あかおにちゃんとあおおにちゃん
とてもとても寒い寒い、よく晴れた日の事でした。
大きなお太鼓のような滑り台のある公園で、二人の鬼の子が何やら難しい顔をして話していました。
一人は、寒くても気にしないで走るのが好きな、りんごのようにまっかっかのほっぺのあかおにちゃん。もう一人は、寒がりで、色白のほっぺが輝いているあおおにちゃん。
「あかおにちゃん、大事なお話ってなぁに?」
寒さに震えて、マフラーから少し覗いたお口をカチカチ音を鳴らしながら、あおおにちゃんが聞きました。
それでも、あかおにちゃんは何やらごにょごにょ言うばかりで、真っ赤なほっぺの真ん中に固く結んだお口を、さらにきつく結んでへの字を作ったお顔は、さっきよりもまっかっかに見えます。
「ねぇ、ぼく足が凍って動けなくなっちゃうよ!家でココア飲みながら話さない?」
あおおにちゃんが泣きそうな声であかおにちゃんに言うとやっとあかおにちゃんは、あおおにちゃんにはっきりと話し始めました。
「オレはとにかく心配なんだ。あおおにちゃんが、大人になって鬼の仕事が出来るのか。」
あおおにちゃんは、きょとんとしてあかおにちゃんを見ました。
「あおおにちゃんも知っているだろう?大人になった鬼は、人間の世界に行って、子供を脅かしたりして怖がられる仕事をするって。」
なおも、あおおにちゃんは目をまんまるくして話を聞いていました。
「昨日、俺の父ちゃんが秋田って所で仕事をして帰って来たんだけど、そこでは悪い子を探して、雪の中を裸足でずっと歩き回ったり、包丁を振り回したりして大変だったって。でも、みんな泣きながら゛いいこになります!゛って約束して、鬼の恐ろしさを忘れないだろうって、父ちゃんは言っていたんだ。」
あおおにちゃんはうなずいて、そのあと首をかしげました。
「俺、それ聞いて、やっぱり父ちゃん鬼スゲーって思って。俺も、大人になったら、人間に恐れられる立派な鬼になりたいなって思って。」
今度はあおおにちゃんは強く何度もうなずいて「あかおにちゃんならなれるよ!」と言いました。
「うん。俺ならきっとなれると思う。それは分かっているんだ。でも…俺も心を鬼にして言う。あおおにちゃんは、大人になってもちゃんと出来ないんじゃないかって思うんだ。」
さっきよりも深くうなずいてあおおにちゃんは「確かにぼくには無理かもしれないね。」
と答えました。
「ほら、そんなことないって言い返さないだろう?こういう時は少しアマノジャクな言い方をした方がいいって学校でも教わっているじゃないか!」
と、あかおにちゃんはほっぺもおでこも赤くして言いました。
「でも、ぼく寒い中走り回るの嫌だもの。鬼の服って、何で寅のパンツとか、薄着なんだろう。」
あおおにちゃんは、手袋をしたまま虎柄の長ズボンをつまみました。
「俺も寒いけど、走り回っているうちに暖かくなるから、Tシャツと寅の半ズボンでも平気だぞ!」
あかおにちゃんは胸を張って言いました。そして真剣な顔になりあおおにちゃんを見つめました。
「今日はあおおにちゃんの寒がりを直そうと思って、お太鼓公園に誘ったんだ。俺、大人の鬼になってもあおおにちゃんとシュテンドウジとイバラギドウジみたいに一緒に仕事をしたり遊びたいんだよ。」
あかおにちゃんは話しながら、目をうるうると赤くしていました。
あおおにちゃんは、雪のように白いほっぺと目を輝かせて、あかおにちゃんの目を見つめました。
「ぼくだって気持ちは一緒だよ!大人になってもあかおにちゃんといたいよ。でも、鬼の仕事って、ぼくには難しい事がいっぱいなんだ。寒いのも苦手だし、あかおにちゃんのパパみたいに悪い子を探して走り回るなんて…出来る気がしない。」
あおおにちゃんは、うつむいてしまいました。そんなあおおにちゃんのほっぺをあかおにちゃんは冷たい両手でムギュッとはさみ、自分の方へ向かせました。
「そんな事を言っちゃダメだよ!本当は俺よりずっとずっと足だって速いくせに!節分には豆から逃げなきゃいけないから、あおおにちゃんは大活躍出来るじゃないか!」
