第六話 世界を敵に回す依頼
とある少女から依頼を受け、その詳しい話を聞く為にギルドの応接室を借りて椅子に腰を掛けた。
「私は元コーディス家当主、ピーター・コーディス子爵の 娘、セルナ・コーディスと申します」
「元?」
「はい、私の両親はある男によって殺害されました。現当主は私の姉、ソアラ・コーディスになります」
「そうか、立ち入った事を聞いた。すまない」
「依頼に関する事でもありますし、お気になさらいで下さい」
「俺はマサトでこっちはティアだ、宜しく」
「宜しくね!」
両者は共に挨拶をしたとこで、本題に移る。
セルナの依頼は殺人。
卑劣なある男から姉を救って欲しいというものだった。
「報酬は私が用意できる限りのものをお約束いたします」
これは大金が手に入るまたとないチャンス。
「そいつが悪だと証明出来るのであれば、請け負わない事もないな」
「証拠は此方になります」
セルナは服の内側から指輪のような物を取り出し、説明をしてくれた。
「この指輪はその場で見た景色や光景を、封じ込める魔術具です」
早い話がカメラって事か。
それから説明は続き、指輪の中にある光景を見せてくれた。
そこに映っていたものは余りにも悍ましい光景。
薄暗い地下室、多くの女性達を監禁。
そしてその様を見てニタニタと笑う男の姿。
そこで何が行われているのかは想像に難くない。
「わかった、もう十分だ」
その言葉に頷き、セルナはそっと指輪を元の懐に戻した。
そしてさらに説明を続けた。
「彼はマルム・メン・フォンサム公爵。自身の立場を利用した汚職の数は数え切れないでしょう。また、彼には多くの女性を圧力で屈服させ、監禁、拷問、凌辱、を裏で頻繁に行っています。今は持ち合わせておりませんが、他にも証拠も揃えております」
ただの依頼では無いと思ってはいたが、まさか公爵の殺害とは想像に至らなかった。
「それは少し厳しいな」
素直な感想が零れる。
「おっしゃる通りです。マルムを殺すという事は勇者と魔王を敵に回す、詰まるところは世界を敵に回すにも等しいですから」
勇者と魔王?
何故そうなる。
「ちょっと待ってくれ。何故勇者と魔王なんだ?」
「?」
どうやら俺が疑問に思っている事自体が、セルナには理解出来ておらず、同様に疑問を抱いてるようだ。
そこで一度、情報のすり合わせを行った。
「そうでしたか。平民の方々にはまだこの情報は流布されていないのですね」
そう言うセルナは、懇切丁寧に説明をしてくれた。
セルナの話によると、勇者と魔王が結託し、この国の王を始め、連合に組みしている国々の王を何らかの方法で誑かし、腐らせていったのではないかとされているようだ。
そして元々の体制に不満を抱いていた貴族達が力をつけ、今のような状況を作り上げたと言う。
人類至上主義を掲げ、奴隷制度の復活、悪質な領主達による横暴。
亜人に対する対応も一部ではあるが、差別的だという。
平民、貴族との間には今まで以上の大きな溝が生まれ、貴族には見せしめを、平民には情報錯綜で抵抗する余地も与えんとする状態。
ただ、教国テリスだけは少し違っていた。
それまでは首位権闘争などそれなりに荒れていたのが何故か逆に統率力及び信仰力を高めたらしい。
そんな中、これらに反発する一部の貴族達の中にセルナの両親が含まれていたそうだ。
特に反抗的なセルナの両親達は目をつけられ、頻繁に嫌がらせも受けていた。
その嫌がらせからセルナを守り続けていたのが姉であり、嫌がらせがセルナに向かわないよう、時にはその清らかな体を張って守っていた事もあったそうだ。
だがそれは殺害と直接的な関係は無い。
殺害されるまでに至った理由は、勇者、魔王、この国の王が謀計を巡らしている場面の目撃、流布した事にあると言う。
そこで何故、公爵の殺害が勇者と魔王を敵に回す事に繋がるのかと言うと、公爵は表向きの立役者の一人であるからということだ。
連合と魔王軍の和平後の関係も、その公爵が取り持っている一人にあるという。
今公爵は、よく使う手でセルナの姉を妾にしようとしているらしい。
「説明は以上になります」
長々と説明してもらったセルナには悪いが、俺の目的はアイツをこの手で殺す事にある。
もし公爵を殺せば、面倒になる事は間違いない。
この力がいくら強力だとしても、勝てる可能性は決して高くないだろう。
どれだけ質の良い戦士がいたところで、物量や知識には勝てないのだから。
「悪いが無理だな」
「わかっています。ですがこれは私の個人的な依頼と共に、現体制に反発している貴族達の英雄に向けた依頼でもあるのです」
セルナの言動に熱が篭る。
「だがなぁ……」
「もう真っ向から戦ってもどうにもならない状況です。私達は土俵にすら上がれていないのです!」
セルナの必死な説得と懇願には申し訳なくなる。
しかし、
「悪いが俺にもやる事がある」
「そ、そんな……」
拳を握りしめうな垂れるセルナ。
だが、まだその小さな牙は折れていないのだろう。
その表情から必死に言葉を探し続けている様子が窺える。
「他にも第一位階がいるのだし、そいつらに頼んだらどうだ?」
「それは叶いません。既に彼らは現体制側に寝返っています。もちろん中には圧力を掛けられている者も、第一位階を含め多くいますが……」
第一位階が寝返るなんて、かなり不味い状況下にあるという事か。
「悪いが尚更無理だな。この依頼は断らせて貰うよ」
悪いと思いながらも席を立ち、部屋を後にしようとするが、
「御願いします、もう貴方しかいないのです。私は見ました、あの水晶が割れるところを。あの水晶は貴方が来る前日に新しく替えられたばかりの物です。それから私は貴方が以前、力を使っているところも見ました」
見られていたのか。
「貴方ほどの力を持つ者ならきっと成し遂げられるはずです。微力ながら私も、それから現体制に反発している一部の貴族達にもお力添えを頂くつもりです」
「貴族達からの英雄に向けた依頼はどうしたんだ?」
表情が少し青ざめている。
だが、それだけ必死だったんだろう。
こればかりは心が痛むな。
「それじゃあな」
「私の…私の全てを貴方に捧げます……どうか……どうか考え直しては下さらないでしょうか」
「悪いな」
足早に部屋を出る、彼女の涙を見ない為に。
だが少し見てしまい、おかげで嫌な記憶がまた蘇る羽目となった。
「ティア、一度宿屋に戻ろう」
「……うん」
「なぁ女神様、どうすれば良かったと思う?」
「……わからないわ」
そりゃそうか。
「けど……」
「何だ?」
「貴方はきっと、良い答えを導く気がする」
その一言で心の奥底にある何かが、動いたような気がした。
ご読了有難う御座います。