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第十話 歴代最強の魔王の誕生 二

「久しぶりだなぁ、マサト。最後に見た時全然変わってねぇな」


漆黒の影剣(ニグル・グラディオ)


奴に手を翳し、問答無用で魔法を放つ。


やっと奴を殺せる。やっと奴に地獄を見せてやれる。


それしか頭には無かった。


複数に分裂した黒い靄が剣へとその姿を変え、奴に襲いかかる。


しかし、


「ひゅ〜、お前もに力があるのか」


躱される。

一つたりとして、当たる事はなく避けられた。


「俺もなぁ勇者になったんだよ、十年前にな」


十年前?

まさか、こいつが連合を狂わせた元凶なのか!

いや、コイツならあり得る……。


「相変わらずクソみたいな事をしてるようだな、悠真」


「あぁ、この世界でもトップは俺。どいつもこいつも俺様の奴隷って訳だ」


「お前は力を与えられずこの世界に来たんじゃないのか?」


「そうだな、あの時はマジであのクソ女神を恨んだもんだぜ。だけどなぁ、こっちにも神様がいたんだよ。要はその神に力をもらってこの世界を支配してやったってだけだ」


こんなクソ野郎に力を与えたクソ神が黒幕か。

こいつよりもよっぽどのクソ野郎のようだな。


「もしかしてその神の名はリステル?」


話を聞いていたのか、いつの間にか俺の横にいたティアが悠真に神の名を問う。


「おいおい、クソ女神じゃねぇか!」


そう言った瞬間、奴の姿が消えた。

気づけば奴はティアの首を締め上げていた。


「まぁ、結果的には良かったんだけどよぉ、クソアマにやられっぱなしってのはシャクなんだよ!」


「うぅ……答えなさい、その神の名は……リステルなの?」


「テメェに答える義理はねぇよ」


このままでは不味い。


どうする?

魔法を使えばティアを巻き込む可能性がある。

だが迷っている暇はない。


「くそっ!」


俺はティアを助けようと拳で奴に殴り掛かる。


――しかし、


「スキル、聖域」


奴に近づいた途端に体が重くなる。


「便利だろ?このスキルは一定数誰も近づけなくなる上に、魔法もスキルも使えなくなるって奴なんだが、この世界でこれを打ち破った奴は一人としていないんだぜ?――さて、この女神どうしてくれようかな〜」


態々力をもらって、態々この世界まで追ってきたというのにこのザマか。


「知ってんぞぉ、下界じゃ力使えないんだろう?見た目は十分良いんだし、平民どもの性の捌け口にでもなって貰おうかな〜」


「マ……サト……」


ティアの掠れるような声が聞こえる。


「ん?おいおいまさかお前ら出来てるとかじゃねぇよなぁ?それだと丸っきり昔と同じじゃねぇか?はははっ!」


「離せよ……」


「白鷺と同じようにみんなでボロ雑巾になるまで虐め抜いて、回しまくってやろうか?なぁ、マサト君!」


「離せって……」


「アイツが死ぬ前日、最後までずっと同じことを繰り返し言っていた言葉があるんだわ、何だと思う?マサト君〜!」


「…………離せ!」


「彼が英雄でいる限り私は屈しないってな!ガキのおままごとじゃねぇんだからよ、流石にあれは腹抱えて笑っちまったぜ!」


俺の中で消え薄れていた何かが蠢くのを感じた。


――英雄なんか糞食らえ!

――俺は英雄なんか目指しちゃいない!

――俺は英雄なんかになりたくない!


"俺はまだ、英雄になる事を諦めていない"


それは深層心理の声だったのかは分からない。

だがこの言葉が引金となり、俺の心の器は決壊した。


「俺は……英雄なんかじゃない!慈悲なき瞳(ディア・コルディエ)!」


その魔法を唱えると共に空の色が紅く変容する。

続いて空に目測で約三百メートルはあるだろう魔法陣が展開され、その中から実に禍々しい瞳のみが姿を現す。




「おいおい、やべぇな。現魔王だってこんなデケェの出せねぇよ、出せてせいぜい三十メートルぐらいだったぜ!」


ティアを離し、逃げようとするユウマ。


「残念だぜ、流石にこんなん出せたらヤバそうだ。出直すことにするよ、じゃあな」


そう言って扉を出現させその中に消えていった。


――だが、


この目が捉えていた。

奴はまだそう離れたとこにはいないという事を。


「マサト!その魔法を止めて!」


ティアが俺に何か言っている。


「ぐはっ!」


吐血する。

この魔法はあの目を顕現させているだけで、大量の魔力を消費するらしい。

魔力が減るごとに気が遠くなりそうだ。

辛い。苦しい。


それでも止められない。


アイツに地獄を味合わせるまでは止まらない。


冥府の誘い(インフェルヴィオ)


まだ見えている。まだ間に合う。


次はお前か、お前かと、悲しみに満ちた大量の手があの巨大な瞳を通して、奴を目掛け飛び出していく。


その手に必死に抵抗する奴の姿が見える。

俺の知らないスキルや剣技を駆使して必死に抵抗している奴の姿が見える。


奴の焦燥、恐怖!

苦しめ、恐れろ、絶望しろ!

お前の知らない感情を教えてやる!


醜い感情が止め処なく溢れていく。


掴んだ!


奴の右腕を掴んだ!


捥ぎ取ってやった!


苦しんでいる!

苦しんでいる!


さぁ次は左腕だ!


「マサト!」

「マサト様!」

「ボウズゥ!」


!?


その一瞬、その一瞬の迷いで取り逃がした。


何に迷ったというのか?


不味い、魔法が消えていく……


「ぐはっ!」


また吐血した。

だがそれがどうした?


「あっ……」


気づけば俺の瞳、耳、鼻。

ありとあらゆる所から血を流していた。

そして魔法が完全消失する。


「大丈夫だ、気にするな」


「何言ってんの、急いで治療しないと!」


「ティア様のいう通りです、このままでは……」


「取り敢えず店に入れ!」


おっちゃんに抱えられ店の中へ運ばれる。


奴を逃したが、奴の腕を奪ってやった。

これはこれで良かったのかもしれない。

だが、まだ足りない。まだ奴の絶望が足りていない。

俺は英雄ではなく魔王という事を再認識した。

英雄には似つかわしく無い、魔王がお似合いだと思い知った。


お陰でこれから先の事を決心できた。


奴は最強の勇者だ。

ならやるべき事は決まっている。

始めよう。

歴代最強の魔王。


だが今は少し疲れた。

少し休もう。


その決心を胸に、俺はこれから先の事を考えながら、


――そっと目を閉じた。

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