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サクリファイス・オブ・ファンタズム ~忘却の羊飼いと緋色の約束~ (旧:羊飼いと緋色)  作者: たけのこ
第五章.美しくありたい

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魔物調書.No215,875『エルフ』※討伐済み

割と知り合いからも好評な魔物調書だぜ!


この書物は魔法使い相互組織『奈落の底(アバドン)』の管理下にある、魔物について纏めた物である。利用者は以下の項目を厳守せよ、


(一)書物を破損しないこと

(二)必ず元の場所へと戻し、司書へと報告すること

(三)持ち出しは厳禁

(四)読んだ事柄は口外禁止

(五)新たな情報は直接書き込まず、司書を通じて知らせること

(六)これら破った者は殺害する


以上を守って楽しく読書しましょうネ☆彡.。


by.図書館司書


▼▼▼▼▼▼▼


名称……『エルフ』


推定討伐難度……レベルIV


出現地域……レナリア帝国・ブリーティア公爵領。


起源……嫉妬。


討伐者……クレル・シェパード、リーシャ・スミスの二名の合同。


容姿詳細……陽光を反射する真っ直ぐに伸びた金髪に、エメラルドを嵌め込んだかのような瞳、透き通るような白い肌はレナリア人よりも白く、そうでありながら抱く感想は病的ではなく、健康そのもの。

自身の完璧なプロポーションを顕示するかのように身体に張り付き、そのラインを際立たせ、胸元と腰から足首に大胆にスリットの入ったドレス。それに半透明なケープを纏う、異性を誘惑するかのような出で立ちである。


戦闘詳細……自身の半径十数メートルの範囲にある木々をまるで女王であるが如く侍らせ、それらに命令を下す事で追い詰める。その木々に貫かれた『生命』はもれなく、彼女の養分と化す。


行動詳細……魔力溢れる森の中で、それを構成する一部の木々を操る事で誰にも察知されずに孤児院から子ども達を攫い、『対価』とする事で美しさと若さを保っていたようである。

だが所詮はただの木偶人形……情緒が安定せず、何か別の事に集中している時であれば細やかな操作は出来ず、大雑把になると思われる。


以降は討伐者であるリーシャ・スミスからの聞き取りによって『エルフ』がどういった経緯で産まれたのか記したものである。


▼▼▼▼▼▼▼


森の魔女『エルフ』はブリーティア地方の貧民街に娼婦の母と、暴漢の父親との間に生を受ける。


『あんっ……やっ……あん!』


子どもである彼女が見ていようが構わず性交を強要する父親と、それに逆らえない母親を見て育ち、彼女が物心つく頃には既に暴力と性臭が……世界の全てだった。


『オラ! お前もさっさと機織りのバイトに出かけろ! 誰のお陰で生活できてんと思ってんだ!』


『……』


『せめて俺の酒代を稼いで来い!』


当時の、彼女が産まれた頃のブリーティア地方では機織り機が発明され、産業革命が起こり始めた時期であり、まだ幼い子どもが低賃金で長時間労働と雇い主からの暴力を受けていた……それに送り出される度に『エルフ』は世界への憎悪を膨らませる。


『うわぁー! またアグリーがきたぞー!』


『白髪の忌み子だー!』


『その顔の出来物はなんだよー!』


『やっぱり娼婦の娘だからな! せいびょー! せいびょーっていうの持ってんだよ!』


『……』


そして職場でも受ける〝異性からの暴力〟に『エルフ』は下を俯くしか無かった……彼女は自分の顔が娼婦の母親の美貌ではなく、どうしようもなく穀潰しで不細工な父親の容姿を継いでしまった事を理解しており、自身の容姿が堪らなく嫌いだった。


『普通、女は大人の相手をしてお金を貰うのになー! なんでこの仕事してるんだろうなー!』


『バーカ! そんなの決まってるだろ? コイツが──』


『……』


お決まりの文句を察知して『エルフ』は耳を塞いで蹲る……彼女自身、自分の母親の美貌が妬ましくもあり、また自分の顔が嫌いな彼女にとって分かり切った事を何度も言う同年代の男の子が理解できない。怖い。


