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2 エピックの街へ

 列車が止まる。今度こそオリヴィアたちはエピックの町にたどり着いた。

 当然ながらエピックと春月の雰囲気は違う。こちらは煉瓦造りの建物が多く、駅の中から見える範囲だけでも春月に比べて洒落た雰囲気を漂わせていた。


「ヒヒッ、ここだよここ!」


 そう言ったのはキルスティだった。彼女の口調はお預けをくらっていた好物を目の前にしたかのよう。事実、彼女もターゲットに関してはお預けをくらっていたようなものである。


「来たな、エピック。次の相手は聖職者ってわけか」


 晃真は言った。春月で因縁ある相手(憎むべき兄)の息の根を止めた彼は晴れやかな表情をしている。まるで憑き物が落ちたかのようだった。


「だな。行方を掴もうとしても雲隠れしやがるあの野郎をブチ殺せるんだぜ。もうテンションが上がってきた……!」


 と、キルスティ。

 そんな晃真とキルスティとは対照的に、オリヴィアの表情は曇っていた。だが、オリヴィアも己を奮い立たせようとしていた。


「そうだよね。殺さないと。殺さないとロム姉にはたどり着けない。ロム姉が出てくるまで粘るんだ」


 オリヴィアは言った。

 彼女の言葉を聞いていたパスカルはあることに気付く。オリヴィアの瞳には黒いものがあった。肉眼で見えるものではなく、もっと概念的な。その黒は深淵のよう。大きくなればいずれオリヴィアを呑み込んでしまいそうでもあった。


「ロム姉に会ったらどうしてわたしを置き去りにしたかって聞くよ。だって、何かしら理由があるはず。ロム姉だから」


 さらにオリヴィアは続けた。


「オリヴィア……」


 と、晃真。

 オリヴィアが常に見ているのは晃真ではなく、あくまでもロムという女だった。晃真は悔しそうに、オリヴィアに悟られないように拳を握りしめた。


「ああそうだ! エレナの借家に行こう! あいつ、私らのために家まで借りてくれたんだよ!」


 この空気を変えるべくそう言ったのはエミーリアだ。


「頼りになるんだね、エレナさんは」


 と、オリヴィア。


「そうだよ。じゃ、エレナは駅前の噴水で待っているって話だから、行こうか。私ら、もう10日は待たせてるんだからな」


 エミーリアは言った。

 10日。それは短いようで待たされる側からしてみれば長くも思える期間である。11日前にマルクト区を発ち、春月に引き寄せられて、偵察と戦闘、それから晃真の回復でそこそこの時間をかけた。


「エレナさん、どんな顔するんだろうね」


「さあな。ま、あいつのことだ。可愛い服を用意して晃真にでも着せようとするんじゃないかい?」


 オリヴィアに聞かれ、エミーリアは冗談交じりに言った。


「俺!? まあ、そういうのは嫌いじゃないが……可愛い服はオリヴィアの方が似合うと思う……」


 と、晃真。

 オリヴィアには視線を合わせられていない。頬はやや紅潮している。これに気づいたのはヒルダ。だが、晃真がなぜ頬を赤らめているかまではわからなかった。


「罰としてそういうこと考えるんだね、エレナさんは。不思議な人」


 オリヴィアは言った。さらにつづけてヒルダも口を開く


「そうだよね! 可愛い服とか罰じゃなくてご褒美だよ!」


 一行は駅の構内を抜け約束の場所、噴水の前に向かった。

 そこで待っていたのは金髪の女、エレナだ。オリヴィアやキルスティ、晃真、エミーリアは彼女と一度は会っていたが、その雰囲気は少しばかり変わっていた。一度会った時のエレナが清楚な女性だとすれば、今のエレナはほの暗い美しさを見せる女性。


「よう。もう10日くらい待たされたぜ。おかげでこの町でいい感じの服を買うのに結構散財しちまったよ。どうしてくれんだ?」


 エレナは笑顔で言った。だが、そこにオリヴィアたちへの怒りはなく、あくまでもじゃれているような雰囲気だった。


「ごめんなさい、わたしたちエピックに行くつもりが春月に……」


「オーケー。それは杏奈から聞いた。あっちの敵も相当だったって話じゃねえの。なんでも素のスペックが高すぎるって話?」


 あやまるオリヴィアを制止し、さらにエレナは話をつづけた。そしてエレナは一行に春月で斃した人物のことを尋ねた。


「そうだな。喉を焼かないとあの野郎は倒せなかったと思う。おまけに俺以外が斃すとなると呪いがばらまかれるって話だったからな……」


 晃真は答えた。


「へえ……それはまた面倒な相手だな。ところでよ、おまえらロリィタ好きか?」


「うん。前からかわいいと思っていたし、今みたいなのも気に入ってる」


 今度はエレナの問いかけにオリヴィアが答えた。

 エレナは悪戯っぽい笑みを浮かべ。


「そうかい。じゃ、お前らも私の部屋においで。1200デナリオンで借りた良い感じの部屋だ」


 彼女は言った。


「わかった。パスカルたちも」


 と、オリヴィア。


 一行はエミーリアの予定していた通り、エレナの借家へと向かうことになった。このときパスカルは注意深くエレナの様子を観察していた。裏切りの可能性を考えて。だが、パスカルの中である確信が浮かび上がる。


 ――この人は悪い人ではない。かなり荒っぽい人だし善人とは言えないけれど、筋は通す。杏奈と似ているのね。



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