしてそんなことを。いや、リンジーのことだから……」


 オリヴィアはリンジーに言われるままに2人を影で包み込む。こうすることで内部の状況を外の人間は知ることができなくなる。影が完全に閉じたとき、リンジーは口を開いた。


「実はね、今ロムもこの町にいる。オリヴィアのことは何も話さないからよくわからないけど、会おうと思えば会えるとは思う。問題は、ロムがオリヴィアのことをどう思っているか……」


「いるのね、ロム姉が」


 オリヴィアは言った。


「前みたいに探しているようではないんだよね。あの人の真意は私にもわからないけど……」


 リンジーは目を伏せる。


「ありがとう、リンジー。用事が済んだら会いに行ってみる」


「……オリヴィアがそうしたいなら。場所は教会近くの黄色い壁の家。目立つからすぐにわかると思う」


 と、リンジー。彼女はオリヴィアがロムに会おうとすることは止めなかった。とはいえ、それに賛同する様子も見せなかったが。



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