第三章 その7 樟林 桂(くぬぎばやし けい) 『子供の挫折や成長に意味を持たせてやるのが大人の役割だ。』
落ち着いたか。
恥ずかしがることはないさ。
泣きたい時には泣けば良い。
まぁ、涙を見せる相手は選ぶべきだが。
将来性があるお前さんなら十年後は相応しい男がお前を慰めてくれているだろうさ。
何でこんな事まで話すのか、だと?
確かにカーリングコーチの仕事の範疇は超えているな。
…お前さんはゲームをやるか?
例えばRPGがわかりやすい。
ファンファーレとともにレベルアップ。
ステータスがアップするな。
だが実際の世界ではそんな事は分からない。
だから、さ。
大人の出番なんだ。
お前さんはこの成功体験からこの事を学んだ。
お前さんはこの挫折からこの事を学んだ。
逆境という名の強敵を倒して、多く経験値を獲得した。
お前さんはレベルアップして、昨日の自分を超えたんだ。
それをしっかりと教えてやる。
お前さん達子供の、成功や挫折。
これに意味を与えてやるのが、我々大人の役目だと心得ている。
お前さんも…そんな事が言える大人になってくれたら。
私の存在意義はあったのだろうさ。
どうした?
何?
今度は私の話を聞かせてくれだと?
これか?
ああ、そうだ。
右腕は山に置いてきてしまった。
ふむ。
こんな言い方では納得しないか。
私の話をするのは吝かではないが。
意味があるのか考えていた。
興味本位で聞いたり話したりするものでもないし、な。
ふむ。
話の着地点を見つけたぞ。
少しはお前さんの役に立つ話で終わるかもしれんな。
結論から言えば、次の言葉を言えるようになればお前さんはみっともない大人にならなくて済むはずだ。
つまり、何か問題があったときに。
私の○○だ、と断言するのさ。
○○に入る言葉はなんでも良い。
チーム、友人、仲間、恋人、仕事…。
分からないか。
そうだろうな。
まぁ私の話を最後まで聞いてみるんだな。
それに。
こんなロマンチックな夜だ。
たまには昔話でもして、死んだ奴を思い出してもバチは当たらないか。
いや、こんな宇宙の果まで見通せそうな夜なら。
空に逝ってしまった奴まで話が届くかもしれないな。
笑うなよ。
私もたまには詩的な事を言いたいのさ。
…お前さん、カミナリの音は知っているか。
そうだな。
あのゴロゴロと鳴るカミナリだ。
雷鳴とも言うな。
私が右腕と、アイツを失ったのは、そんな雷鳴轟く山の中だった。
カミナリが鳴っている時にわざわざ山に登るのか、だと?
確かにな。
わざわざそんな悪天候で山に登る奴はいない。
だが世の中には、稲妻が光らなくても雷鳴が轟く山もあるのさ。
カーリングでストーンが氷の上を滑るだろう?
その際に聞こえる音は私にはゴロゴロという雷鳴にも聞こえる。
つまりはそういう事だが、もったいぶっている訳では無い。
実際に我々には雷鳴のように聞こえていたのだからな。




