1-34 求人募集要綱を考えよう。ところでお前は恋人募集と勘違いしている。
上甲板は日差しが強い。レグスの街並みは水平線に消えた。
シフは柔軟体操をしながらスィラージに切り出した「ところで前にも話したと思うんだが、そろそろ求人募集をする」
「ああ、そうだな賛成」
「4、5人は増やすつもりだが、まずはガード(護衛)だな」
「ああ、良いんじゃないのか」
「どんなガードが良いか、意見はあるかい?」
「妙齢の美女」
「なるほど」アホか! どこのライトノベルだそれは! しかし少数派だが女のガードも0ではない「例えばルブリンダ(※1)みたいな?」アレクサンドリアでも有名な女傑ガードである。その通り名は『突撃』。
「違うよ! あんなゴツくて怖いのじゃなくて! もっとたおやかで抱き締めると折れてしまいそうな感じ?」
「なかなか難しいな」面白くなってきた「それから?」
「あとはそうだな、アニメっ子が良いな」
「そうか……っていうか華奢な妙齢の美女でアニメっ子。そんなガードが本気で存在すると思ってんのか? このハゲ!」
「てへ♪」
「まったく。お前の好みの話をしているんじゃないぞ」
「いやあ、もちろんガードの話だぜ? そうだな残像剣(※2)が使えるくらいの腕前だと申し分ない」
「ますます難しいな。1億分の1くらいかね、そんな条件を満たすのは」
「諦めたらそこで試合終了だよ?」
「あっはっはっは、わかったよ。じゃあそれで求人出してみるよ」多分ギルマスが上手く捌いてくれる。条件に見合う応募が無ければ適当な人材を推薦してくれるだろう「あとはそうだな、求人のポスター作ってみるか?」
「ナイスアイディア了解だ!」スィラージが早速リュックサックからパピルスを出して鉛筆でカリカリ始める。
「帰ってからで良いぞ」
「ん? 暇だから今書く」
「そうかい」
スィラージは楽しそう。
シフはさっきのパン売り少女からさらにパンを3枚買い、食べながら眺める。スィラージは紙面しか見ていない。好きなことに打ち込む集中力は大したものがある。
パン売りの少女を眺めるとコツを掴んできたのかそこそこ売れている。
「嬢ちゃん、調子はどう?」
「け、結構良い感じ」まったく口下手だが好感の持てる表情だ。
「そりゃ良かった」
「うん!」元気で良い。
1時間後、下絵が出来上がった。さすがに絵の具が無いから今はここまで。
スィラージの自画像だろうか、金髪碧眼、物凄いイケメンが歯を光らせ笑っている。椅子に座って足を組み首を傾げて決めポーズ。何故か薔薇が咲いている。
シフは笑いながら聞く「それお前か?」
「そうだ。そっくりだろう?」
「ぷ、そっくりだな」あまりにも美化しすぎて笑えてくる「よく似てるぞ、超そっくりだ!」
「だろう? 煽り文句はどうしようか。ストレートに『約束の場所でナイスガイが君を待っているぜ』とかどうかな」
「あっはっは、ま、好きに書いてみろよ」それで応募して来る者がいるとはとても思えないが「こちらとしてはガード募集と書いてあればそれで良いから。いや違った。煽り文句は『一緒にアニメ見ませんか? 魔法少女の数奇な運命について語り合いましょう♪』だな、あっはっはっはっは」とても求人のポスターには見えないが、面白いからアリだ。シフは本気で貼りだすつもりだ。
「あっはっはっは、ちょっとそれはふざけすぎじゃないのかな?」
お前が言うな。
目を覚ましたガボルアがやってきた。シフの手にあるスィラージの下絵を眺める。
「帰ったら募集をかけようと思ってさ」
「職種は?」
「ガードだね。こいつの希望によると妙齢の華奢な美女で、アニメっ子で、残像剣くらい使える奴が良いらしい」
「またふざけたことを」
「ま、出してみるさ。もしかしたらまだあんたの知らない逸材がいるかもしれないし」
「そりゃ世界は広いからな」
「あんたも良さそうな人知らないか。なるべく若い方が良い」ガードはガードを知るというから。
「ふ、知るわけないだろ、そんな条件で合う奴なんてよ」しばらく思いを巡らせる「おすすめの若手なら何人か心当たりがあるぞ。当然男だが」
「男かー」スィラージがごねる「そういう趣味は無いんだけどな」我儘言うんじゃありません。
順風が出てきた。オールは上げられ帆が張られた。航海は順調である。
村と川を幾つか越えて、ルシールたちはその日最後の村に着いた。小さな川の畔。思ったより水が澄んでいる。歩き続けて次第に緑が濃くなってきたようだ。
スィラージ2号はこの日もマイペースに距離を稼いでくれた。ルシールは謎の襲撃者を警戒していたが、どの村も平和そのものだった。手袋を外し、魔法使いであることは露見しなかったはずだが、排他的扱いを受けるのは変わらない。
