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第二話 女神と服飾屋にて

冬は寒い…

其れはまさかの出来事だった。


くしゃみをして目を開ければ異世界、右手には女神。

こんなにも珍妙な経験は生まれて初めてのことだ。


だが最強の力を貰った上に女神もおまけで付いてくるなんて、それもう無敵なのでは?


なんて思ったら最後、期待を裏切られる結果が俺を待っていると。


俺は知っている。普段からラノベ読み漁ってれば何となく察せるんだ。

このパターンは決して無敵じゃない事を。





「おかぁさん〜〜〜!!ウワァァァン!!」


あろう事か母親に助けを求め泣き叫ぶ女神。

その場に蹲り、永遠と泣き続けている。


ていうかお母さん居るんだ。


「そろそろ、落ち着いて下さい」


「だってぇ〜、だってぇ〜!帰れなくなっちゃった〜」


これは本当にあの女神なのかと疑わざるを得ない。

あれ程女神然としていた彼女が、この有様である。

もはや子供も引くレベルに泣き叫ぶもんだから、そろそろ周囲の視線が痛い。


「仮にも女神なら幾らでも方法が有りそうなもんですが?」


「下界では力つかえないの〜!だからもう…帰れない……ウワァァァン!!」


これはもう手に負えない、手も足も上げたい気分だ。

要はお手上げ状態。

女神が帰る手段が無いと言うので有れば、俺としても出来る事は当然無い。

悪いと思いながらも、置いていく事にする。

すると、


「ヒック、ヒック、置いてかないでよぉぉ〜」


実はこの繰り返しである。

置いて行こうとすると、裾を掴み引き留める。

正直最初にコレをやられた時は可愛いと思ってしまった。

この美貌でこの仕草は反則級に可愛い。

老若男女、誰だって助けたくなるってもんだろ?


だが流石に似たようなやり取りを五回もやっていれば参ってくる。


「だから言ってるでしょ、俺も出来る限り協力しますって!」


「ほんと?」


「本当です!」


「絶対?神に誓える?」


神はアンタだろ。


「誓います」


「…グスンッ、わかった……」


このループにも漸く終わりが告げられた。


さて、まず何をすべきか?

先ほど周囲の視線をこの女神が集めていると言ったが、如何やらこの服装にも問題があった。

元いた世界での服とはまるで異なるからだ。


この世界で真っ先に気づいた事。


ユニシロは目立つ。


「先ずはこの目立つ服装をどうにかしたいんで、服飾屋を探しましょう」


「うん……」


未だ半べそをかいた状態ではあるが、さっきよりマシになり、服の店を求めて歩き回る。



十分ほど歩いただろうか、気付いたことが二つある。

それは、お金がない!のと、字が読めない!

真っ先に気づくべき事にも拘らず、アホみたいに歩き回ってしまった。

しかしこれは致命的だ。

お金が無いのであれば金を稼げばいい、だが何処へ行けばいいか分からない!


何故かって?


字が読めないからな!

いや、字が読めても分からないだろう。


まあ、直接訊いてみると言う手段もあるが、言葉を理解出来ない可能性がある以上、無闇矢鱈話すの良くないだろう。


――と、言うのは言い訳で、この人間と亜人が忙しなく行き来するのを見ていると、元々コミュ障な所が出てしまい、この手段は避けていた。


「"避けては通れぬ道"……かぁ」


どの世界でもコミュニケーションの取れない奴は、生きていくのが困難な様だ。

ただ危険なのも間違い無い筈だ。


そんな事を考えていると唐突に女神が口を開いた。


「マサト〜、服のお店通り過ぎちゃってるよ〜?」


衝撃の一言。


「え?何で分かるんですか?」


「だって"服屋"って、書いてるもん」


「字……読めるんですか?」


「そりゃそうでしょ、女神だもん」


だったら何で言ってくれなかったのかと問い詰めると、


「だってマサト、どんどん先にいっちゃ…うんだもん……ウワァァァン!マサトが怒ったぁぁぁ!」


俺は衆目の中でメソメソと泣き続ける女神と距離を置いて歩いていた。

これは俺が悪い。


「怒ってませんから、泣かないで下さい」


直ぐに泣き出してしまう女神とか厄介この上ない。


だがコイツは仮にも女神、であればそれぐらいの能力、知識があってもおかしくはない。


あの女神としての威厳も尊厳も無く、あられもない姿を見れば誰だって思うだろう?


