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1-36.5 ルシールはいざとなれば躊躇しない。そうやって今まで生きてきたはずだった。

 「おい、魔法使いだぞ……!」

 「まさか、こんな村に魔法使いが?」

 「とりあえず囲え」

 賊共が警戒する。

 ルシールは視線を走らせる「……止まれ!」息を吸い込む「それ以上近付いたら、射つ」キイイイイイィィ。両手に構築した魔法力場の内で、無数の氷刃が駆け回る。

 敵は4人。武器は槍が2人に剣1人、弓が一人。粗末な革鎧。戦い慣れた雰囲気。不躾な値踏みの視線がルシールの全身を舐める。

 「青魔法、か」

 「なかなか可愛いツラしてるじゃないか」

 「惜しいな。もう少し乳がデカければ高値が付くんだが」

 「んじゃ、お前が揉んでやれよ」

 「それが許されるのならな」痩せた男がルシールにウィンク。ルシールは睨み返す。

 弓手だけが無言。こちらを狙い続けている。油断できない。

 「一応聞くけど、あんたら奴隷狩り?」ルシールは赤目を光らせる。

 「だったらなんだい? お嬢さん」

 「このまま行かせてくれれば良し。何もしない。そうでないなら」


 キイイイイイィ


 「殺す」


 張り詰める空気。ルシールの本気を感じたか、賊共が顔を見合わす。

 「良いね。生意気な女は俺好みだ」

 「待て待て。早まるなよ」

 ルシールは告げる「……選んで。10秒待つ」

 「だからちょっと待てって」

 沈黙。風が吹いて3秒。

 ルシールは振り向いて弓手に照準。バシュッ! 右手のアイスランス・アサルトを解放した。速い! 今まさに弓を引き絞ろうとした弓手は避けきれない。ドスドスドス! 手や肩、胸に容赦無く突き刺さった。

 「あ! このアマ!」

 ルシールは向き直り構える。右手の魔法力場を再構築。

 弓手が何か呻いて崩れ落ちた。

 「おい! 10秒にしちゃ早すぎるだろ!」

 ルシールは冷笑する「10秒も5秒も一緒でしょ。あんたらみたいな連中は」赤目に溢れる戦意は、いざとなれば死ぬまで戦う獰猛な山猫のそれに等しい。

 男たちの動きが止まる。態勢を整えようとするがもう遅い。

 「じゃあ次」

 ルシールは両手をそれぞに照準、手近な相手に術式解放。50以上の氷の刃が乱舞する。経験則から言うと、こういう時は積極的に主導権を取りにいった方が良い。まったく躊躇しない。

 「おい待てよ!」

 ギン! バン! ドスドス!「げはっ!」ギン! ズバッ!「コイツ!」ガッ!「ぐうっ!」

 男たちは幾つか弾くも数が圧倒する。顔面や胴体に氷の刃を何本も突き立てられ、さらに2人が倒れた。拡散と連続の攻撃を楯も無しに完全に防ぐ技は少ない。

 ルシールはもう一度両手に魔法力場を構築。両手を使った一瞬の隙を即座に打ち消した。疲労の色は薄く、魔力残量の多さを印象付ける。

 「あと1人」新手が来る前にケリをつけたい。

 残った若い男は冷や汗たらたら「おいマジかよこの女」腰を落として慎重に後退。ルシールは右手を伸ばして照準を外さない。始めた以上は逃がさない。

 男は回りながら後退。ルシールは距離を詰める。確実に仕留めるなら少し距離を詰めたいが、男が背を見せたら構わず術式解放、全弾叩き込んでやる心積もりである。

 男が尚も回りながら後退しルシールは前進。血の臭いが立ち上る。

 やがてスィラージ2号が視界に入った。ポカンと眺めている。

 ……しまった。

 照準が男と重なってしまう。男はスィラージ2号の向こう側。鬣を掴んで盾にした。

 ピクリ、ルシールは表情を歪ませたが、すぐに可哀想だが仕方無いと割り切る。

 それでも数秒の逡巡、ピーーーーッ! 男が思い切り警笛を吹き鳴らした。厄介事への深入りを告げる音だ。

 スィラージ2号が驚いて逃げようとする。じたばた身悶えするも男の手が放さない。

 「ふう」ルシールは夜空を仰ぎ、肩を落として慨嘆。こうなっては仕方無い。呼吸を整える。

 「おいロバ、大人しくせんか」

 「ひひん」スィラージ2号が嫌々をする。本当に人間臭いロバだ。

 ルシールは両手に魔法力場を構築したまま構えを維持。睨み据え冷然と対峙。遠く村から聞こえていた微かな音が、その色と流れを変える。馬の嘶き、馬蹄の叩く音。

 「ぶひぶひ」スィラージ2号が豚のような鳴き声を上げる。

 ルシールは殺気を弛める。

 「やれやれ。あいつらの影響かな」やっぱり弱くなったと思う。以前のアタシなら全く躊躇しなかった。人の温かさに弛んでしまったのだろう。一頭のロバの為に奴隷狩りの手に落ちるとは。

 「今すぐそいつを放して」

 「それはお前の態度しだいだ」

 「もう逃げるの諦めた。だから放して」

 「赤い眼をしてそんなセリフ言われてもな」

 「そう……じゃあその心配を本当にしてあげる」瞬間右手の魔法力場が急激に収束。何かを折り畳むように虚空をうねる。スィラージ2号の存在などお構い無しだ。

 「おいマジかよ!」

 「選んで。今度は5秒待つ」言い終わるや、ルシールは伸ばした右手に力を込めて術式解放への最後の魔法式を起動させ、

 「わかった!」男が叫ぶ「撃つな! 放すから!」本当に手を放した。

 ルシールは小さく嘆息。肩を落とす。攻撃中止。脅しは本気でやるから効果がある。

 それにしてもこのロバは殺気や魔力に鈍すぎる。

 「ひひん♪」スィラージ2号が嬉しそうにこちらへやってきた。空気も読めないロバである。

 「やれやれ」ルシールは男を睨んだまま、右手の魔法力場は維持、左手のそれは解除。

 ルシールの魔力残量はまだ8割以上ある。アイスランスなら20回は撃てるだろうが、たったの20回でもある。その意味を彼女はよく知っている。たった一人、消耗したら終わりだと。

 「あーあ、三人も殺しやがって」男が苦情を言った。

 ルシールは無表情。


 夜の闇を貫いて甲高く鳴らし、もう一度火矢が飛んだ。こちらへまっすぐ。道案内だろう。

 ルシールはスィラージ2号の首筋をポンと叩く。

 「ブフッ」スィラージ2号は嬉しそう。


 しばらくして馬蹄の響きが近付いてきた。

 



 一方その頃、定期船の上甲板の小屋でシフたちは寝ていた。だって夜だから。みんなで雑魚寝。

 ガボルアはすやすや。

 「むにゃむにゃ」シフは夢を見た。ルシールの夢だ。酒を飲んで口を開けて笑っている。何が楽しいのか良い笑顔だ。

 スィラージが寝言を言う「はっ! あの女が俺を呼んだ気がする!」



 湖面が揺らめいている。少し風が出てきたか。夜明けはまだ遠い。

 夜に下ろした帆は、風が出ようとも朝が来るまで上げることは無い。

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