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3 不幸を集める神社

「つまり、災厄を引き寄せる使い手がこの町に潜んでいて、私たちはそいつに引き寄せられたというわけね」


 パスカルはそう言って机にノートを置いた。


「私の予想ではな。とはいえ、そいつがどこまで強いかは予想もつかない。私は……悔しながらもう最盛期を過ぎているしな。息子を残して死ぬわけにもいかない」


 と、杏奈。


「そうだな、偵察に行かせようか。悠平なら臨機応変にやれる」




 杏奈の提案でとある神社にやってきたのは悠平――亜麻色の髪の美青年だ。

 その神社は何人かの人が出入りしており、巫女や神主もいる。どうやら寂れた神社ではないらしい。悠平はそっと胸を撫で下ろし、鳥居を潜る。


 ――変な気配はない。杏奈さんは昨日まで下手に動くなとは言ったけど、何か状況が変わったのかな。


 なるべく参拝客を装って、下手な動きはしない。それでいて状況を把握する。悠平にとってさほど困難なことではなかった。


 神社には手水の場所に社務所、本殿なんかがあり、至って普通の神社だ。特別嫌な気配もなければ視線を感じることもない。が、気になるのは森の中に道のようなものが見えた。それは絵馬がかけられた場所近くにあった。

 悠平は絵馬を購入し、その場所へ――


「何か不幸なことでもありましたか?」


挿絵(By みてみん)


 背後から声をかける1人の女。悠平は不意に振り返る。そこにいたのは白いワンピースと白い帽子が特徴的な女だった。その姿は怪談や都市伝説に出てくる、人の姿をした怪物を思わせる。


「ふふふ、怖がらないでくださいね。この神社は不幸を置いていくための神社なんです。訪れる人は理不尽なことがあればここに来る、そして絵馬を奉納する。不思議ですよね、拝めば不幸を捨てるという願いが叶うんですから」


 と、その女は言った。

 丁寧な言葉遣いではあったが、悠平は彼女に恐怖を覚えていた。彼女には謎の圧がある。只者ではない。それこそ、下手な行動をすれば命を奪われるような、そんな圧。悠平は9年前の戦いを思い出す。


「……ははは、知りませんでした。不思議ですよね、神社って。自分ではどうにもできないことをやってしまうくらい。だから少し怖かったんですよ」


 悠平は答えた。これが最良の答えであったかどうかはまだ、わからない。悠平は圧に押されながらも平静を保つ。どうか、どうかその女が手を出さないようにと――


「そうだったんですか。それでは、経験豊富な私が教えて差し上げますよ。私、こういうスピリチュアルなものには詳しいんです」


 彼女はそう言った。

 彼女の圧はより強くなる。優位に立っているのは自分だ。従わなければ殺す、ひどい目に遭わせる。言葉に出さずともその意図は悠平にはわかってしまう。


 ――さっそく当たりを引いた。知らせなくては。でも、どうやって知らせる? 考えろ。


 悠平の肌に冷や汗が滲む。


「……すみません、お腹痛くなったのでちょっとお手洗いに」


 悠平は苦し紛れにそう言った。


「仕方ないですね。いいですよ、私も待っていますから」


 そう言ったとき、彼女の圧は少し弱まったようだった。


 白い服の女から一時的に逃れ、悠平は個室に籠る。彼女の視線はここに届いていないはずなのに、未だに見られているようだった。が、悠平は携帯端末を取り出して文字を打つ。情報を提供しなくてはならない。彼の目的はあくまでも偵察だから――


「何をしているんです?」


 その声が悠平の耳に入る。

 悠平は攻撃される予兆を読み取り、イデアを展開する。鏡型のイデアは彼の前に展開され、直後に外からの攻撃を跳ね返す。


「いやあああああ!」


 それは女の悲鳴。悠平は悲鳴をBGMに、メッセージを杏奈に送るのだった。そして――


「俺はもう逃げも隠れもしない。来い!」


 悠平は個室を出てそう言った。イデアをそのまま展開し、彼女の居場所を探る。攻撃を加えたのだから近くにいるはずだ。そう確信して。


「そうですね。最初からそれくらいでよかったんですよ。気づいていましたから」


 その声は背後からした。無防備なまま振りむいてはいけない。悠平は振り向くことなく炸裂弾を虚空に放った。

 光が辺りを包み込む。背後にいた白服の女は消えた。悠平は消えたことを確認すると出口へと走る。走ってどうにか外に出た。光で目がくらんではいるが、今度は鳥居を目指す。


 ――どうにかして脱出する。話はそれからだ。何もこの段階で深入りしすぎる必要はない! 裏側ならもう推理できた!


 少しずつ前が見えるようになってきた。イデアも展開できるようになったが、それは敵も――白服の女も同じだ。悠平はどうにか参道を走り。


 鳥居をくぐる。鳥居は境界。鳥居さえくぐり、神社を出られたのならもう攻撃をうけることはないだろう。その考えが甘かった。

 悠平の視線の先には白服の女が立っていた。


「よくも私に嘘をついてくれましたね。許しませんよ」


 白服の女は言った。


「君だけ嘘を言って俺の嘘は認めないんだな。さっきまでいた君は偽者……違うな。分身か何かだろう。消えていく君と今の君の気配からよくわかった」


 悠平は言った。


「ふうん。強気になるんですね。いいでしょう。あなたはもう出られませんから」


 彼女はそう言って悠平の首根っこを掴み、消えた。


『不幸を集める神社。奥の森の雰囲気からここで間違いない。住人もそのつもりのようです』



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