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1-4 マジヤバい! 暴飲暴食ノンストップ!

挿絵(By みてみん)

 てくてくてくてく、てっくてく。一行は久しぶりの街へ歩いていく。砂地が草原に変わる。雲が増えた。昼前にカダ湖南岸の港街レグスに着いた。民家は石造りが多い。大通りは御大層にローマ式の石畳で舗装されている。農民が多い。

 この街から船で北岸の港町ダブネルまで行くのだが、今日くらいは休もう。

 シフは両腕をわきわき「ビールが美味いんだよな、この街は」

 「ごっくんプリーズ?」スィラージが意味不明の擬音を発する。

 「駄目駄目、心がこもってない。こうだ、ごっくんプリーズ♪」

 「ごっくんプリーズ♪」

 「なんというか踏み込みが足りないんだよ、もっと心を解き放つんだ。ん~ぅごっくんプリィーズゥ♪」気でも狂ったようなシフのオーバーアクションが炸裂する。

 「あっはっは、そこまで解き放てるわけがないだろ」

 ルシールが頷く「頭がおかしいとしか思えない」

 「お前ならできる! お前はやればできる男だろ!」

 「やれやれ。ぐずぐずしてる暇無いぞ」ガボルアが酒となると俄然張り切る。

 「わかってるよ、宿を取ってからだ」



 「黙れ小僧!」歩いていくと一軒の民家から男たちの怒声が聞こえてきた。

 「お前こそ黙れこのクソオヤジ! 何度でも言ってやる! この人間力0男が! 昼間っから酒飲んでんじゃねえよ!」

 「黙れと言ったろ貴様ァ! ぶっ殺してやる!」

 「二人とも! もうやめて!」女の子の声もする。

 ドカン! ボカン! ガシャン! 物騒な物音が響く。

 「ぺっ、その程度か。ついに時が来たようだな、俺があんたを乗り越える時が」

 「やかましい! それなら手加減無しだ! 本気で行くぞ!」

 「それはこっちのセリフだ! 死んでも恨むなよ馬鹿野郎!」

 「やめろと言ったのがわからんのかあああああ!」それは女の子の本気の叫びである。

 ピカッ! チュドーーン! 何かが爆発した。

 「ごふぉっ!」

 「ぎゃん! お、お前、それ反則」がくり。

 「カーッカカカカカカカ」阿修羅の魂を持つ女がここにいる。魔力暴走からのトランスモードかな?

 民家の窓や隙間から煙がもくもく。

 シフが言う「バイオレンスな家だな」

 スィラージは何故か嬉しそう「くくく、壊すってのは気持ちが良いよなあ。修羅の道を行く者がまたひとり。名前はまだ無い」

 「あんた何言ってんの?」ルシールは呆れ顔。



 宿屋を探していくと段々賑やかになってきた。酒場も近いらしい。昼間から酔っぱらいがふらふらしている。ゾンビかもしれない。シフが目当ての宿を探す間、スィラージはその辺を散策する。 

 物売りの少年がやってきた。頭の上に笊を乗せている。「ハーイ♪ そこのカッコいい兄さん?」

 ジョジョ立ちのスィラージは振り向いて「もしかして俺のこと?」

 「うわ、マジでイケメン! これはヒデキ感激雨あられだね!」

 「はっはっは、いつの例えだよ、まったくこれだから田舎者は困るぜ」スィラージはおだてに弱い。

 「ところでパン食べない? おいしいよ」笊の中身はパンらしい。

 「パンか。おい少年、とりあえず見せてみろよ。ほう黒糖パンか? 中身は?」

 「うーん、ごめん、実は何も入ってないんだ。5人も兄弟が居るから中身になりそうなバターとか全部食べられちゃったんだ。だけどコレ牛乳と一緒に食べたら超絶美味いんだよ」