『『──醜いから! ギャハハハ!』』


『こぅら! お前ら遊んでねぇで、さっさと仕事をしやがれ!』


『やべ! 親方が来たぞ!』


『散れ散れ!』


貧民街では酒に酔わないとやってられないのか、大人達はみんな飲んだくれており、この職場のトップも例に漏れず酔った勢いのままに逃げ遅れたアグリーを殴り飛ばして、寝室へと入っていく。


『……グゴー!』


『……』


少しして聞こえてくる間抜けなイビキに『エルフ』は疎らに降る雪のように少しずつ、しかし確実に殺意を募らせながら機織り機に手をかけ、今日のノルマをこなすべく黙々と作業を開始する。


『一枚、二枚、三枚……少ねぇんだよ! この愚図が!』


『ッ! ……』


そうして自分が一日中働いて稼いだ額はたったの銅貨五枚……それすらも穀潰しの父親に搾取され、さらには文句を言われながら殴られる。……『エルフ』の中でさらに負の感情が溜まってくる。


『あーあ、お前がもう少し器量良しだったらその年齢でも売れるんだがなぁ……鬱憤晴らしのサンドバッグにしかなりやしねぇじゃねぇか! このクソガキがぁ!』


『……』


『エルフ』にとって不運な事に、この日の父親は何か面白くない事があったらしく、虫の居所が悪かった……突然にキレだしたかと思えば彼女を殴り続ける。


『クソがッ!! 俺だってやれば出来るんだよぉ!』


『……ぅ! ……あ!』


時間にして三十分程だろうか? 散々『エルフ』を殴ってスッキリした父親が上から退いた頃には……彼女の片目は潰れ、強く引っ張ったのか髪の一部が禿げてしまっている。


『おうおう、さらに醜くなりやがって……おい! 股を開け! この際、穴なら何でも良い!』


『ッ!』


『ったく、アイツ何処に行きやがった?! こんな時に居ねぇからガキを使う事になったじゃねぇか!!』


今まで散々暴力を振るい、醜いと罵ってきた自分の娘に情欲を向ける父親を見て……『エルフ』は全てを悟る。……女は〝美貌〟が無ければ幸せにはなれないと、そしてなによりも──


『ヒック! んじゃさっさと──がっ?!』


『……』


──〝暴力〟が無ければ生き残れず、他者から奪う事も出来ないと……近くに落ちていた酒瓶の破片で父親の首の頸動脈を深く抉りながら、『エルフ』は悟った。


『……』


初めて自分の手で望みを叶えた彼女は一時的な自由に酔いしれながら、当てもなく彷徨う……恐らく他の男と駆け落ちした母親は帰って来ないだろうし、父親は自分が殺したから行き場がないのだ。


──ドンッ!


『おっとごめん──おや、こんな所に子どもが』


『ッ!』


そんな時だ『エルフ』は運命の出会いを果たす……端的に言ってしまえば〝一目惚れ〟をしてしまったのだ……そのキャラメルのような褐色の肌に、星空の明かりすら吸い込んでしまいそうな黒髪に……そして不思議な銀の瞳に。


『ちょっと、なにしてるのよ?』


『ごめんごめんクレマンティーヌ、子どもとぶつかってしまってね』


『……あらほんと』


そして二度目の運命の出会いをしてしまう……そう、『エルフ』はこの短時間で〝失恋〟をしてしまう。


『浮浪児みたいだし、孤児院に連れて行こうか』


『まーた君はそうやって……ま、いいけどね』


一目惚れと失恋をほぼ同時に経験するという衝撃に呆然としている間にあれよあれよという間に……彼女の預かり知らぬ内に、孤児院……『妖精の実家』へと連れて行かれる。


『はじめまして、私はクララさ!』


『……アグリー』


少しの旅路で辿り着いた孤児院には自分を含めてまだ二人しか子どもが居ないようだった……それが良い事なのか、悪い事なのか分からない彼女にとって……ただ寂しいと思ったが、それよりも……目の前の少女はまだ幼く、自分と同じ年頃でありながら色気があり、陽光を反射する真っ直ぐに伸びた金髪に、エメラルドを嵌め込んだかのような瞳、透き通るような白い肌という、自分には無い〝美貌〟に……激しい嫉妬を覚えた。


