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23 錯綜する愛と憎しみ

 晃真が目を覚ましたのは病院のような部屋だった。空調の音が耳に入り、薬品の匂いが鼻を突く。


「お目覚めかね? この命知らずが」


 目覚めて最初に晃真が耳にした言葉がこれだった。言葉を発した主はキルスティ。彼女は珍しく白衣に身を包んでいた。


「ここは……」


「春月支部の医務室だ。死にかけていた陽葵もここで寝てるよ。全く、春月の人はなんで自分の体を傷つけてまで勝とうとするのやら。あんたはね、全身火傷に右腕の欠損、それに重度の熱中症で死なせないようにするのも一苦労だったんだからな?」


 と、キルスティは言った。


「すまない。あのチャンスを逃せば二度と八幡昴を斃せない気がしたんだ。あの野郎はいつまでも待つと言っていたが、多分俺達はあの野郎を斃さないと先に進めなかったはずだ」


「言いたいことはわかった。とにかく私に感謝しな。感謝して、死なないように私を守れ。それとオリヴィアの隣に立ってやりな。あいつの隣に立ってやれるのはあんただけだ。気づいてるんだよ、あんたがオリヴィアのこと好きなことくらい」


 キルスティは言った。


「ああ……オリヴィアは何て言っていたか?」


「そりゃ、自分で確かめるこった。想い人だろう? 支部長室にいるぜ」


 晃真に聞かれるとキルスティは笑いながら答えた。

 晃真はベッドから起き上がり、オリヴィアがいる場所に向かった。




 支部長室。中に立ち込める空気は重苦しいものだった。

 まず、オリヴィア。憎む相手を目の前にして表情は硬直し、いつイデアを展開して攻撃に転じてもおかしくなかった。そして、杏奈。オリヴィアに対して杏奈は余裕を見せており、自ら攻撃する意思を見せてはいなかった。


「わたしを誘拐しようとした人……あのとき、何をしたかったの?」


 オリヴィアは冷たい声で言う。一触即発だ。


「あんたはあの場所で1人だったと聞く。崩壊した町で1人きりで生きていくことは困難だ。ちゃんと秩序ある町でさえそうだからな。だから保護した」


 杏奈は答えた。


「嘘だ……わたしを助けてくれたのはロム姉で、あなたは強い魔物ハンターのためにわたしを誘拐しようとした! ロム姉は確かにそう言っていたのに! どうして嘘をつくの!? またわたしを利用したいの!?」


 オリヴィアが言うと暫く杏奈は黙り込む。パスカルの力を借りればこの場を収めることはできる。が、彼女がいることによって収めることはできても問題の根本から解決することはできない。だから杏奈はパスカルの同席を断った。


「違うと言ったらどうする? 私の元からあんたがある女に連れ去られたと言ったら?」


 と、杏奈。

 その一言がオリヴィアの神経を逆撫でした。オリヴィアは部屋中に影を展開し、全方向から影の刃を伸ばす。


「なるほど、やるのか。私もここ8年くらいは本格的に戦っていないが……」


 杏奈は星空のようなビジョンを展開し、消えた。オリヴィアは影の刃で杏奈を切り刻もうとしたが、血が床を濡らすことはない。


「戦いには慣れていないらしいな。こうも簡単に背後を取れる。それでもあんたは、私とやるのか?」


 杏奈の声がしたのはオリヴィアの背後。オリヴィアが振り向けば、そこには杏奈がいた。


「あ……」


「その程度で怯むなら私に刃を向けない方がいい。話の続きをしようか」


 杏奈は言った。


「違う……ロム姉の言っていたことと、あなたの言うことが違いすぎる……でもわたしが見たのは……」


 オリヴィアは「あの時」のことを思い出せないでいた。「あの時」にどのように助けられたか、それはロムか杏奈の語ることからしかわからない、そのはずだった。

 だが、オリヴィアの脳内にある人の声が反響する。


 ――彼女が1人で生きていくにはこの町は、いや、この世界は厳しすぎる。せめて15歳までは私たちが守っていくべきではないのか?


「わからないよ……何が正しいの……本当にわたしが見ているものは……」


 すべてが疑わしい。オリヴィアは影を展開しながら、後ずさり。


「ごめんなさい……今あなたと和解はできない……」


 オリヴィアは言った。


「……そうか」


 杏奈は答えた。その言葉を聞き流し、オリヴィアは支部長室を出る。


「恨まれても、嫌われても、憎まれても構わない。あの日助け出した君が生きているのなら。とにかく、生きていてよかった」


 オリヴィアが部屋を出た後、彼女に聞かれないように杏奈は呟いた。




 支部長室を出たところでオリヴィアは晃真に鉢合わせた。このときのオリヴィアはひどく混乱した様子だった。


「オリヴィア……」


 晃真は声を漏らす。


「生きていたんだね……よかった……あなたが今一番信じられるから……」


 と、オリヴィアは言った。


「ああ……俺も、オリヴィアに生きて会えてよかったと思っているよ。あの野郎と一緒に死ぬくらいなら、俺はオリヴィアと一緒に生きていたい」


「わたしもだよ……」


 オリヴィアは落ち着かせた声で言った。


「次は……次こそエピックの聖職者だね。その人で4人目かあ」


 さらにオリヴィアは続ける。彼女の声に晃真は危うさを感じずにはいられなかった。オリヴィアは近いうちに精神を壊しそうだ、と。



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