 「そうなのか。だけどお前は牛乳なんて持ってないだろう」

 少年がもうひとりやって来た「やあ♪ そこのナイスな山吹色マントのお兄さん。今日の朝搾ったばかりの牛乳どうかな?」小さな壺を抱えている。

 「うん? わかるか、このマント。有名な奴なんだぜ?」

 「やっぱり! 遠目に見た時のスタイルが際立ってるよね!」

 「お前ぇ! なかなかわかってるじゃないか! これが噂の立体裁断よくわかってないて奴だ。お前は牛乳か。ま、しょうがないな、買ってやるよ」

 「じゃあ、容れるからコップを出してもらっていいかな?」

 「え、コップがいるのか? 参ったな持ってないぞ」

 さらにもうひとりやってくる「やっほー♪ そこのアレクサンダー大王っぽいお兄さん」頭に乗せた籠の中身は当然コップ。

 ルシールはガボルアと少し離れて様子を見ている。

 「うわあ、どんどん集まってくるよ」10人くらい子供が集まり騒いでいる。

 「やれやれだな」

 シフが宿を決めて戻ってきた「例えるなら、死肉に群がるハゲワシの如く。基本、子供にやさしい奴だからな。ここらの子供は油断も隙もあったもんじゃないが」

 「ふうん」

 「行くぞスィラージ!」シフが声を上げた。

 「いやあ凄かったよ」

 子供達の包囲から脱出してきたスィラージは持ちきれないほどのパンと牛乳を抱え、襟、裾、上から下まで滅茶苦茶になっていた。財布は死守するも小銭入れを失っていた。

 「超カッコ良いぞ」

 「黙れ小僧!」

 「あっはっはっは」

 仕方ないのでスィラージから皆で1個ずつ買った。

 ルシールは牛乳を一息に飲み干した。



 宿の玄関から部屋に行こうとすると、女主人がルシールを呼び止める「ちょっと待って、あんたが魔法使い?」

 「……そうだけど」いきなりばらすとかなんのつもりだ? ルシールはシフを睨む。

 シフは気にした様子も無く窓を見ている。

 ちなみに、とんがり防止とかねじ曲がった杖とか、ルシールの格好は多少胡散臭い。

 「ちゃんと顔を見せてもらっても?」

 ルシールのとんがり帽子はつばが長くて顔が見えづらい。彼女は少しためらってから「いいけど」帽子を取る。

 女主人は露骨に眉をひそめて警戒と蔑みの眼差しで十秒ほど覗き込む「刺青も無いし、確かに、悪い魔法使いじゃなさそうだけど」

 「だから言っただろう、悪い女ではない、と」シフが面倒臭そうに言った「気が強くてすぐに怒ったり口が悪かったりして扱いに困ることもあるが、とりあえず確かに一応は、悪い女ではないんだよ」

 「ちょっとあんた何言ってんの!」ルシールがシフの背中をどんと叩く。

 「この通り元気いっぱいで病気も無い」

 「……仲が良さそうで何よりだよ」女主人がようやく表情を和らげた。




 魔法使いは実在する。ローマ帝国にはこれを研究する皇室魔導院という組織があり、軍隊にも配属されるほど公的に認められたものである。

 しかし地域によっては悪魔と取引した者と言われ、迫害も珍しくない。カダ王国でも人々は普通に信心深く迷信深く、魔法使いを忌み嫌う。

 



 宿で全員が順番に水浴びを済ませ、髭剃り、着替え、洗濯など身支度を終わらせると、ガボルアが意気軒高「酒! 飲まずにはいられない!」と皆を酒場に引っ張っていく。酒場に行くや「大ジョッキ5つ。全速力で持ってこい!」と注文した。

 「わーい、ガボさん頼もしいー♪」スィラージの開いたマントの合間に『Deus(神)』と大書されたシャツが見える。無駄に目立つ。

 「ところでなんなの、その変なシャツは」

 「俺は神だからな」

 「なるほど」ルシールは呆れ顔。やはりくだらなかった。

 「なんか見られてない? やっぱ俺がカッコいいからだな」

 ルシールは恥ずかしい。

 シフはニヤニヤと楽しそう。

 ガボルアはどうでも良い。



 酒場は早い時間から大賑わいである。船が出ないから暇なのか。人種風俗言語を観るに外国人が多い。アレクサンドリア人、アラブ人、ギリシャ人、黒人などなど。珍しいところではガリア人がいる。

