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1-33 定期船の上甲板にてテレビショッピング「あー驚いた! びっくり! お手頃価格!」

 帆は下ろされ下層階の水夫たちがオールを漕いでいる。片側10本。どん、どん、どん、と太鼓がリズムを刻む。



 カダ湖南北航路の定期便の船上。

 上甲板には簡素な小屋が並んでいる。

 水面を滑る風は右から微風。ひんやりとして心地良い。

 乗客は荷物のまわりで休んだり、舷側で風景を眺めたりしている。揺れは思ったよりも少ない。

 シフとスィラージは船尾にいた。遠ざかるレグスの街並みをじっと見ている。大きくは無いがごちゃごちゃと活気のあった街。

 少し視線を左にずらすと、ずーっと遠くに山影が小さく見える。見覚えがある形の山影。

 ガボルアは少し離れたところに座り込んでビールを飲んでいる。小樽を一つ持ち込んでいた。昨日切られた頬は縫い合わされている。まだ痛々しい。

 シフはスィラージに話しかける「今頃、あの女は何やっているかねえ?」

 「南には戻れない。北も駄目。となると東。やっぱり王都に向かっているんじゃ無いのかな?」

 「いやあ、案外、レグス(港町)の店(パチンコ屋)にいるかもしれないぜ?」

 「あっはっは、君、パチンコ好き過ぎだろ。まさにパチンカス」

 「いやいや、想像してみろよ。あいつ結構アツくなるタイプだから『どうして穢れを解放しないの? もうコレ100点いってるよね?』とか言って台を叩いたりするかも」魔法少女スロットのネタだ。

 「あっはっは、それは君のことだろ」



 以下、シフの語るIFエピソード。

 シフ「ジプラザ・レグス店は今日も大賑わい。街中から老若男女のパチンカスが集まってきます。まるで戦場のようなけたたましさです。誰もが明日の成功を夢想して、昨日の敗北を乗り越えて、瞳に情熱を燃やしています。

 今日もルシールは開店前の行列に並び、有望台の確保に余念がありません。

 彼女のポジションは行列の先頭から2番目。10時開店のところ7時から並んだ成果です。

 ルシールは「ふっふっふ、こいつは今日もいただきね」なんて嘯いて不敵な面構え。右手が素振りをしています。パチスロの釦を押すための素振りです「センターに入れてスイッチ、センターに入れてスイッチ、センターに入れてスイッチ」」

 スィラージ「あっはっはっは、それ病気だよ」

 シフ「それにしてもポールポジション(行列の先頭)を取った上下緑ジャージの金髪おじさんは何時からいるのでしょう。ポールポジションの栄光を誇るでもなく、機嫌良さそうに何かの歌を口ずさんでいます。只者ではありません。尊敬に値します。眼差しが真摯で冷静で小さな温かさを宿しています。超カッコいいです。濡れちゃう! 抱いて! 結婚しても良いかもしれません。しかしどこかで見たような横顔……おっとこれはなんということでしょう! アレクサンドリアの誇るアニメエリート! その名も高きスィラージさんではありませんか!」

 スィラージ「あっはっはっは、その臭い口を開くのをやめろ!」強制介入でエピソード終了。


 スィラージが言う「だいたいいつもパチンコ屋が出て来るよな」

 「うふ。ま、帰って今の仕事を終わらせたら、すぐこっちにとんぼ返りだ。今度は縛り付けてでもあの女を捕まえてやる。今度こそうちの組に入ってもらわないとな」

 「嫌がる奴に無理にやらせてもろくなことにならないとか言ってなかったか?」

 「忍者はその日の気分で予定を変えるものだ。これを忍法浮気心の術という」

 「やれやれ、あいつ(ルシール)も苦労しそうだな」ひとしきり笑って「しかしそんな簡単に見つかるもんかな?」

 「たしかに難しい。情報屋でも当たってみるさ、いや、ダブネルに着いたら依頼を掛けておくか」

 「ま、君に任せよるよ」

 「お前も来るか?」

 「金は出ないんだろ」

 シフは小さく頷く「仕事じゃないからな」

 「少し考えさせてくれ」

 「了解。しかし隙だらけだな」シフはガボルアを眺めて言う。

 「あれでギルド1のガード(護衛)なんだからなあ」

 ガボルアが座ったまま、気持ちよさそうに居眠りしている。彼が持ち込んだビールの小樽は既にカラ。彼はベルドゥラルタ商会からの応援なので仕事が終われば離脱する。今回の旅路、仮に正規の金額でガードを頼んだら、帝国金貨5枚は必要になるほどの実績と技量が彼にはある。