コイツが女神様だなんて。


しかし俺はその先入観に囚われてしまっていた。

こればかりは俺にも非がある。


「女神様、実はもう一つ問題がありまして……」


「なぁに〜?ヒック」


少し落ち着いてきたようだ。


「お金がないんです」


「ん〜?ヒック、お金なら貴方の制服のポケットに入れといたわよ」


制服のポケットに手を入れ、中にある物を取り出す。しゃっくりの止まらない女神の言う通り、金の硬貨が十枚入っていた。


「こっちに……ヒック……来る前に入れといたの……」


この女神意外と役に立ってくれる。

女神の話によると、人を世界に送る前は一定の金銭を持たせ、言語理解を身に付けさせるらしい。


少し蔑ろな扱いをしてしまったことを申し訳なく思い、謝罪する。


「さっきはすみませんでした、女神様」


「ん?なんで謝るの?」


瞳に溜まった涙を服で擦りながら、上目遣いで俺を見る。

はっきり言わなくても可愛い。

小動物の様な愛くるしさがある。


「いえ、行きましょう、女神様!」


「うん」


そしてこの最高に可愛い女神と共に再度服飾屋を目指す為、踵を返した。




「ここですか、女神様?」


「そうよ」


すっかり泣き止んだようで、あの子供のような女神は何処へやら、その顔付きは女神らしい、凛々しいものへと戻っていた。


「じゃあ、入ってみましょう」


外観だけではまるで分からないが、入ってみると確かに服が売っている。

だが、


「高そうな服ばっかですね」


服飾屋なのは間違い無いが、俺が想像していたのはもう少し庶民的なものだった。


「いいじゃない、別に」


――と言いながら服を物色し始める女神。


最初に出会った頃の女神とは異なり、随分とフレンドリーな接し方をしてくる様になった。


本人曰く、あれは女神としての威厳を保つ為に過ぎず、本来はこの様に砕けた感じだと言う。

普段の服装もラフな格好を好んで着ており仕事の時だけ、


神レベルで歩きづらいローブと神レベルで動くと直ぐ落ちるベール、


――を付けてるのだそうだ。


「ねぇねぇマサト!これなんてどうかしら?可愛いでしょ?」


嬉々として選んだ服を見せてくる女神。

やはり好みなのかラフなものを選んでいる。

恐らく、見た目より利便性を優先するのだろう。

その考えは俺も同意出来る。


「ええ、似合うと思いますよ」


「でしょ〜〜!じゃあ、これにする!」


他人から見れば、恋人とのショッピングだ。


「お買い上げ誠に有難う御座います、そちらのお召し物は金貨三枚となっております。こちらで着て行かれますか?」


「はい!」


ラフな服の割に高いなぁ〜。


「では奥の個室へとご案内致します、此方です」


二、三分経ち、女神が奥の個室から戻ってきた。


「マサト〜、ごめんね〜待った?」


「いえ、そんなに待ってませんよ」


「ねぇねぇ、如何かしら?似合ってる?」


「最高です!」


「本当?嬉しい!」


何をしているのか、もはやそんな事を考えたってしょうがなく、そんな些末な事よりも目の前の出来事を楽しむことにした。


あのローブのせいで分かりづらかったが、エフォートレス…と言うやつだろうか。

ラフな格好をする事で豊満な胸がより強調され、その思わずナイスバディと言いたくなるような身体を全面的に押し出している。

いやぁ〜、惚れ惚れするスタイルだ。

アイツを殺したら、この女神と仄々暮らすのも悪くないな。


「では、行きましょうか」


「そうね」


服飾屋を後にしようとした……が、


「あの〜お客さん〜、服の代金の方を〜」


「え?」


「あ!ごめんね〜マサト、その…私お金持ってなくて……」


女神が手を合わせて、俺の様子を伺うように見る。


正直張り倒してやろうと考えたことは否定しないが、目の前の美女にそんな事出来るはずもなく、代わりに良いものを見れたと自分で自分を説得し、代金を払い店を後にする。


「ごめんね〜マサトごめん〜、怒ってる?」


「もう良いですよ、女神様」


しつこく謝ってくる女神。


わかっている、わかっているんだ。

この女神はとっても純粋な子なんだと、一生懸命頑張るタイプ何だけど、どこか間の抜けたとこがあるせいで色々残念な子なんだと。

再度自分に言い聞かせるも、先が思いやられと溜息を吐きながら次の目的を果たす為、歩みを進めた。


「あ、俺の服買ってないじゃん!」


ご読了有難う御座います。

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