 ビールが来て乾杯♪

 「ンゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッぷはーー」ガボルアが速攻で1杯空ける。

 「相変わらずの飲みっぷり」スィラージもぷはーとコップを置く。

 次々料理が出てくる。

 「唐揚げは美味い。だから食べないといけないんだ」シフは食べる方に忙しい。

 「ああ、生き返るよ」ルシールも満悦。

 「トリカワをタレで、あとツクネ、ピリ辛ウインナー、味噌ホルモンを4本ずつ」スィラージが全メニューを頼む勢いで注文する。

 全員見事な食べっぷり。今日の払いはシフが持つ。

 「シーザーサラダ、豆腐サラダも。昼間から繁盛してんのね」ルシールが一息入れる。

 「船が出ないからじゃないのか? 仕方ないから酒飲む説」シフも一杯目を空にした。しかし注文しすぎでテーブルに載らないだろうが、今の勢いなら問題ないか。

 「ンゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッぷはーー、よし次だ」ガボルアが2杯目も空ける。追加の料理がもう来た。

 「そういやあ、お前の追手が来てるかもしれん。あんまり目立つんじゃないぞ」シフが注意を促す。

 ルシールも一杯目を空にした「まあ、そうね。あの腐れ玉金野郎は金だけは持っていたから、こんな遠くまで追手をかけていてもおかしくはない、かな」

 「ンゴッゴッゴッゴッゴッゴッ」ガボルアが3杯目の途中でダンとジョッキを置いて人心地「だいたい、お前は理想が高すぎるんだよ。貢いだ挙句、一回もやらずに逃げられるとか、たまったもんじゃないわい。ま、笑うしかないがよ」

 ルシールはムスッとして「こっちにも事情ってもんがあるんですよ。助けてもらっておいて悪いけど」こっちも酔ってきた。

 「顔は良いけど、中身は男だからなコイツ」スィラージがトリカワを頬張る。

 「ごおおおおおおおおお! ンゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッぷはーー」ルシールの激情がスパーク。

 「どうどう、ああ落ち着け、ほらほら焼き鳥あげるから」シフはツクネを差し出す。

 ルシールはパクリ!「シフ! そんなのであたしが靡くと思ったら大間違いだから! でもありがとう大好き!」

 「なんだそりゃ。だいたい、最初から飛ばしすぎなんだよ」シフは呆れ顔。

 「色男は大変だよ」スィラージが笑う

 「やれやれだな」シフはガボルアのセリフを真似てツクネを頬張った。



 シフはガタンと起立「突然ですがここでクイズです」

 「?」ルシールはきょとん。

 「また始まったよ」

 「やれやれだな」男たちは苦笑い。

 「君は初めてだったか。この男、飲み会ネタの最近の流行りは性格診断クイズなんだよ」

 「はあ」もぐもぐ。

 「だいたい物凄く馬鹿なことしか言わないから覚悟した方が良い」

 「そこの君! なんてことを言うんだ、俺も薄々気付いていることを! あっはっはっはっは」

 「ぷっ」ルシールが吹き出す

 「あっはっはっはっはっは」全員無意味に大笑い。

 「しょうがない奴らだ」ガボルアはひたすら飲む。

 「じゃあ始めるぞ。これはエーゲ海の無人島であった実話をもとにした、ちょっと怖い話だ。心して聞くように」

 全員もぐもぐぐびり。

 「少年3人が夏の海に小舟を漕ぎ出した。ぎゃーこら騒いで遊んで昼になったので適当な島に小舟を着けた。無人島だった。彼らはそこで異様なものを見つけたわけだ。なんだと思う?」

 「それが問題か?」スィラージは無駄に推理顔。

 「いや違う。少年たちが見つけたのは、カラフルなたくさんの女の下着が、棒の先に引っ掛けて砂浜に並べて立ててあるという、異様な風景だ」ぐびり。

 深刻な表情でスィラージが問う「まさか、それはパンティー……か?」背景に暗雲を想像してください。

 深刻な表情でシフが答える「パンティー……だ!」背景に雷光を想像してください。

 「死ねばいいのに」ルシールが酒を一口。

 「いったいこれは何なんだ? と喧々諤々」シフは手を振ったり拳を突き上げたりオーバーアクション「少年たちは想像と推理を巡らせたわけだ。そして出てきた回答は4つ。自分ならどの回答を選ぶのか? それが今回のクイズです」

