幕間 前編 野山乃花 『サヨナラ、好敵手。だが好敵手とは必ずしも“敵”ではあるまい。』
三月。
私は受験を無事に終え、地元の高校へと進学が決定していた。
中学校の卒業式。
桜は満開に咲き、春が近い柔らかな日差しが眠気を誘う。
鳥は長かった冬の終わりを喜ぶように歌い、緑が芽吹いていく。
…そんな光景は平地の話。
軽井沢の三月にそんなモノは無い。
ひたすら寒いだけの体育館に集められ、長々と校長の話を聞く。
ジェットヒーターなどという大層な名前の暖房器具が体育館の隅で轟々と音を立てるが、大して暖かくないし、そもそも期待もしていない。
パイプで出来たシンプルなスチール製のイスは見た目通り冷たく、そして座り心地も最悪。
お尻が痛いのは我慢するとしても、せめてこの冷たい感触だけは、なんとかならないか。
人生一度の中学校卒業式。
もっとセンチメンタルになるべきなのだろうが…。
そう感じないのは私がひねくれているからか、それとも進学しても環境が大して変わらないからか。
恐らくは後者だろうと強引に結論付ける。
ようやく長い卒業式、ホームルームから解放される。
校舎の外では寒空の下、各々が写真を撮ったり別れを惜しんだりしている。
中にはカップルが誕生しているようだが、生憎私には第二ボタンを渡して告白してくれる男子もいない。
さすがにこの雰囲気に馴染めない私自身が切なくなってきたので、適当に両親に声を掛け帰ろうと決意する。
「ハナさん」
そんな中私に声を掛けてくる稀有な男子。
カーリング部後輩の黒崎 諒だった。
「おう、黒崎。なんだお前は見送ってくれるのか。それともお前は私に第二ボタンとやらを渡して告白でもしてくれるのか」
私が寒さに震えながらぶっきらぼうに言うと、まさか図星でもあるまいに黒崎が一瞬狼狽える。
その黒崎の向こうから、なるべく今日は会いたくないと思っていた相手が現れる。
うん。
朝からお前の目付き怖かったから会いたくなかったんだよ。
リューリ。




