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サクリファイス・オブ・ファンタズム ~忘却の羊飼いと緋色の約束~ (旧:羊飼いと緋色)  作者: たけのこ
第七章.哀哭の船

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8.いや君が居るからこそ──

昨日は忙しくて更新できなくてごめんね!


「うっ……うー、うん?」


「……目が覚めたか」


もはやボロボロで見るに堪えないというか、目のやり場に困るアリシアに掛けていた外套を肌蹴ながら上体を起こす彼女に声を掛けるが、未だに寝惚けているのか焦点の定まってない目でコチラを見つめる。

……あまりそうやって無防備な顔を見せないで欲しいのだが、やはり何故か彼女は初めて(・・・)会った時からいやに俺に好意的だ。


「──へへっ、クレルだぁ!」


「──」


コチラを見詰めていたと思ったら、何を思ったのかいつもキリッとした顔を緩ませながら首に腕を回して抱き着いてくるアリシアに硬直してしまい、それまでしていた作業の手を完全に止めてしまう。

無けなしの供物を使ったおかげで今度こそ彼女の身体は完治していて何処にも異常は無さそうなのは良いが……その分、破れたり血を吸ったりしてボロボロになった軍服と、彼女の眩しい白い肌との対比が鮮明になっていてタチが悪い。


「あ、アリシア……お願いだから離れてくれ……」


「な、なんでよぉ……夢の中でまで離れたくないのぉ……」


あ、これはダメだ……完全に寝惚けてやがる。

夢の中でまでも何も、出会ってからずっと一緒に居る気がするが、人の見る夢に細かい指摘をしても意味が無い。

それよりもここまで表情を緩める彼女というのも珍しい……出会ってから常に警戒しなければならなかったからだろうが、涙目になってまで俺に縋り付くアリシアに色々と限界が近付いている。


「あ、アリシア! ここは現実だ! 夢じゃない!」


「…………現実?」


「……そうだ、目を覚ませ」


彼女の肩を掴んで遠ざけながら軽く揺らし、声を掛ければ反応が返ってくる……それに重々しく頷きながら、さらに彼女に語り掛ければ段々と目の焦点が合い、瑠璃色の瞳に光が戻ってくる。

……それと同時に顔も赤くなる……ここまで鮮明に人が赤面する様をリアルタイムで見たのは初めてかも知れないな、などと少しだけ現実逃避しつつ、色々と昂った気持ちを抑える。


「あ、あっ……あぅ……………………あぁぁぁぁああああ!!!! ごめんなさい!!!!!!」


両手で真っ赤になった頬を抑えながら涙目で蹲る彼女の姿を見るのは良心が咎めるため、少しだけ視線をズラす事でなるべく見ない様にする。


「やだっ……やだっ……私っ……あぁぅ…………か、完全に夢だと思ってて……!! その、あぅ……抱き着いて……?!」


凄いな、人とはここまで取り乱せるものなのか……完全に今の呟きが俺に聞こえている事など頭にないのだろう、寝起きの頭には衝撃が大きかったのだろうが早く正気に戻らせねば、これでは恥の上塗りである。


「コホン! あ、あー……アリシア? もう身体は大丈夫なのか?」


「……か、身体? …………そうよ! クレルあなたもう動いて大丈夫なの?!」


「うおっ?!」


先ほどまで涙目で赤面してた相手と同一人物とは思えない程に機敏に動き、真剣な顔で俺の頬に手を当てながら顔を覗き込み──って近い近い! 顔が近すぎる!


「お、俺は大丈夫だから! 少し離れろ!」


「……本当に大丈夫なの? 何処か痛くない? 気分はどう? 私の水飲む?」


「……本当に、大丈夫……だから」


「なら良いけど……」


彼女の真剣な眼差しに、勝手に恥ずかしがっているのが申し訳なくなって来る。

……何故彼女は初対面であるはずの俺に、ここまで無償の愛を注いでくれるのだろうか……何故俺は彼女の事を何も覚えていない癖に、一丁前に彼女を求めてしまうのだろうか……何故俺は……俺は…………この胸の痛みはなんなのだろう。


「……それよりも、お前の方こそ身体はどうなんだ? 大丈夫か?」


「え? 私? ……あれ、そういえば怪我がない?」


目が覚めてすぐ、自我を失ってしまった俺が噛み付いてしまった痕がまだ薄らと残ってしまっている首筋をそっと指先で撫でながら問い掛ける……今さら自分の身体の変化に気付くのには呆れるしかないが、元気な彼女を見ていると心が暖かくなるからどうでもいい。

そのまま自然と口元を緩めながら指先で彼女の綺麗なピンクオパールの髪を掬い、梳かす……そのまま手を持ち上げ、彼女の赤い頬を撫で──急いで手を下ろす。


「……その、すまん」


「……べ、別に大丈夫よ? ……むしろもっと触れて貰っても構わにゃいゴニョゴニョ」


アリシアはペタンと座り込み、自身の顔の横から流れ落ちる髪を両手で口元に持ち上げて顔の半分を隠しながら俯くが……赤い耳まで隠せておらず、その状態でゴニョゴニョと何かを小さく呟く様はハッキリ言って心臓に悪い。

何かの魔力攻撃か? ついに彼女は狩人としての本能に目覚め、その職責を全うしようとしているのか? ……無意識ならこれほど恐ろしい攻撃はないだろう。


「「……」」


──黙ってないで、なんか喋って!