 「あっはっはっは」スィラージが突然笑いだす。

 「①近隣の若者たちの乱れた宴の跡」

 「②地元漁師たちの豊漁を祈る儀式」

 「③この島は無人島ではない。首狩り族による警告だ。早く逃げろ!」

 ルシールも笑う。

 「④異世界転移の魔法陣を起動する儀式」思いつかないので適当に言ったぽい「さあ、自分ならどれを選ぶかな? じゃあお前から」ずびし。

 スィラージが応える「ふむ、普通に考えて①だろうな。近隣の若者たちの乱れた宴」

 「あらあ①ですか……①を選んだ人は、エロエロです。この汚らしいハゲが!」シフは脈絡無く罵倒する。

 「あっはっはっは、どうせ何を選んでも酷い答えしかないんだろ」

 「あっはっはっはっは、そんなことないよ。これはアレクサンドリアでも有名な心理学者が作った性格診断クイズなんだぜ?」

 「息するように嘘つくんじゃないよ」

 「では次にガボルア」

 「そうだな、俺も①だよ」

 「はーいエロエロもう一丁上がりィ♪」もうノリノリである。

 「まあ予想通りだな」ガボルアは意に介した様子も無くぐびり。

 「では……お前さんは?」最後にルシールに聞く。

 「じゃあ③」②が1番まともだけど面白くない。

 「マジですか③なの?」心配そうな顔「……③を選ぶ人は闇の住人。心の底にダークマター(※1)を抱え込んでいると言っても過言ではない」

 「あっはっはっは、意味がわからない」

 「ちなみにダークマターって名前のチョコレートあるが関係無いからな」

 ガボルアはもぐもぐ「それで真相は何だったんだ?」

 シフは着席「ん? それは、近所の派手なおばさんが洗濯物を干していただけだ」

 スィラージはがっくり「なんだそれは」

 「あっはっはっはっは、カラフルな女の下着と聞いただけで、若い女の下着と勘違いした、お前たちが悪い」

 ルシールはジト目「ひどい話」

 「このエロエロどもが。カーッカカカカカ」ぐびぐび。シフは何故だか阿修羅の高笑い。

 「はあ、やれやれ。いつも通りの馬鹿らしさだったな」ガボルアはとっても美味しそうに酒を飲む。



 夕刻まで宴が続いて、この日はこれで終わり。

 ガボルアとルシールが飲み過ぎて動けなくなった。残り二人で面倒を看るしかない。

 ガボルアは10杯もビールを飲んだろうか。北辰一刀流がどうとか訳の分からないことを言った。比較的治安の良い国とはいえ、さすがに異国の地で全員酔いつぶれるわけにはいかない。

 夕日が全てを染める。一気に冷えてくるが酒のせいで寧ろ心地よい。女のルシールは背負えるが、頑健な体つきのガボルアを背負うのは厳しい。なんとか店から連れ出して広場の片隅にガボルアを寝かせてその酔いが醒めるのを待つ。傭兵として優秀な男なのだが酒好きが過ぎるのだけが問題だ。