『さぁ、羊飼いさん! 私と子作りしよう!』


『……またかクララ、君はまだ子どもでしょ?』


どうやらクララと名乗る少女も同じ男に恋をしているらしく、またそのサバサバとした性格で積極的にアッタクしているらしいというのを見て、『エルフ』も彼に振り向いて貰おうと努力する。


『あ、こら! ダメだろアグリー、人から奪ったら!』


『……』


しかし悲しい事に『エルフ』には、暴力と略奪、性交という手段しか知らず、意中の彼に振り向いて貰おうとクララから花束を奪ってプレゼントしようとするも怒られてしまう……自分の容姿にコンプレックスのある彼女にはこれしか手段がないのに。


『ふふん! どうだアグリー、私はついに羊飼いさんに抱かれたぞ!』


『……』


『こう……薬を盛って寝室に忍び込めば一発、いや三発だった!』


そうして十年の月日が経ち、孤児院にドンドン子ども達が増えていってもその場に馴染めない『エルフ』に、最悪の報せが聞かせられる……意中の彼は自分ではなく、クララを選んだと。


『羊飼いさんは明日には何処かに行ってしまうんだ、どうだ? お前もこの薬で──あ、何処に行く?!』


この時ちゃんとクララの話を聞いていれば違った未来があったかも知れない……だがショックが大き過ぎた彼女にはそれどころではなく、森の奥へと走り出してしまう。


『はぁ……はぁ……私は奪われるばかり』


森の奥、偶然にも羊飼いが探していた魔力残滓の核たる大樹によっかかりながら『エルフ』は一人で涙を流す……今までの奪われた人生を思い返しながら。


『? ……願い? 対価?』


そんな彼女に魔力が囁き掛ける……『対価』を支払え、『欲望』を叫べ、と……そう嘯く。


『私は──』


『──アグリー! こんな所に居たのか……まったく、急に飛び出すもんじゃないよ』


『……』


なんと間が悪いのだろう……そんな彼女の前に、彼女が一番〝欲しい物〟が、〝奪いたい物〟が、クララが目の前に現れる事で……『エルフ』の心は決まる。


『私の願いは──人から奪いたい……その美貌も、若さも、意中の男性の心も』


『……アグリー?』


クララから背を向けて、魔力の核たる大樹に手を当てながら自分の『欲望』を捲し立てる……同期の少女の呼びかけにも耳を貸さずに。


『あの子の……クララの美貌が欲しいわ』


『アグリー! アグリーってば!』


『対価は──』


自分の忌々しい名前を呼ぶクララを指さして、アレが欲しいと宣う。


『──あの人に捧げる筈だったこの純血』


『アグリ──がァっ?!』


自分の顔が嫌いだ、なんら価値を見い出せない……そんな彼女にとって唯一自分の持ち物で価値あるものはその純血、父親からも守り通し、羊飼いへと捧げるはずだったその純血。


『さぁ大木さん、私の純血を吸って養分すれば良いわ……彼の心が手に入るなら』


『……あ、あぐ、りー』


クララの顔が焼け爛れ、陽光を反射する金髪はくすんだ白髪に、エメラルドを嵌め込んだような瞳は片目が潰れた赤目に、顔に出来物ができまくる……それとは対照的にアグリーには陽光を反射する金髪にエメラルドを嵌め込んだような瞳、美しい白い肌を手に入れる。


『あぁ、喉が乾いたね』


嫌いな自分と同じ顔になった少女を捨て置いて、アグリー──否、『妖精の魔女(エルフ)』は……その乾きと美貌を保つために孤児院の子ども達に手を出す。……なぜなら彼女にとって──


『あぁ、美味いね……さすが綺麗な人間だ』


──子どもは搾取するものでしかないからだ。


▼▼▼▼▼▼▼

知り合い: 重すぎるわ!

作者: え、ごめん。

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