ますます赤くなって鼻息も荒くなり、あかおにちゃんは弾けそうな勢いで言いました。すると、あおおにちゃんは自分のほっぺから、あかおにちゃんの手を優しく剥がして手袋の手で包みました。
「それだって、あんまり足が速くても、時々は豆に当たるようにしなきゃダメだって先生に言われたよ。走っているときは必死になると思うのに、どうやってちょうどよく走ればいいのか分かんなくなっちゃう。それに豆って痛そうだし…。」
あおおにちゃんは、そこまで言うと、お太鼓の滑り台の階段を登り、一番上に座りました。あかおにちゃんも、滑り台の下から登り、隣に座りました。
「ぼくね、大人の鬼には憧れるけど、分からない事が多くて。だって、ぼくはパパにそっくりだねって言われるし、ママと同じでココア好きだもん。なのに、親に似ていない子供は゛鬼の子゛って呼ばれるんだよ?そっくりな鬼の子だっているのに。それに、来年の事を言ったって、ぼくは笑わないよ?それなのに゛来年の事を言うと鬼に笑われる゛なんて、ひどい言いがかりだよ。むしろ、あかおにちゃんみたいに、先の事まで考えているなんて偉いなって思うよ。」
二人は、よく晴れた空を見上げて、冷たい風が木々を揺らす音を聞いて、呟きました。
「鬼にだって色々いるのになぁ…。」
ほぼ同時に同じことを呟いて、二人は可笑しくなって笑い転げて、そのまま二人で下まで滑り落ちて行きました。
日もだいぶ傾いてきて、暗くなる前に帰ることにしました。
あおおにちゃんは、片方の手袋をあかおにちゃんに差し出しました。
「今日は遊ばないでずっと話していたから、寒いでしょ?片方貸してあげる。」
「寒がりなのに大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。だって、こっちの手は寒くないもの。」
そう言って、手袋を外した、あおおにちゃんの暖かい手とあかおにちゃんの冷たい手を繋いで二人は歩き出しました。
「ねぇ、あかおにちゃん。ぼくが足が早くなったのは、いつも元気に走っているあかおにちゃんに追い付きたかったからだよ。あかおにちゃんといたいから、気づいたら足が速くなっていたんだ。」
あおおにちゃんが恥ずかしそうにと笑うと、あかおにちゃんも小さく笑ってポツリと言いました。
「おれ、本当は、すぐに追い付いてくるあおおにちゃんに゛さすがだな゛って思われたくて、今日特訓をしようって言ったんだ。ごめん。」
「ぼくはいつでもあかおにちゃんの事をすごいなぁって思ってるよ。今日も、ぼくの寒がりを治したいって言ってくれて嬉しかったよ。ぼく、鬼の仕事って、苦手な事ばかりだから、前に少し不安になってパパに相談したことがあるんだ。そしたら、パパが人間の世界には゛仕事の鬼゛っていう鬼もいるぞって教えてくれたんだ。」
「なんかそれカッケーな!」
「ぼくもそう思う!何事も頑張れば何かの鬼になれるんだって。」
あかおにちゃんはまじまじとあおおにちゃんの顔を見て言いました。
「よく考えたら、あおおにちゃんって、誰よりもアマノジャクだよな。」
あかおにちゃんは、鬼なのに、鬼らしい事は苦手だと言うあおおにちゃんが、実は誰よりも鬼らしいのではないかと思いました。
「えー!寒いのガマンしてそんな薄着でいる、あかおにちゃんの方がアマノジャクだよ!」
「アマノジャクの授業で冬でも半袖の服を着るといいって言ってたからだよ!あおおにちゃんは、真面目な鬼とは言えないから、俺、心配になったんだからな。」
「心配してくれてありがとう。ぼくはもう大丈夫だと思うよ。」
二人は鼻をすすりながら、にっこり笑い合いました。つないだお手手は、とてもポカポカしています。
家に着くまで、鬼せんべいよりソフトせんべいの方が好きとか、オニオンスープよりコーンポタージュが飲みたいとか、そんな話をしながら、すっかり不安な気持ちが消えていることに気がつくと、お互いにはにかんで、また好きなものや、学校の話をしながら歩いていました。二人は誰の心配もいらないくらい仲良しで、きっと、これからも一緒です。
大人の鬼になるまでの間も、立派な鬼になってからも、ほっぺとお目目を輝かせながら、きっと…。