 スィラージが楽しそうに笑う「いやあ、けっこう飲んだなあ」

 「あーうーたー」シフはやれやれと伸びをする「そうだな、どいつもこいつも飲み過ぎなんだよ。特にこいつ(ルシール)、女のくせに無防備すぎるだろ」

 ルシールはガボルアの横に座り込んでいる。目を閉じて肩で息をしている「もう食べられませぇん」小さく呟いた。

 シフは声をかけてみる「ふっ、遠慮するな、もっと食えよ」

 「……」ルシールの返事は無い。すやすや。疲れてきるのだろう。

 スィラージはしんみりと眺め「それは、あれだ。なんというか……君が居るからだろうよ。信頼されているんだよ」

 「そうかねえ。こいつもなかなかやばい女だからな、関わっちまったらもう面倒看てやるしかない、かな」

 シフがルシールから聞いているのは、金持ちだけど、嫌で嫌で仕方ない婚約相手から逃げてきたという話だが、とてもそれだけとは思えない。

 「たしかに仕方がないよな」優しい顔してスィラージがルシールの顔を覗く「……ブツはちゃんと持ってるな?」

 「ああ、大丈夫だ」シフは胸を押さえて応えた。

 「き、気持ち悪」ルシールが吐き始める「おえええ」

 マジかよコイツ。シフは眉をしかめて介抱する「本当に仕方がない。しっかりしろよ、水飲むか?」

 スィラージは嫌そうな顔で「マジヤバい女だ」

 「……もう朝か?」夕日の眩しさに目を覚ましたのか、ガボルアが芋虫のように、だるそうに頭をひねって起きてきた。

 スィラージが即答「そうですよ、もうすっかり朝ですよ、この寝坊助ねぼすけさん♪」

 「おや母ちゃん?」実はガボルア既婚者です。

 「そうですよ、あなた。ちゃんとしてくれないと困ります」美人で手強い奥さんの口真似である。



 ガボルアが起きないと宿まで帰れないので雑談が続く。

 シフは話題を変える「ところで昨日の夜、お前とこのルシール、ビルの3人で何やってたんだよ」

 「ビルって誰だ?」

 「宿屋の主人だよ、髭が超絶もじゃもじゃの。本名はビル・ガリオンバルク。31歳独身、恋人募集中、趣味は野球観戦、好きな魔法はサンダードラゴン(※2)、体重71kg、身長165cm、最近医者から中性脂肪が高いと言われたがどうにも酒を減らせない。給料の半分をパチンコに注ぎ込んでしまう。たまに勝っても風俗でパー。好きなタイプは清純派。自分の欲望に忠実な困った男」

 「おお、いつのまにそんな仲良くなったんだよ」

 「もちろん全て嘘だ」

 「あっはっはっはっは、カス野郎、見てたのかよ」

 シフは頷く「お前らが顔を見合わせるのを、な。笑いを堪えるのが大変だったぞ」



 不審な男がこちらを眺めている。

 「なんだ貴様豚野郎!」いきなり噛みつく異常な男それはスィラージ。

 「あっはっはっはっはっは、どうどう落ち着けハイどうどう。どうしてお前はそんなにエキセントリックなんだ」

 不審な男は逃げた。

 


 日が暮れると一気に冷えてきた。

 ようやくガボルアが目を覚ましたので一行は帰途につく。繁華街はまだ賑やかだ。

 シフがルシールを背負う。彼女の口元から酒と胃液の臭いがする「くさいなあ」

 「何言ってんのよ」少し楽になったか。ルシールがぎゅっとしがみつく「あんたの方が臭いでしょ」

 「はいはい、そうだな」シフは適当に合わせる。ルシールの身体の軟らかさと重さが心地良い。

 スィラージがじっと眺める。

 「何?」ルシールが問う。

 「俺も臭いと思うよ」

 「うるさい黙れ」帰ったら念入りにうがいしなければ。

 「重くないか? 代わってやるぞ?」スィラージもコロコロ話題を変える。

 「そうだな、結構重いかも」シフは正直に答える。

 「だろう? どうぞ私めにお任せあれ」紳士のポーズ(※3)でそっと手を差し伸べる。

 ルシールはペシッと払う「いやらしい、触るなケダモノ」

 「なんだと! ちょっと可愛いからって調子こいてんじゃねえよ! このドブスが!」

 「はあ? 黙れヘンタイアニメエリート!」

 「あっはっはっはっはっはっはっは」シフは大口開けて笑う「仲が良いねえ」

 「やれやれ」最後にガボルアも口を開いた。




 【※1 ダークマター】暗黒物質。同名の真っ黒なチョコレートが存在するが関係無い。宇宙を構成する謎の物質。実在するのか未確認。魔導学者と天文学者によると、理論的には実在するはずだという。

 古い記録では虚数空間(別次元)にまで干渉するとある。錬金術師が扱う材料であるが全ての光を吸い込んで反射しないのでただ黒い物質。調合に用いると対象の性質を劇的に反転させる。禁術シャドーフレア(※1ー1)を引き起こすことが可能という。

 ローマ帝国においては個人が所持するだけで死罪。実在を確認できていないというのに。

 【※1ー1 シャドーフレア】天災のような圧倒的破壊と、百年は続く呪いを大地に与える禁術。かつてカルタゴ王都に使われたというが、公式の記録は無い。しかしカルタゴ王都が完全に破壊され、100年ほども動植物が寄り付かない不毛の地だったのは事実。近年ようやく復興が始まった。

 【※2 サンダードラゴン】龍のような極大の放電を叩きつける有名な攻撃魔法。チビッ子の憧れ。

 【※3 紳士のポーズ】奇才スィラージが考案した変態的ポーズ。

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