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6 迷いの森

 時は少し遡る。境内で陽葵と雪乃が戦っているとき、オリヴィアたちは神社の森に足を踏み入れていた。森には境内とは違った雰囲気が漂っている。

 オリヴィアは境内から少し離れたところで、イデアを展開した。


「神社に来た時、見ておくのを忘れたから。わたしも、あの場では白服の人に押されていたから」


 オリヴィアは言う。彼女を中心にして黒い影が広がった。より遠くへ。まだ見ぬ敵をどうにかして見つけ出す。オリヴィアはできるかぎり影に注意を集中させた。

 見えるのは先ほど通った神社の境内。加えて、森。近くに人がいるような建物もそれらしい気配もほとんどない。境内の方では雪乃と陽葵が戦っており、境内の建物には巫女と神主が1人ずついる程度。しかも、彼らからイデア使いの気配は全く感じられない。


「うそ……この神社だって話だよね? わたし、騙されているの?」


 オリヴィアは呟いた。


「悠平が嘘の情報を寄越すとは思えない。だが……まさか悠平になりすましているやつがいるのか?」


 と、杏助は言った。

 事前に杏奈から聞かされていた通り悠平はある時を境に連絡を寄越さなくなった。杏助の側から連絡をしても一切つながらない。だから悠平が当たりを引いたと判断したわけだが――


「だとしたら厄介だね。一切違和感を持たせないような精神攻撃をしてくるイデア使いも多くない。私たちもその類の使い手に恐らくはめられた。さて、どうしたものだろうね」


 パスカルは呟いた。


「これが精神攻撃かどうか判断する方法はない。だけど、空間そのものに細工があるかどうかを判定する方法はある。俺の能力を使えば」


 杏助は言った。このときにはすでに杏助はイデアを展開していた。彼の周囲には先ほどまではなかった御札が浮遊しており、それらは神聖な気配を放っていた。


「おねがい。あなたの力ならできると思う」


 と、オリヴィア。

 杏助は頷き、御札を地面や周囲の木々に向けて放った。すると、その場所の妙な気配が消えた。とはいえ、その効果は森全体には及ばない。この森に敵の能力がかかっていることは明白だが、範囲があまりにも広すぎる。御札の近く、オリヴィアや杏助たちのいる周辺10メートルほどの範囲であればその効果を消すことはできたが、それ以上となれば届かない。


「……多分細工はある。俺達には何もされていない。けど、この空間となれば話は別だ。まるで迷宮にされているようだ」


 杏助は言った。


「わたしも同じことを思った。なんだろう、人々の思いを力にして空間に作用したの? この神社に対しての信仰とか、この神社の森への恐れとか。本当に、よくわからない」


 と、オリヴィア。杏助と同じく今置かれた状況を手に取るように理解していた。


「どうするかい、パスカルにオリヴィア。この迷宮みたいな空間でさまようのは自殺行為だ。とはいえ、俺達は迷わされていると同時に呼ばれているようでもある。この土地への細工を解こうとしたときに気づいたんだ」


 杏助は言う。


「呼ばれている、だって? それならここで間違いはないはずだ。俺達が迷わされているのは、俺達を呼んでいる人間以外が原因のはずだ」


 そう言ったのは晃真。彼には確信があった。この森の先――自分たちを呼んでいる者がいることを。自分たちを呼んでいる者は因縁ある者、兄だということを。


「八幡昴。俺はここにいる。俺に殺されたいのならこの迷宮を元に戻せ。できるだろ?」


 晃真はそう言って吐き捨てる。虚空に向けて吐き捨てる晃真に対し、一瞬だけ不審さを覚えた一行。だが、キルスティはその理由を理解した。


「だそうだ。こんなところで迷っている暇はないよなあ?」


 キルスティも晃真に便乗してそう言った。




「ああ……雪乃のやつ、こういうことをやりやがったか。やっぱり俺に対して過保護なんだよ」


 昴はモニターのうちの1つを見て呟いた。

 ここは鳥泣神社の森の奥にある、氏子の家。今森の中にいるオリヴィアたちとそう離れているわけではないが、彼女たちはここに来ることもできない。その理由を昴は今知った。


「おい、雪乃。俺より先に死ぬなよ。信仰の程度次第では不死身だが、人間の信仰心の根本を削がれちまえばお前はとたんに脆くなる。それにお前、信仰心以上のものをぶつけられると死ぬだろ。引き際も大事だ」


 昴は言う。声を届ける設備はあるのだが、雪乃に声が届くか否かは別の問題だ。

 と、ここで別のモニターに異変が生じた。映し出されるのは燃え上がる神社の本殿。雪乃と戦っていた女性――陽葵が火を放ったのだ。


「くそ……あのアマ、雪乃の能力を理解しやがったか!? まずい、雪乃! 一度死んでもいいから戻ってこい!」


 昴は叫ぶ。

 モニターとスピーカー経由で『罰当たりです』という声が聞こえてくる。昴はドン、と机を叩いた。


「必ず殺す……神社の焼き討ちをやられてしまえば、雪乃も生きていられるかどうか……なめた真似をしてくれるじゃねえか、霧生陽葵。最強のダンピールか知らねえが、調子に乗るな」


 そう言った昴はモニターを凝視する。雪乃と陽葵の戦いは雪乃が焼き殺されてあっけなく終わる。焼死、さらに神社の焼き討ちというのは雪乃にとって最悪の最期だ。もはや信仰心によって復活することもできないのだ。


「必ず殺す。首を長くして待っていろ……」




 暫くして、杏助があることに気づいた。


「空間への細工が解けた」


 と、杏助は言った。するとオリヴィアはイデアを再展開して辺りの様子を探る。影を伸ばしたその先、目的とする建物は確かにあった。


「見つけた」


 オリヴィアは言った。



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