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19・元凶

 そいつの出現した瞬間、凍り付いたように火災鎧の動きが止まった。

「あ……あ……」

 リュウズが、言葉を失う。

 それも無理はない。

 あいつが、出てくるはずがないんだ。

 祭法王魔は、全エリアをクリアしないと登場できない。専用ステージ「文字盤の空中庭園」以外には登場設定をしていないキャラだ。

 ここにいるはずがない。いていいはずがない。

「僕がここにいるのが不思議だって顔だ~ね」

「祭法王魔は「僕」だなんて言わない。あいつの一人称は「儂」だ」

「きゃっはっはっはっ、そうか、君「も」いわば「神」だ~ね」

 祭法王魔が笑い、空中をゆらゆらと浮かんだままたゆたう。

「やはり、貴様が『神』だな!!」

 予想が合っていたとはいえ、それでこの煮えくり返ったはらわたが収まるわけじゃない。

 いや、むしろもっと心が荒れ狂っていく。

「貴様が、プレイヤーたちを巻き込んだ元凶か!!」

「そうだよぉ」

 けろりとのたまう。

 斬りつけたい衝動が心中に跳ね起きたが、あいつもわかっているのか、ジャンプ斬りが届かない範囲に浮いていた。

「なんでそんなことを!」

「そ~れ、答えなきゃダメ?」

 またケタケタと笑い出すゴミ野郎。

 言葉の端々に、嘲りの色がこれでもかというくらい塗り込められている。

 頭の血管がブチ切れそうだ。

 思わず怒りに任せて罵声を放ちそうになったが――

「神よ! プレイヤーのみなさんを解放してください! ワタシはどうなっても構いません!」

 叫んだのはリュウズだった。

 それを聞いた王魔は、心底辟易したように表情を歪ませた。

「プログラムは黙ってろ。僕はシグマと話しているんだ」

「きゃあっ!?」

 王魔が掌をかざすと、リュウズの体がビクリと跳ね、その場に固定された。

 金縛りか、もしくは昆虫採集のピン止めのようだった。

「リュウズを離せ」

「なん~で? た~だのプログラムだよ? それは君が誰より知ってるはずだけど?」

「違う。俺はリュウズに「きゃあ」なんてセリフは実装していないし、想定もしていなかった。バトルがないからな。だからもうプログラムなんかとっくに超えてる。二度とプログラムだなんて言うな」

「ふぁっはっはっはっ。無敵判定を利用した人間がよ~く言うよ」

 それには返す言葉もない。

 だが、貴様を許す理由にはならない。

「も~ちろん、ここまで再現した世界で、規定のセリフパターンだけというのも無理があるさ。だ~から、彼女を始め、NPCには補完がかかっている。君のゲームで言えばモーションの補完のようなものさ。個性のように見えるのは、自動生成された補完にすぎない」

 モーションの補完ときたか。

 キャラクターのモーションは、その全てを手付けしていたら作業量が膨大になる。

 だからキーとなる動きだけを作って、後はそれをゲームエンジン側で補完し、自然な動きに見せるように作られている。

 それの、人格版だと言いたいらしい。

「それがどうした」

「は?」

「感情移入させた時点でもうそのキャラクターの勝ちだ」

「きゃっはっはっはっ」

 俺の言葉に、今度は心底楽しそうに笑いだす王魔。

「い~や、実に独特な思考だ。他の有象無象のプレイヤーとは価値観が違って面白い。キミは最初から参加させるべきだったな」

「なぜ『ガーデン』を選んだ。なぜプレイヤーを巻き込んだ。お前は誰だ」

「きゃはっ、せっかくなら全部クリアしてから僕のところに来なよ。そしたら全部教えてあげるか~らさ」

 王魔がゆっくり上昇を始めた。

「行くさ。お前をぶちのめしに」

「そ~れは楽しみだなぁ……せっかくラスボスに受肉したんだ。そのくらいの楽しみはあってもいいよね。正直さ、神のロールでエンディングまで待ってるのも退屈だったしね~」

 その顔に、亀裂のような笑みを浮かべて、肩を震わせる王魔。

 反吐が出るような顔つきだった。

「……ああ、それと」

 ピタッと感情の消えた声で、王魔がつぶやいた。

「リュウズの無敵判定を使うのはさー、冷めるから禁止にしよう」

 王魔のひと睨みが、リュウズを貫くと、時間が動き出したかのようにその場に崩れ落ちた。

「かはっ……!」

「大丈夫か!」

「は、はい……でも、おそらく無敵判定は消えています。……感覚でしかありませんが……」

 それはそうだろう。

 あいつが「神」だとするなら、口に出したことを実行するのくらいたやすいはずだ。

「そ~んなつまらないことをしてくれたんだ、ペナルティは受けてもらわないとね」

「なに?」

 上空へ消えていく王魔が、その消える間際、不穏な言葉を残した。

 ペナルティ。

 あのクソ野郎が言うんだ。

 ロクなものであろうはずがない。

 そう確信した次の瞬間、町の入り口からけたたましい音が響いてきた。

 石畳を硬質の何かが叩きまくる音――

「……っ!」

 それは、大量のストーカークラブが這いずる足音だった。

 町の入り口を埋め尽くす、大量の蟹。蟹。蟹。

 クリスマス島の名物・蟹の大移動を数十倍に巨大化させたような地獄の有り様。

 がちがちとハサミを打ち鳴らしながら、蟹の群れが迫ってくる。

『オオオオ……』

 おまけに、火災鎧の硬直まで解けて動き出した。ぬうと持ち上げられた大剣は、断頭台のようにすら見えてくる。

「が~んばってね。きゃーっはっはっはっ!!」

 もう姿の無い上空から、王魔の声だけが降ってきた。

「くそったれが、絶対にデータ消去してやる……! 上書きして不可逆に消してやる!!」

 俺の王魔をめちゃくちゃにしやがって。

 リュウズをバカにしやがって。

 プレイヤーを殺しやがって。

『ガーデン』を地獄にしやがって。

 あの野郎だけは、何があっても絶対に許さない。

 必ずこの手で始末する。

 だから――

「何とかここを乗り切らないとな……!」

 殺到する化け蟹、炎の剣を振り回す火災鎧を前に、剣を握り直す。

「リュウズ! 教会へ走れ!!」

「そんな!? ワタシも残ります!」

「アホか! 無駄死にするだけだ!! とっとと行け!!」

「シグマ様はどうされるのです!?」

「俺はこいつらを引き付ける! もう火災鎧を倒しきるのはムリだ。せめて別のエリアまで引き付けて町でリポップしないようにする!」

「危険すぎます!」

「うるせーっ!! さっさと教会に行け!!」

 リュウズを突き飛ばす。

 手加減するだけの心の余裕はもうなかった。眼前まで蟹は迫っているのだ。

「わ、わかりました! 教会に助けを呼びに行ってきます……!」

 馬鹿だなあ。

 助けなんて来やしないよ。

 俺のせいでみんな地獄を見てるんだ。

 でも、リュウズがそう思うんならそれでいい。

 それで離れてくれるなら好都合だ。

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