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15・エゴ

 なぜなら、俺自身が、ずっとうまくいかない人生の中で、唯一、評価されたのがゲーム制作だったから。

 学生の頃から、そればっかりやってきて、全然うまく行かなくて。

 もともと、友達も少なかったし、運動も苦手だった。人と競うのも好きじゃない。

 だから10代の前半から、一人で没頭できるゲーム制作にハマっていった。幸い、パソコンがあれば独学でもゲームが作れるくらい、もうネット上に情報がある時代だった。

 その当時の友人に作ったゲームを見せたけれど「見た目がしょぼい」という理由で遊んではもらえなかった。確かに、市販のゲームとは比べるべくもないくらいのグラフィックだったから仕方ない。

 結局、ずっと一人でゲームを作っていた。実は理系というより文系だったから、プログラムはすごく大変だったけど、時間だけはあったから、無理やり頑張っていた。

 家族からも理解されていたかは怪しかったけど、それでもニートになるよりは、とゲームの専門学校に入れてくれた。

 でも、専門学校でもチーム制作に馴染めなかった。

 在学中に作ったのは、絵も描けないしプログラムも出来ないから消去法でプランナーを選んだというクラスメートの発案した、どこかで見たようなパズルゲームだけだった。

 この頃から温めていた『ガーデン』の企画は、日の目を見ることがなかった。

 3Dアクションは僕らには難しすぎる、というのがチームメンバーの弁だったからだ。

 そもそも、クラスメートたちはゲームを「作る」より「遊ぶ」のが好きなタイプであって、俺とは全くかみ合わなかった。

 結局、学校から帰って家で一人、ゲームを作っていた。

 でも、『ガーデン』のプロトタイプである『剣舞界』は、ネットのゲーム大賞に応募してみたものの、端にも棒にもかからなかった。

 今ならわかるけど、相当に粗削りだった上に、ゲーム性ばかりを気にしてプレイヤーキャラがデッサン人形みたいな最低限のモデリングしかしていないものだったのは失敗だった。だったら三人称視点じゃなく一人称視点にして見せるべきじゃなかった。

 そんなこともわからないのに、就活もうまく行くわけがない。

 卒業年次『剣舞界』をディスクに焼いてポートフォリオに添付し、たくさんのゲーム会社を受けた。

 だけど、自分には大きな弱点があった。

 まず、何でも一人でやってきていたので、コミュニケーション能力がない。

 それだけなら、致命傷ではなかったと思う。正直言ってゲーム業界にはコミュニケーション能力に難のある人間なんていくらでもいる。

 腕さえよければいい。

 その腕こそが俺の最大の弱点だった。

 全部一人でやってきていた俺は、全部が中途半端だった。全部が低レベルだと言ってもいい。

 プログラムも書くのが早いわけじゃないし、効率的でもない。

 モデリングも最低限の棒人間みたいなものや、積み木の家みたいなものしか出来ない。

 絵も描けないので、それっぽいドット絵を打っていたが、ドット絵師とは似ても似つかぬひどい出来。

 レベルデザインについても、一人で全部の職をやらないといけないせいで、きちんと練るだけの時間が取れていなかった。

 結局、チームで協力して分担するからこそ、特定分野でスペシャリストになれるのだ。

 その点、俺は何のスペシャリストでもなかった。

 肝心の企画についても、一人で作り続けてきたことで独りよがりになりがちだった。

 今でこそ、インディーゲームに注目が集まって、一人でゲームを作るクリエイターも珍しくはなくなったが、当時はまだまだ趣味として考えられている時代だった。

 一人でゲームを作った、というのもあまりアピールにはならなかった。

 あるいは、時代が違えばそれでも就職できたかもしれない。

 ゲーム業界というのは年中、人手不足の業界だからだ。

 しかし、自分の就職年次には世界同時不況がやってきてしまった。

 それはそれはすさまじい不況だった。

 アメリカの株安から始まったその大不況は、ゲーム業界どころか、日本全体が大きな衝撃を受け、就職市場は氷河期を越えた極寒地獄の様相を呈した。

 ゲーム会社の倒産も相次いだ。

 受け皿となる会社自体が減ったのに、倒産やリストラによって経験者が溢れた。

 不況時にイチから新人を育てる余力があるところは少ない。

 結果として、企業は中途採用を増やし、新卒採用を減らした。

 それが俺ら世代の学生を直撃したわけだ。

 そうして、就職面接で30社以上にお断りされて心が折れて。

 自分という存在を否定され続けることに、耐えられなくなったのだ。自分が好きなゲーム作りに、自分が否定されるのが何よりつらかった。あの頃は、面接に落ちた旨のメールを見るだけで、トイレで吐いていた記憶がある。