リンガー(黒猫)はすっかり懐いてルシールから離れない。なかなか賢い猫だとわかってきた。2度お漏らしをしたことがあり、その場で足元に下ろして排泄の続きを促した。たったそれだけで、下りてから排泄することを覚えた。
ロバというのは基本マイペースな動物だが、スィラージ2号はその中でも極め付きにマイペースだと思う。勝手に停まって草を食む。いきなり方向転換をする。機嫌が良くなると「ヒヒーン♪ ヒン♪ ヒン♪ ヒヒヒヒーン♪」訳の分からない歌を始める。寝るときは身体を投げ出して全力で休む。なんというか人間臭い。人間が魔法でロバに変えられたと言われても信じてしまいそうだ。
数日を共に過ごしてそれなりの絆が出来たと思う。
椰子の間に50ほどの民家が点在している。
なるべく村には近寄りたくなかったが、補給は必要だ。宿を取るつもりは無く野宿だ。
一見では分からないが変わった村だった。なんとなく住人の視線に棘が無い。しばらく歩いて人種、民族が単一ではないことに気が付いた。何か訳ありの村のようだ。民家の軒先に鉄アレイが置いてあった。広場の片隅に鉄棒と腹筋台が設けてあった。
老人がジョギングしていて声をかけられた「やあ、お嬢さん、一人旅とは頑張るねえ」
ルシールは会釈。
村唯一の雑貨屋の店主は筋肉モリモリだった。その店の陳列棚には粉末プロテインという袋入りの商品が大量に置いてあった。
プロテインって何だろう? 各地を旅したルシールも初めて見た。
高いものではない。
「これなんですか?」店主に尋ねる。
「男が、本物の男になるための必需品だ」
「そうですか」意味が分からない。
「一本いっとくか?」
「遠慮しておきます」
「そうか残念だな。まあ、旅の記念に一つ進呈だ。袋と一緒に入れておくぞ」少しニヤリ「これでお前も立派な男に一歩近付いた」
「すいません。別に要らないです」
「そうか? なかなか奥ゆかしいな。本当は欲しいんだろ? わかってるぞ? だから遠慮せずに持っていけ」これは後で無理矢理代金を徴収するパターンか。
「だから必要ありません」強目に拒否。
「そ、そうか。残念だな。しかし、欲しくなったらいつでも言うんだぞ」あまり危険は感じないが、訳の分からない異常さがある。
「どこまで行くんだい」
「東」ルシールは言葉少なく会話を打ち切った。
良い村だとは思う。
ルシールは食料品など補給を済ませ店を出た。路銀にはまだ余裕がある。小川で水を汲む。スィラージ2号に水を飲ませる。ごくごくと良い飲みっぷりだ。
スィラージ2号の手綱を引いて村を出る。だいぶ日が傾いている。暗くなる前に野営の準備を済ませたい。
少し歩いて開けた場所を見つけ、その日の野営地とした。結界を築く作業。村に近い方が危険を感じる。
スィラージ2号から荷物を下ろして馬装を外してやるとすぐに草を食みに小走り。落ち着きの無いロバだ。
ルシールは敷物を広げていたが動きを止める。
人の気配だ。
常時発動の強化聴覚が声を拾った。衣擦れの音もある。じっと耳を澄ます。周期的な音と声。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」若い男の声だ。
草を食むスィラージ2号も、羽虫を捕まえようとぴょんぴょんするリンガーも、異常を感知してはいない。
ルシールは、アイスランスの手袋を嵌めて音源へ忍び寄る。
それは大岩の向こう。気持ちの良い風が流れてきた。風の通り道らしい。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」同じ調子で声が聞こえる。少年の声だ。
ルシールはそっと覗き込む。少年がスクワットをしていた。まだ細いが躍動する肉体! 迸る汗! 真剣な表情! 愁いを秘めた横顔。これはなかなか将来有望だ。
「みゃ」リンガーが小さく鳴いてやってきた。
ルシールは振り向く。ガサ、木立に当たって音がした。
「誰?」
ルシールは沈黙。
「誰だか知らないけど帽子がはみ出しているよ」
ルシールはしゃがんで帽子を岩陰に引っ込めた。勘の良い子供だ。
【※1 ルブリンダ】アレクサンドリアでは名の知れた女傑ガード。通り名は『突撃』。所属はラインヒル商会。攻撃こそ最大の防御だと言う女。筋肉モリモリ。大剣を使う。得意技は『ベアクラッシュ(※1ー1)』。魚釣りにでかけて何故か鰐を狩ってくる女「釣れたからしょうがない」
【※1ー1 ベアクラッシュ】大剣の中級斬撃技。力をためて、全身を使った熊のような一撃を叩きつける。ノックバック効果有り。同系統の上位技『ブルクラッシュ』よりは隙が少ない。
【※2 残像剣】片手剣の上級斬撃技。中威力の全体攻撃。型通りの動きしかできず応用が利かないが、使い勝手が良い。
スィラージ「やっぱ妙齢の美女! そこは譲れん」
シフ「そうかい、じゃあポイントくれたらな」




