表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/343

21 軻遇突智

 晃真は昴と戦うに当たって用意していた技が2つある。1つは昴と斬り合うときに出した灼熱の剣。もう1つは――自身さえも焼きかねない危険な技。全身を熱の塊で覆い、攻防のバランスを取りながら懐に飛び込むもの。ただし、この技は晃真の全身を熱の塊で覆う都合上、そう長くは使えない。


「いくぞ、八幡昴。これであんたの望みを実現できるな」


 晃真は言った。

 次の瞬間、彼の身体を覆うようにして灼熱のイデアが展開される。それは晃真の身体に密着し、灼熱の鎧と化した。


「……良い! 最高だ、晃真ッ! やはりお前は俺を楽しませてくれる!」


 まだ刀の間合いだ。昴は灼熱の鎧を纏う晃真に向けてさらに斬り込んだ。が、刀は灼熱の鎧に融かされて半分に折れた。昴はそれでも動揺を見せなかった。だが隙はできた。晃真はこれを好機とばかりに、昴の懐へ飛び込んだ。


 裏拳、右ストレート、からの回し蹴り。どれだけ効いているかどうかは晃真にもわからない。それでも晃真は打撃を叩き込む。


 ――思った以上に痛みが出てきた。それで、八幡昴は……?


 晃真は拳を叩き込みながら昴の顔を確認する。


「……いい攻撃だ❤ さっきの斬撃より、全然痛い」


 昴は言った。彼の身体にはいくつも火傷がある。が、それで痛みを感じている様子は晃真から確認することはできなかった。昴は晃真が思う以上の相手だった。


「化物が……」


 俺が言えたことじゃないが、とは言わず、晃真は昴の首根っこを掴んだ。


「……取ったぞ。熱いだろう? あんたは直に――」


 晃真の腹に衝撃が走る。昴は晃真の腹を蹴り飛ばし、灼熱の手から自由になった。


 ――体格の差か! 掴んでも持ち上げられなかった! もし俺がもう少し大きければ!


 晃真は蹴り飛ばされたことで地面に倒れ込む。同時に、鎧のように展開されたイデアが消滅した。これ以上展開することを晃真の身体が拒否したのだ。

 今の晃真はイデアの展開もなければ隻腕で武器もない、丸腰の状態だった。


「もう少し大きければ、なんて思っただろう? そういうところが可愛いんだよ」


 昴はにやりと笑い、血濡れの刀をその手に握る。

 その声はわずかにかすれていたし、昴の首には手の形をした火傷ができていた。晃真の攻撃は、有効打にはなっているらしい。


「いつでも俺を殺しにおいで。あの炎の神みたいな姿でね。あの攻撃はさすがの俺でも熱かったぞ」


 昴はそう言って踵を返した。そのときだった。この空間にいた、無傷の人物が立ちはだかったのは。


「晃真が殺せなくても、わたしならあなたを殺せる。戻りたければわたしを斃して押し通ってよ?」


 立ちはだかったのはオリヴィアだった。彼女は悪霊のような形相で、影を辺り一帯に展開していた。その姿に圧を感じた昴は剣を固く握りしめ。


「俺達の愛を愚弄するなよ」


 その言葉を吐いて、オリヴィアに斬りかかる。が、その刀はオリヴィアの影に防がれる。


「あれを愛とは言わないでしょ。あれは、あなたが晃真に夢を見ているだけ。晃真はあなたのこと何とも思ってないんじゃない?」


 オリヴィアは言った。


「少し黙れ……! 俺達の邪魔をするな! 晃真以外が俺にとどめを刺すと呪いがばら撒かれるぞ!」


 と、声を荒げる昴。

 呪い。その声に反応したのは陽葵。オリヴィアのイデアによりある程度の身体の損傷を治した陽葵。彼女は体を起こして口を開く。


「オリヴィア! あなたはその人を殺さないで! 私たちがそいつを暗殺できなかった理由が呪いだよ!」


 陽葵の言葉。オリヴィアは彼女の声を聞いて影を止めた。


「……じゃあ、どうすることもできないってこと? 嘘だよねぇ……キルスティもエミーリアもカナリス・ルートの壊滅を望んでいるのに……」


 オリヴィアは呟いた。どうするべきかもわからないまま、彼女は影で昴を拘束した。


「何とか言ってよ。カナリス・ルートでしょ? あなたが死なないなら、わたしがここであなたを拷問する。苦しめるなら呪いはばら撒かれないんでしょ?」


 このときのオリヴィアの顔はまさに悪魔のようで狂気に満ちていた。そして、彼女の展開したイデアにも妙な圧があった。

 そんな中、晃真が立ち上がる。


「オリヴィア。ここからはまた俺がやるよ。だから、あの姿になっても止めないでくれるか?」


 立ち上がった晃真は、まずそう言った。


「……わたしだってそうする。同じ状況なら。だから止めない」


 オリヴィアの返答はこうだった。陽葵は晃真を止めようとしたが――時すでに遅し。


「だそうだ、八幡昴。今度こそやってやる」


「俺に応えてくれるのか、晃真……!」


 そう言った晃真は全身を包む鎧のようにイデアを展開した。さらに、右手もイデアで補い、その手には灼熱の剣が握られている。今の晃真の姿は、昴の言うように炎の神のようだ。

 オリヴィアは晃真の姿を見て影の展開をやめた

 そこからは速かった。


 昴が晃真に斬り込み、晃真が受け止める。何度も昴が打ち込むが、晃真はどれも綺麗に受け止めている。昴がまた斬り込んだときに、晃真は剣を消した。


「予想外だったか?」


 晃真はその言葉とともに昴の懐へと飛び込んだ。蹴り、拳。晃真は熱で意識が朦朧としながらも、昴の首を狙った。


「イイ……これが俺の最期か! 俺は今――」


 晃真の放った攻撃が3発ほど当たったときだ。昴の気道が潰れ、血管が焼き切られたのは。

 昴の首からとめどなく血が滴る。喘いでいるようでもあったが、もはや声を出すこともかなわない。昴はそのまま地面に倒れた。

 昴の首から流れ出る血は辺りに血だまりを作る。これで昴は生きてられないだろう。晃真は安心したのかイデアの展開を解除し、その場に倒れ込んだ。そのときの晃真の服はすべて燃え尽き、身体は全身を焼かれたかのようだった。



軻遇突智

火の神。イザナミノミコトが最後に産んだ神のこと。


余談ですが、昴を倒した直後の晃真は服が燃えて全裸です。晃真は全裸です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