図らずとも今この瞬間だけ、彼女と考えている事が一致した……気がした。するだけだ。

だがしかし、このままの状態でいるのは不味い事も事実……未だにここは敵地のド真ん中であり、今は襲ってくる頻度は少ないが全く無いわけではないのだから……今のうちにできる話し合いはしておきたい。


「あ、あー、コホン! アリシア、頼みがあるんだが良いか?」


「にゃ、にゃに?! 私にできる事なら何でもするわよ?!」


……未だに動揺していたアリシアの迂闊な発言に一瞬だけ邪な欲望が顔を出したが、鋼の精神でこれを抑える。


「その、な……出来たらで良いんだが……」


「……なにかしら?」


コチラの雰囲気を察してか、彼女も気持ちを切り替えて真面目な顔つきになる……まだちょっと顔が赤いが、それは言うまい。


「……アリシアの『火』の魔力をくれないか?」


「……私の『火』の魔力?」


「あぁ、そうだ……他人に魔力を一部だけでも譲渡するなど色々と負担が大きいとは思うが……頼めるだろうか?」


魔力の譲渡……それは渡す方も渡される方も多大な負担を強いる行いである為に、断られたら潔く諦めるつもりだが……アリシアに『火』の魔力を貰えるか貰えないかでこの後(・・・)のやりやすさが違って来る。

そもそもな話、自分の魔力とはもはや魂や記憶、人格など……その者の根源に深く結び付いている神の欠片だ。

それをちぎり取って全く性質の違う相手に渡すなど、その場で腕を切り落として任意の相手に移植するのと何ら変わらない。

彼女の場合は猟犬からであるため、魔法使い同士がやるよりかは負担は少ないだろうが……適合率の高さとこれまでの結び付きの深さによっては魔法使いよりも辛いかも知れない。


「別に良いわよ?」


「……そんな簡単に請け負って良いのか?」


想像以上にあっさりと承諾する彼女にコチラの方が驚く……まさか魔力の譲渡の大変さを知らない──


「──何でもするって言ったじゃない」


「──」


……………………あぁ、眩しい……眩しいなぁ……暗く、惨めな奈落の底に堕ちるしかない僕たち魔法使いにとって彼女はとても眩しい……手を伸ばしたくなる……彼女が欲しくなる。


「……なら、頼めるだろうか」


「良いけれど、理由は聞かせて貰える?」


「あぁ、それはもちろん」


自分の目が彼女の輝きに灼かれてしまわない様に、少しだけ視線を逸らしながら説明をする。


「僕が主に使う魔法は『生命』だ、そしてアリシアの使う『火』はその『生命』を育み、強化する性質を持つ……要は少ない供物ではあの魔物を倒すにしろ、ここから脱出するにしろ心許ないからドーピングがしたい」


「……なるほど、それをしてクレルは大丈夫なの?」


……あぁ、こんな時でも君は僕を優先して心配してくれるんだね……これ以上君の優しさや愛情に包まれてしまったら、自力で起き上がれなくなりそうだよ。


「もしかしたら僕も危ないかもね……魔法は強化されるけど、その分揺り戻しも激しくなるだろうし」


「……なら、またクレルが大変な事になるんじゃ?」


彼女の心配はごもっともだけど、何だか可笑しくてクスクスと笑いながら僕は彼女の……まだ僕の歯型が残る首筋をそっと撫でる。


「いや君が居るからこそ──」


何故だかビックリした顔で僕を見詰める彼女が愛おしくて堪らない……けれど、一度は放棄した僕(・・・・・・・・)には彼女を愛でる資格は無い。


「──好きな女性が居るからこそ、僕は無茶が出来るんだよ?」


「……ぁ、はぃ」


今度は僕じゃなくて床を見詰めながら小さく返事をする彼女を不満に思いながらも、まぁ仕方ないと考え直して……魔力の譲渡を始める。


▼▼▼▼▼▼▼

アリシア好きの知り合い: ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛

クレル好きの知り合い: ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛

カプ厨の知り合い: ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛


作者: 地獄かな……?

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