1 暗躍する者たち
レムリア北部寄りの街エピック。オリヴィアたちの本来の目的地であった場所だ。本来彼女たちがやってくるのに合わせてエピック入りしていた者もおり。
「了解だ。そっちの敵が片付いたならオリヴィアたちも来るわけだ」
ホテルのロビーで電話をする女が1人。彼女はエレナ・デ・ルカ。オリヴィアと合流するはずだったが目的地変更で待ちぼうけをくらった人だ。
『そうだな。オリヴィアたちはもう春月を出た頃だろう。エピックとはそう離れていないだろうから、明日の朝には着くだろう』
「なるほどねえ。今度は待たされないといいなぁ。私、こっちでかなり暇してたんだぞ? 本当にやることが何もねえ。おかげで服を10着は買ったぜ? 今度お前んとこ持ってくから絶対に着ろよ。とびきり可愛いやつな」
と、エレナは得意げな顔で言う。事実、今エレナが着ている服もエピックの地でエレナ自らコーディネート、購入したものだ。
『着るのはいいがファッションの話はほどほどに頼む。それと、オリヴィアの心のケアはしてやってくれるか? 私を恨んでいることには変わりないが、何かおかしい』
杏奈は言った。
「マジかよ。私にできっかなー」
『できるかできないか、ではない。やるんだよ。パスカルや晃真もいる。いざとなればその2人を頼るといい。私は、とある不届き者を見つけてね』
「はいはい。そっちに行って不届き者とやらをブチ殺してみたかったんだが相棒が言うなら。ま、一番動き回れるのは私だしサポートはしないとね? じゃ、また何かあったらかけるしそっちもよろしく」
と言って、エレナは電話を切った。
まだオリヴィアたちはエピックに到着しないが、事態は変化している。目的の教会の場所もつい昨日把握したばかり。教会の方に動きはみられない。だから、先にやるなら今しかない。
ここは春月市。鮮血の夜明団春月支部の裏、1人の女の姿をした青年がいた。
「……つけ入る隙がなさすぎるよ。グレイヴワームは入り込めたのに」
彼――リュカ・マルローは言った。
「見つけたよ、件の不届き者! どうする? 処す?」
そう言ったのは陽葵。
「そうだな……なあ、不届き者。私たちに何をしようとした? 入り込もうとする以上、殺される覚悟があると見ていいのか?」
陽葵に続いて杏奈も言う。
彼女たちはそれぞれの獲物を手に取り、押しつぶされるような圧を放つ。どちらの気配も完全に強者のそれだ。
「盗聴したのがあんただということはわかっている。すまないがもう見逃すことはできない」
強者2人に詰め寄られたリュカ。彼は携帯端末を手に取り、呟いた。
「生き残らなくては……ボクはまだ死ねない!」
自身にカメラを向け、シャッターを切ったその瞬間。リュカは別空間に消えた。
「逃げるな!」
陽葵はそう言って抜刀したが、刀は空を切るだけだった。
「逃がしたか……ならばパスカルに連絡しておくべきか」
リュカは亜空間で携帯端末を開き、通話に接続した。通話に参加していた他の10人はリュカを待っていたらしい。
「……繋がったね。皆、昴がやられたことは知ってる?」
リュカは言った。
「もちろん。これで俺達は外からの悪意、殺意に直にさらされることになるわけだが」
そう言ったのはアポロ。彼はついさっきまでバイクに乗っていたようで、ぴっちりとしたライダースーツに身を包んでいた。
「そうだね。ボクは彼の遺体を見たよ。首をやられていたし、体のあちこちを焼かれていた。多分、壮絶な戦いだったんだろうね。仇を討たないと」
と、リュカは言う。
「私と昴が手を加える前、あいつらはエピックに向かうと言っていたの。だとすると、次は貴男のところに来るでしょう。ハリソン」
フードの女エレインが話しかけたのは聖職者ハリソン。
「その通りだろう。こういうことは好きではありませんが、今回ばかりは血生臭いことをしなくてはなりませんね」
優しい口調であったが、ハリソンの目は据わっていた。そこには確かな殺意と狂気があり、カナリス・ルートの一員であることを裏付けているようでもあった。
「それにしても、彼女たちの狙いが気味でなくてよかったよ、リュカ。君やエレイン、アイゼンはカナリス・ルートの生命線だ。私はまだ死んでもいいが、君たちが死ぬと大きな打撃だ……」
とハリソンは言って咳き込んだ。心なしか、彼の顔色も悪い。それに真っ先に気づいたのは中性的な容姿の人物アイゼン。
「ハリソン。大丈夫?」
と、アイゼン。
「問題ありませんよ。ですが、私ももう45歳。いつイデア使いの寿命を迎えてもおかしくないでしょう。私の後任に目星をつけてくださいますか?」
ハリソンは言った。
「縁起でもないことを言わないでよ。確かに今はイレギュラーな事態が起きているけど」
そう言ったのはアイゼン。
「そうですね。とりあえず、私はこの戦いで彼らを食い止めましょう。どんな手を使っても」
と、ハリソンは言った。
このとき、ロムだけが怪しい動きを見せていた。彼女の動きは誰もが「いつものこと」だと思っていた。




