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家紋武範様主宰企画参加作品

お迎え


寝ていた俺は凄まじい揺れでベッドから放り出され目を覚ました。


ベッドから放り出されぶっつけた腰をさすりながら立ち上がり、電気を点けようとしたけど停電しているのか点かない。


でも部屋の中は窓からカーテン越しに射し込む光で明るかった。


足下に転がっていた目覚まし時計で時刻を知る。


え? まだ午前1時を過ぎたばかりじゃないか、なら外から射し込んで来る光は何なんだ?


そこまで考えたとき、1人暮らしの俺の部屋に俺以外の誰かがいる事に気がついた。


そいつは本棚に背を預け漫画を読みふけっている。


こいつが本棚に背を預けていたお陰で蔵書の下敷きにならずにすんだらしい。


それはまあいい、それよりこいつ誰だ?


俺は手近に転がっているバットを手に持ちそいつに声を掛けた。


「オイ! お前誰だ! 泥棒か?」


そいつは漫画から顔を上げ返事を返してくる。


「僕?」


「お前以外誰がいるんだよ!」


「僕、死神」


「死神? 死神が俺に何の用だ?」


「死神の用って言ったら決まっているじゃないですか」


「俺の命を取りに来たのか?」


「ピンポーン! 正解です」


「そ、そんな…………お、俺、まだ童貞なのに…………死にたくねぇーよぉー。


助けてくれよぉー、頼むよぉー 」


「うーん、そんな事僕に言われても…………」


そのとき電話の着信音が部屋の中に鳴り響き、死神がポケットからスマホを取りだし耳に当てた。


「はい、僕です」


『………………………………………………』


「え! 本当ですか?」


『………………………………………………』


「分かりました、指示に従います」


スマホをポケットに仕舞った死神が話しかけてきた。


「喜んでください。


あなたの助命が決まりました」


「本当に?」


「はい、今上司から連絡がありました」


「それじゃサッサッと帰ってくれ」


「あ、はい、直ぐ消えます。


と、これ貸して貰えませんか?」


読みかけの漫画とその続きの巻数冊を掲げ、問いかけてくる。


「ちゃんと返せよ」


早くお引き取り願いたく返事を返し手で追い払う仕草をした。


笑顔の死神の姿が薄くなり消える。


死神が消えてからカーテンを開き外を見た。











あれから50年以上過ぎた今、俺は死神が迎えに来てくれるのを首をながーくして待っている。


あの日カーテンを開けた俺の目に映ったのは、首都圏の方角に次々と立ち上がるキノコ雲だった。


翌日から髪が抜け落ち、歯茎から出血し、身体中に鬱血の痣が広がり痛みでのたうち回る。


死神が漫画を返しに来たときにあの時の電話の内容とこれからの事を話してくれた。


全世界に100億人近くいた人間のうち、核シェルターに逃げ込めた極僅かな者を除いてその殆どが一斉に地獄に落ちる。


そのため地獄の機能が麻痺して受け入れが停止、その影響で死神の命の刈り取り作業にも停止命令が出て止まった。


死神の業務再開は地獄の機能の回復次第だが、可也後になると言う。


そのため生き残った人間は死んでも地獄の門前で受け入れを拒否され、魂が直ぐに肉体に戻ってきて息を吹き返して生き返り、生き続ける事になる訳だ。


「もう嫌だー! お願いだー! 死神ー! 早く! 早く! 早く迎えに来てくれー!」






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― 新着の感想 ―
[一言] まさに、生き地獄。 その上で、確定で地獄に落ちるのが決まっているのだから、なおのこと救いがないですね。 これはつらい。 想像を絶する多重地獄ですね。
[良い点] 企画より拝読いたしました。 これって、天国もあるのであれば善人は回避できたりするんですかね? 実は身から出た錆的な裏読みをしてしまいました^^;
[一言] 企画から伺いました。 怖すぎます……でも、すごく引き込まれました。 死神が漫画を借りるという面白さと、現実に起こっていた事態とのギャップがものすごくて癖になりますね。 恐ろしい世界を描いてい…
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