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17・リュウズ

 町は半壊していた。

 無事な建物と被災した建物がモザイク状に散らばり、まるで空襲を受けた町の資料写真を思わせる。

 黒炭になった柱が所在なさげに点在し、崩れ落ちてきた瓦屋根が瓦礫となってうずたかく積まれている。かつて町であったものの墓標のようだ。あちこちに刺さったままの剣が、よりその寂寥感を増している。

 いまだ煙はくすぶり続け、鼻を煤のにおいがつく。

 町は、12の大通りがあってその両脇に建物が密集しているという構造だ。

 どこからでも各魔針体のエリアに行けるようにそういう構造なのだが、それゆえに大通りと言ってもさほど広くはない。一車線半といったところだ。

 その通りの中央にあるのが教会であり、遠くにそれが見えた。

扉は固く閉ざされている。

 クロスに伝えた通り、火災鎧討伐までみんな籠城してくれているのだろう。

 であれば、ここまで離れる必要はなかったかもしれない。

 正直、プレイヤーのみんなが暴徒になってしまえば、火災鎧と戦うどころじゃない。だからわざと離れた位置にいたのだ。

 他のプレイヤーに火災鎧が引き寄せられるのもまずい。

 大通りはシンプルな構造だが脇の小路に入られると追うのが面倒になる。町は全焼したわけではないし、健在な建物や半壊した瓦礫で、姿が見えなくなると非常にまずい。

 それに何より、他人を巻き込むつもりはさらさらない。

 だから、これでいい。

 ここから遠く小さく見える教会の前が、ゆらめいて見えた。

 真夏のアスファルトのように、高熱で空間が歪んでいる。

「来たか――」

 2時間のインターバルが明け、火災鎧が出現しようとしているのだ。

「心の準備はいいか?」

 俺は、隣に立つワンピースの少女――リュウズに声をかけた。

「は、はい……だいじょうび、だいじょうぶです」

 全然そうは見えない。

 セリフも完全に噛んでいる。

 ビスクドールのようにつやつやとした白い肌が、カタカタと震えている。それは足の震えが全身まで伝達しているようだった。

 遠くで炎が巻き上がるのが見えた。

 その炎を抑え込むように鎧のパーツが飛来し、炎を押し込めて人型を成していく。

『オオオオオオオ!!』

 鎧が雄たけびを上げ、それが340mを優に超す距離だったこともあって、遅れてやってくる。

 叫びが届き、リュウズの体がビクリと跳ねた。

「イヤだったら無理に協力してくれなくていい。相当に無茶なお願いをしているは知っている。人でなしの発想に近い。だから俺を創造主なんて、別に思わなくていいんだ」

「イヤではありません。むしろ、嬉しいのです」

 リュウズは、キッと口の端を引き結んで言った。

「ワタシは、これまでずっと……みなさんが死んでいくのを見ることしか出来ませんでした……だから、お手伝い出来ることが嬉しいのです。ワタシはあくまでゲームのキャラクターですから、プレイヤーのみなさんの幸せが私の幸せなのです」

「リュウズ……」

 彼女は、ゲーム的には、セーブポイントを担う存在だ。

 だから、基本的にはそこを動かない。ストーリーに大きく関わることもない。

 稀に、ランダムイベントで教会そばの花壇で水まきをしたり、教会の掃除をしていたりする程度だ。

 セーブポイントは本来、石板でもなんでもいい。

 実際、1.02まではリュウズがいないから、石碑を置いてそれをセーブポイントにしていた。

 リュウズを作ったのは、癒しが欲しかったからだ。

 何度も何度も死ぬゲーム。死ねばステージの入り口からやり直し。教会に戻るわけじゃない。

 教会に戻るのは、セーブをしに行くときだけだ。たいていは、一日のゲームプレイの終わりになる。

 そして、次に遊ぶときは、教会から始まる。

 ゲームの終わりと始まりに、癒しのキャラがいることが、何度も立ち向かうプレイヤーの癒しになればいいと思って、彼女を作ったんだ。

「……俺はずっと考えてたんだ」

「はい?」

「リュウズが俺をこの世界に呼んだ。でも、それは特殊な力があるわけじゃない。ずっと願っていたら本当に俺を呼べた、そうだったな?」

「はい。その通りです。セーブの概念がないこの世界では、ワタシには何の力もありません……ですから、なぜ呼べたのかも、わからないのです」

 こうして話している間に、火災鎧はこちらに気づいたようだ。距離は離れているが、俺以外にフィールドにいるプレイヤーがいない以上、自然な流れだった。

 巨体をのしのしと揺らしながら近づいてくる。

「お前は、自分がゲームのキャラだと言う。でも俺は、リュウズは生きてるんだと思っている」

「……えっ」

「俺は、お前を設定した時、別にこんな時に緊張して震えるキャラだなんて、想像だにしていなかった。セリフまで噛むなんて、ゲームのキャラとして考えられない」

 セリフを噛むという演出は、ともすればバグに見える。

 特別な意図がなければわざわざ入れたりなんかしない。

「ええと、それは、ワタシが不出来なのではないでしょうか」

「違う。きっときっかけは俺が設定したリュウズというキャラクターだったんだろう。でも、そこに心が宿った。それはもう俺の想像を超えているものだ。だから、リュウズ、お前は生きている」

「……っ!」

『オオオオオオオオ!!』

 そうこうしているうちに、火災鎧はすぐそばまで迫っていた。

 巨大な剣を引きずり、その切っ先からの延焼で、地面に燃える轍を一文字に生み出している。その炎のラインがどんどん近づいていた。

 もう数秒で攻撃開始判定ボリューム――攻撃の間合いに入ってしまうだろう。

「最後にもう一度聞く。本当にいいんだな?」

「……っ! はいっ! ワタシ、やりますっ!」

 小気味のよい返事が響いた。

 まるで、海に向かって思いのたけを叫んでいる高校生のような、清々しい声だった。

「よっし! それじゃあ頼むぞ!」

「はいっ!」

 そんな、ひまわりのような笑顔のリュウズの後ろに回り込む。

 そして、彼女の影に隠れた。

 絵面としては、最悪だった。

『オオオオオオオオオオン!!』

 火災鎧はついに至近距離まで迫り、剣で横薙ぎに殴りつけてきた。

 ヤツの目にはプレイヤーである俺しか入っていない。

 だから――

「ひゃっ!?」

 ガィン、と非破壊オブジェクトにぶつかった音が鳴り響き、その剣は跳ね返された。

『オオオ……』

 生命なのかも曖昧な火災鎧が、うろたえたように、見えた。

 それはそうだろう。

 自分の剣が、リュウズに跳ね返されたのだから。

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