第三話 女神と酒場にて
サムサム〜
再度店に戻り、"銀貨三枚"の黒いローブを購入し、隣の"金貨三枚分"の服を着た女神と次の目的地へと向かう。
「ねぇ、マサト。次は何処へ行くの?」
そういえば行き先を教えていなかったな。
「一応酒場に行こうと考えてます。字を読めないのでまた探してもらえます?」
「本当?まかせて!わたしちょうど喉が渇いちゃって〜」
本当にあの子供の様な女神は何処へやら、すっかり元気を取り戻し、少し能天気と化している。
ちゃんとこれからの事とか、帰る方法とか考えているのか甚だ疑問である。
「女神様、帰る手段とか考えてます?」
「え…うん……一応」
あぁ、こりゃ考えてないな、露骨に目を泳がせている。
ていうか分かり易いな、この女神。
「あんなに泣き喚いていたのに、結構な切り替わりようで」
嫌味ったらしく言ってみた。
「うぅぅぅ……」
おやぁ、今度はちょっとしおらしくなっちゃってまぁ、本当に可愛いなこの女神。
「いつまでも泣いてたらマサトの迷惑になっちゃうと思って……」
ヤバイ、抱きしめたくなるこの女神。
「すみません、ちょっと意地悪でしたね。そもそもの原因は俺なのに」
「うんうん、あんな事で動じてしまったわたしが悪いの。マサトが謝る事じゃ無いわ」
「そうですか……優しいですね、女神様は」
急にそっぽを向く女神。
「どうしたんですか?」
「ま、まあわたしは慈悲深ぁぁい女神だしね」
そう言う女神の頬は少し、紅潮していた。
え?脈あり?
「ね、ねぇマサト」
「なんですか?」
「そ…その……女神様だと呼びづらいと思うし、あと周りの人の事とか…ね、そのぉ……便宜上は名前で呼んでもらった方がいいと思うの」
え?何この展開?ていうか酒場探してる?
「そ、そう言えば女神様の名前知らなかったですね」
「……ティア」
おお、可愛らしい名前だなぁ〜。
「ティア様、改めて宜しくお願いします」
「あ、あと……敬語とかも要らないから」
「いいんですか?」
「堅苦しいの好きじゃ無いし……別に他意は無いわよ?」
バリバリ他意がありそうでならない。
「じゃあ、ヨロシク!ティア」
「う、うん」
この女神と一緒いると、なんて言うか……心が洗われるというか……癒される。
この先どうなる事やら"とか憂いを帯びちゃってた数分前の俺を殴りたい。
「ところでティア、酒場探してる?」
「あ、あ…ごめん、忘れてた!」
慌ててあちこちを見渡す女神。
癒されるわぁ〜。
一見凛々しく美しいお姉さんって感じだが、その子供っぽい無邪気な仕草が良いアクセントと化している。
それから少し探し回り、
「あそこなんて如何かしら?」
「なんかボロいな」
なんの捻りもない感想を呟くと、
「キッチリした酒場よりああいう一見地味で荒くれ者の集まる酒場の方が、良い話も悪い話も飛び交うと思うから、大体の情報は得られるんじゃないかしら?」
少し危険だが、女神の言う事は一理ある。
しかし突然頼もしくなったもんだ。
やはり女神だ。
只の泣き虫でも無ければアホでもない。
「じゃあ、あそこにするか」
「うん!」
喉を潤せるのが相当嬉しいのか、スキップをする女神。
如何やらこの女神は感情表現がとても豊かなようだ。
さて、扉の前まで来て急に緊張し出した。
いかにも荒くれの者の集まる酒場といった感じだ。
ここは舐められぬよう、敬語は使わず堂々と立ち振る舞った方が良いだろう。
「チャリン、チャリン〜」
軽い鈴の音が鳴り響く。
「いらっしゃい!」
勢いとやたらガタイの良いスキンヘッドのおっさんが出迎える。
おっさんの陽気さとは裏腹に、客は疎らだ。
そして従業員だろうか、酒を持った女性がひとり。
中はカウンターとテーブルの二種類に分かれており、俺たちは情報をおっさんから訊き出す為、カウンターを選ぶ。
「何飲むんだ?ボウズ、嬢ちゃん」
「そうだなぁ〜」
酒は苦手だからなぁ〜。
「わたしはエール!」
普通に酒を頼む女神。
「俺は……水で」
「おいおいそりゃねぇぜボウズ、嬢ちゃんが酒飲むってのに男のお前が水だなんてなよっちいこと言うもんじゃねぇぜ、それにここは酒場だ、酒以外は出さねぇよ」
くぅ〜、このおっさん中々迫力あるなぁ。
「わかった、なら同じもん頼む」
「よく言った!」
そう言っておっさんは鼻歌まじりに酒を注ぐ。
「はいよ!」
と、勢い良く出された酒はなみなみ注がれていた。
「ありがとう!」
と、言ってその酒を一気呑みする女神。
「ぷはぁ!」
「お、嬢ちゃんいい呑みっぷりだなぁ、もう一杯いっとくか?」
「お願い!」
お酒と言えば神なのか、神と言えばお酒なのか、いい呑みっぷりを見せる女神。
そんな旨そうに飲まれるとこちらも飲んでみたくなるもんで、一口飲んでみる事に
ん?…悪くない……ていうか旨い!
