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2・剣の庭

 まばゆい光に包まれたことまでは覚えている。

 意識が戻った時、最初に見えた……というより感じたのは真っ暗闇だった。

 その一瞬あと、光が見えた。

「……う……」

 太陽の光、だと思う。

 その直後、幼少期に森の中を駆けまわった時のような、深い香りが鼻腔を駆け巡った。

 フィトンチッドが脳をたたき起こし、俺は完全に目が覚めた。

 どうも倒れているらしい。

 背中には地面を感じ、真正面には太陽と、青い空が見えた。

 遠くにはきらきらと銀色に反射する海面が見える。

 そこに、ぬうと人の顔が飛び込んできた。

「!?」

 倒れた俺を覗き込んでいるというのに気づくのに1秒、そしてそれが誰かに気づくのに数秒ほどかかったが、その間ずっと俺を見続けていた。

 歯車の麦わら帽子に真っ白いワンピース、涼やかな黒髪が腰まで伸びるたおやかな少女――

「リュウズ……?」

 コスプレイヤーか?

 最初はそう思った。最近はイベントで『ガーデン』のコスプレを見ることも多かった。

 でも、その肌、景徳鎮の磁器のようにツヤめく白は、とても人間のものとは思えない。

 まるでビスクドールだ。

「はい……ワタシはリュウズ。天に遣わされしもの……」

 リュウズはプレイヤーをサポートする天使であり、教会に佇む存在。

 そして、ゲーム的にはセーブポイントの役割をもつ……。

 それは知っている。

 ほかでもない自分が決めた設定だ。そう、あくまでゲームの設定だ。

 何がなんだかわからない。わからないことだらけだ。

 そもそもコイツは、誰なんだ?

「お待ちしておりました……創造主さま……」

「な、なに?」

 素っ頓狂な言葉に混乱しながらも、ほとんど反射的に、俺は彼女の差し出した手を引いて立ち上がっていた。

「……」

 彼女の全身をはっきりと眼に収めて、まじまじと見て初めて、まさに自分が頭の中に思い描くリュウズなのだと思い知った。理屈じゃなく、感覚で。

 リュウズが、いる。

 コスプレじゃない。

 これは、俺のリュウズだ。

 ハイスペックゲームの写実フォトリアル調のCGを超える圧倒的な現実感。

 もちろん、インディーゲームの『ガーデン』にそんな高級なCGなんてあるわけもない。

「ああ、夢か」

 夢に違いない。

 よくよく見れば、俺自身の姿も、テストプレイで作った鎧騎士のものだ。

 なるほど、デバッグ中に寝落ちしてしまって、こんな夢を見たわけか。

 うん。夢だ。

 そうでなきゃ、説明がつかない。

 だったら――

「ふぇ?」

 俺は、リュウズを抱きしめた。

 やわらかい。

 天気の日に干したタオルのような、ひだまりの匂いがする。

 ああ、なんていい夢だろう。

 精魂込めて作りだしたキャラクターに、こうして触れられるのは。

「リュウズ……」

「お、おやめください……」

「やわっけえ」

「シグマ様……!」

 両頬を、細く冷たい手が掴んだ。

 そうしてじっと、俺の眼を見つめている。

 リュウズの眼は、ルビーのような赤。その中央に黄金のリングが浮かんだ、地球には存在しないもの。

 それが、涙に潤んで、俺を見ていた。

「あ……」

 上手く言葉にできない何かが胸の奥につっかえて、俺はリュウズから離れていた。

「いや、その……なんだ……夢とはいえ、悪いことをしたな」

 しどろもどろになる俺とは対照的に、リュウズは冷静……に見えた。

 まるでサーカスの司会のようにうやうやしく身を屈めて礼をするリュウズ。

「……いいえ、驚いただけですのでお気になさらず。そして、夢ではありません」

 彼女は、大きく手を広げ、辺りを指し示した。

「ようようご覧ください。ここは、貴方の生み出した世界――」

 リュウズにばかり目を取られて意識していなかったが、ここは――

「『ソードガーデン』……」

「その通りです。創造主シグマさま……」

 海が太陽光で輝いていたんじゃない。

 辺り一面にびっしり剣が突き刺さっていて、それがまるで海面の乱反射のように太陽光を受けて光っていたのだ。

 これこそ、『ガーデン』の世界、『剣の庭』に間違いない。

 『剣の雨事件』によって、世界の至る所に剣が突き刺さった『ガーデン』の世界だ!

 鈍い俺の頭でもようやく理解した。

 ここは、俺の作った世界の中だ。

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