第八話 公爵
「アンタ本当に第三位階の剣士なのか?遅すぎる」
「なっ!」
その顔に驚愕と悔しさを滲ませる護衛の剣士。
そこにもう一方の護衛が切り掛かってくる。
「スキル!斬空乱舞」
「おっと」
空を切り裂き、斬った衝撃が空気を伝って幾重にもなり襲い掛かってくる。当たったらひとたまりも無いだろう。
――が、遅い。
ローブのポケットに手を突っ込んだ状態でも余裕で回避できる程だ。
「なんだと!?」
左手をポケットに突っ込んだまま右手を空中に翳し、魔法を唱える。
「漆黒の影剣」
出現した魔法陣から黒い靄が生まれ、護衛達の周りにまとわりつく。
続いて黒い靄は分裂し、剣へと形を変えて護衛達の首にあてがい、動きを制止する。
「き、貴様何者だぁ!!」
それを見た公爵が激昂し、何者か尋ねて来たのでそれに答える。
「魔王だよ、歴代最強の魔王だ」
「ま、魔王だと?そんなバカな……」
鳩が豆鉄砲でも喰らったような、表情をする公爵。
「そんな驚く事か?」
「こ、殺せ!コイツを殺すのだ!」
セルナの姉、ソアラを羽交い締めにしていた最後の護衛が剣を構える。しかし、その剣は震えている。
「その構えてる剣を下ろした方が身のためだぞ」
――が、俺よりも、公爵を恐れたのか、無作為に突っ込んできた。
発動していた魔法が、護衛の体に纏わり付き、同様に制止を与えた。
「護衛を痛めつける真似はしない。だが公爵、お前は別だ」
「ひっ、ひぃぃぃ!!」
そのみっともない様子を群衆にさらしながら公爵は逃げ出す。
「逃がさねぇよ」
護衛と同様に発動していた魔法で公爵を捕らえる。
「安心しろ、殺しはしない。だが今後彼女達に手を出すのであればお前の命はないと知れ」
公爵の耳元でそういうと、
「な、何でもするから頼む!許してくれ〜!」
「お前は今まで、それを請う者たちの声に耳を貸したのか?残念だったな。殺さない、これが俺の最大の慈悲だ」
そのセリフを言い終えると共に、公爵をセルナと同様に殴り倒した。
「うわぁぁぁ!!やめてくれぇぇ!!」
悲痛の叫びを上げる公爵、やがて気を失った。
「足と腕の骨を砕いたぐらいで情けないぞ、公爵」
「「「…………」」」
静まり返る群衆。
群衆は歓声を上げるどころか何も口を動かす様子もない。
彼らもこの状況を望んでいた筈なのに、俺の力に対する恐怖が勝ったという事なのか。
群衆に構わずセルナの元に歩み寄る。
「セルナ、大丈夫か?」
「ええ、有難う御座います、本当に有難う御座いました」
感謝をするセルナに俺はこれからの事を話し、馬車に戻ろうと踵を返した。
その時、急にセルナが俺達を呼び止め、驚きの一言を放つ。
「私を……貴方のパーティに加えては貰えないでしょうか?」
まさか仲間に入れてくれだなんて言うとは。
驚きはしたが、冷静に言葉を返す。
「俺達はこれから追われる身となる訳だし、危険だ」
「私の全てを貴方に捧げるとお約束致しました、それに……」
ああ、そんなことも言ってた。
「それに?」
「ムム、何やら嫌な予感がするんですけど!」
「どうしたんだ、ティア?」
ハムスターのように口を膨らませるティア。
そこに、微笑みを浮かべながこちらの様子を伺っていたセルナの姉が口を開く。
「あの、先程はセルナ共々有難う御座いました。それで、助けてもらった身で大変厚かましい御願いにはなるのですが、セルナをお側に置かせては貰えないでしょうか?」
セルナを共にする事は三つほど理由があるという。
一つは既に大罪を犯したセルナを守り切る事は難しい。
それにセルナがいたのであれば、自由な行動が出来ない。
それはセルナも分かった上での事なのだろう。
二つ目は良く理解出来なかった。
「わかりました。もう乗り掛かってしまった船ですし、妹さんの面倒は俺たちが任されます」
セルナの姉の表情が少し和らぐ。
「有難う御座います」
「しかし何処の馬の骨とも知れん奴に、そんな事託していいんですかね?」
「その何処の馬の骨とも知れない方に、私達は救われました。どうかセルナの事、宜しく御願いします」
深々と頭を下げるセルナの姉、ソアラ。
俺といた方がいい……そんな気がする……か。
それが二つ目の理由だった。
少し逡巡はしたが、この世界についての情報を持つものが仲間になる事はこちらとしても嬉しい。
なので向かい入れる事にした。
「マサト!私はそんな簡単に決めて良いことには思えないんだけどなぁ。それに何か良からぬ事を考えている気がする!」
適当な事を言い出す、ティア。
「お名前、マサトっておしゃるんですね……宜しく御願いします、マサト様!」
「別に様は付けなくてもいいよ?」
「私は付けた方がいいと思うわ!」
ティアが何かとセルナに噛み付いてくる。
俺は守らなくてはいけない存在がまた一つ増えた事に、複雑な感情が抱いていた。
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