「ぷはぁっ!」
「お?なんだなんだ?ボウズもいける口じゃねぇか!どうだ?もう一杯飲むか?」
「頼む!」
おかわりをし、気分も乗ってきたとこで本題の話しを切り出す。
「おっさん、ちょっと訊きたい事があるんだがいいか?実は……」
「おっと、ヤベェ話なら御免だぜぇ、ボウズ」
やはりそういう話が舞い込んでくる場なんだろか、勘違いして切り出す前に話を遮られた。
「勘違いすんな、俺が訊きたいのは基本的な事だ」
「基本的な事だぁ?」
「俺達はこの街、いやこの国に来たばかりでね、わからない事が多い」
「なんだぁ、この辺じゃあ見ねぇ顔だとは思っていたが他所もんか?」
「まあ、旅人って所かな」
「ハッハァ!旅人って身なりじゃねぇな。特にそっちの嬢ちゃんは、貴族の娘っ子にしか見えねぇよ」
しまった!
少し不用意な発言だったかも知れない。
「運が良かったな。中には貴族連中と繋がってる所も、少なくはないんだ。まあいい、ウチは詮索しない主義でやってからよぉ、なんでも聞いてくれ」
どうやら助かったみたいだ。
詮索しないと言うのは有り難い。
只あまり変な事を言えば流石に怪しまれだろう。
かと言って俺はこの世界に関して余りにも無知。
どう切り出すべきか。
また別の酒場を探すのは一苦労だし、おっさんの言う通り、俺達の事が知られるのも面倒。
ここは思い切って情報を訊いてみるべきか。
悩みどころだなぁ…
ん?だが待てよ。
女神……いやティアならこの世界のこと知ってるのでは?
「ちょっと待ってくれ、おっさん」
おっさんの訝しげな目を横に、ティアにこの世界についてどれほど知っているか耳打ちする。しかし、
「この世界に関しては私も詳しくは知らないの」
と、耳打ちで返してくれるティア。
き、気持ちいい!と言うのは半分冗談で、結局おっさんに話を訊いてみる事にした。
「待たせて悪いなおっさん。何でもいい、この国について教えてくれ!」
なんだったんだ?と言わんばかりの表情をするおっさんが少し間を置き、話し始める。
「そうだなぁ〜よし。五百年の歴史を誇る王国、レギウム。そしてここはその王都レギス。商業、農業、漁業、畜産、なんでも盛んで、四国連合の中でも、ズバ抜けて活気と勢いのあるいい国だった……少し前まではな」
「少し前までは?」
「こりゃぁお前さんも知っとると思うが、俺たち人間、四国連合と魔王軍は十年前、和平を結んだんだ、突如現れた勇者様によってな」
どうやら凄い世界に来たようだ、人間側と魔王側が和平とは驚き。
だがそれよりも気になる事が一つ。
「突如現れた勇者様って?」
「少し長くなるがいいか?」
おっさんの問いかけに頷きで答えてみせ、話が再開した。
ご読了有難う御座いました。