 同級生はゲーム会社以外も含めて100社以上受けるなんてのもザラだったけど、俺にはもう無理だった。

 ゲームしか作ってこなかったのに、それ以外のことを今さらやりたくなかったし、出来る気もしなかった。

 就職も諦めて、バイトで食いつなぎながら、ただひたすらゲームを作る日々だった。

 飲食チェーンのバイトでは毎日怒られた。

 手際が悪く、全部が遅いし間違いも多かった。

 もう消えてしまいたいくらいだった。

 それでも帰ればゲームがあった。作りかけの『ガーデン』があった。

『ガーデン』を完成させたいという欲求のほうが、自死願望より強かったのだと思う。

 憑りつかれたようにゲームばかり作っていた。

 それは逃避だったのかもしれない。

 でも、確信めいたものがあった。

 きっとこれが世に出たら受け入れられるって。

 それは自分がテストプレイヤーとして誰より『ガーデン』をプレイしていたことで、楽しさを、手ごたえを感じられていたからだ。

 それに、この頃、海外の大手ゲームパブリッシャーが、自社のゲームエンジンを無料公開にするという大きな出来事があった。

 これまで全部自分で組んでいたプログラムを、その市販のビッグタイトルでも使われているようなゲームエンジン側でもってくれるようになった事で、劇的に作業が楽になった。

 プロトタイプを作るのも、ゲームエンジン側の汎用素材を使えば、わざわざ自分でモデリングしたりする必要はなかったし、ユーザーが有償で素材を配布してOKという仕組みもあり、自分がやる作業はゲームデザインとプログラムがほとんどになっていたのだ。

 ゲームプレイの手触り感に時間を割けるようになったことで、確実に面白さが増していた。

 それが嬉しかった。

 何度も何度も人生を失敗し続けてきた自分と、何度も何度も死んではやり直し、戦っていくこのゲームが重なっていた。

 このゲームが受け入れられたら、自分もこの世界に居場所がある気がした。

 そうして発表した第一作『ソードガーデン』ver.1.00は、フリーゲームの配布サイト3つに登録して無料配布したものの、しばらく大きな反応は無かった。

 それでも2、3人が好意的な感想を書いてくれて、それが嬉しくてバージョンアップ作業に移った。ver.1.02でリュウズを追加したり、どんどん装備や敵を増やしていった。

 今考えると自己満足に近いものだったとは思う。

 それが偶然、当時流行り出した「ゲーム実況」で取り上げられると、急激にダウンロード数が増えた。

 ラッキーだったと思う。

 天然系の人気実況者が、『ガーデン』で事故みたいな死に方をするのがウケて、どんどん人気が高まって行った。

 学生時代にゲームを作り出してから10年経っていた。

 失敗だらけの人生で、初めての成功だった。

 そこからは色々厄介ごともあったけど、とんとん拍子だったと思う。

 おかげで、未だにほとんど一人で家にこもってゲーム制作が出来ているし、それで人並みの生活ができている。

 そんな過去の走馬燈が、一気に心を駆け巡っていた。

 一瞬のようでもあり、人生の追体験のようでもあった。

 俺がそんな人生から学んだことがあるとすれば、やはりそれは諦めないことだ。

 諦めずに作り続けてきたゲームのおかげで俺はこうして生きて居られている。

 その思いでアップデートを続けてきたのが『ガーデン』だった。

 何度でも諦めずに立ち上がり、挑戦をし続けるゲーム、『ソードガーデン』。

 だからこそ――

「君を『ガーデン』に縛り付けたのなら、俺は何も伝えられてなかったってことだ!」

「え、あ……」

 彼女が何かを口にしようとして、言葉にできずにぱくぱくと唇を上下させた。

「……『ガーデン』を愛してくれるのは嬉しい。……でも、それで得た何かを持って、旅立ってほしかった……」

「そんなこと……言われたって……」

クロスの肩から手を放し、自分でも気づかないうちに立ち上がると、よろよろと後ろに進んでいた。

「ああ……俺のエゴだ。……だけど、これは『ガーデン』のバージョンアップばかりを考えてた俺のせいかもしれない。……誰より『ガーデン』に縛られてたのが自分だから、みんなも縛り付けてしまったんだろう……」

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