 「お兄さん、パン買って」物売りの少女がやってきてスィラージに声をかけた。小さく自信が無さそうな声。まだ10歳くらいか。よく日焼けした顔。頭の上に籠を乗せている。シフが見るとザーター(ミックススパイス。1-5にて解説済)とオリーブオイルを付けて焼いた、平べったいパンだ。この辺りでは普通のパン。香ばしい。日持ちするように少し固めに焼き締めてあるようだ。その背負い袋も同じパンがいっぱいと思われる。

 船上には他にも水売りや干し肉を売る者が巡回している。食堂は無く、途中寄港地も無いので自前で用意していない者は物売りから買うしかない。船尾から釣り糸を垂らす男が一人いる。

 スィラージが忠告する「おい、君。もっと声を出した方が良いぞ」

 返事は無い。少女は俯いて目を合わさない。立ち去るでもなくこちらの反応を待っている。

 「それ、どんなパンなんだ?」

 「……少し辛いパン。ひとつ銅貨1枚(王国銅貨1枚。50円相当)」

 スィラージは嘆息「2枚くれ」王国銅貨を2枚渡してパンを受け取る「ほら」1枚シフに渡す。

 「ん」シフはパクリ。はもはも。なかなか旨い。ザーターが程良く効いている。

 少女は近くの客にも売りつけようとするが「あっち行け」と拒否されて次。表情が暗すぎる。あれでは売れない。どうして物売りをやっているのか不思議なくらいだが事情があるのだろう。他の物売りからも馬鹿にされている。

 「やれやれ、少し手伝ってやるか」シフは提案する。暇だし。

 「何やるんだ」

 「そうだなあ……テレビショッピングのノリで行くか」

 「うふ、それは面白そうだな」



 少女は俯いたまま上甲板をまわり、5枚ほどのパンを売った。こんな売り上げでは話にならない。小屋の陰で溜息をついた。何の変哲も無い普通のパンだけど、そこそこ旨いし高くもない。食べてみればわかるのにと思うが、どうすれば良いのかわからない。彼女はまだ日が浅い。兄の仕事だったが体調を崩してしまったので引き継いだ。

 「おい。もう1枚貰おうか」

 さっき買ってくれた伊達眼鏡の男だ。何故か斜に構えている。少女はパンを取り出した。

 「マジかよ!」男は大袈裟な口調「これがたったの銅貨1枚なのか? すごいな!」

 「?」少女は顔を上げる。

 「どうしたんだい? 何がすごいって言うんだい?」もう一人やってきた。

 「いや奥さん! これがたったの銅貨1枚って言うんですよ!」

 「え! これが! たったの銅貨1枚なんですか? おい君、嘘じゃないだろうな?」

 少女は頷く「銅貨1枚だよ」

 「マジ安いよな! あー驚いた! ビックリ! コイツはもう! 買うしかないじゃないか!」

 「待て待て落ち着け! 安いものは所詮安物。まずいかもしれんだろう」

 「おっと、そうだな、喰ってみるか」眼鏡の男にパンを売る。男はパンを間近で観察し「いやあ、これはなんとも香ばしいな! 匂いがたまらんぜ! ごっくんプリーズ!」

 「ごっくんプリーズ。は、早く食べてみてくれ! 味は、味はどうなんだ! 早くしろ! あばらが折れてんだ!(謎)」

 「わかった! 喰うぞ! 喰うぞ! 喰うぞーー! (宇宙世紀のノリ)」パクリ!「うっ!」蹲る「うううう」様子がおかしい。元々おかしいけど。

 「どうした! 大丈夫か! しっかりしろ!」

 「死ぬ! 美味すぎて死んでしまう。ザーターがよく効いてこれは最高だ!」

 「何だと! よし俺もくれ! 銅貨1枚だな! お手頃価格!」パクリ!「うんこれはうまい!」

 「お前マジ最低! あっはっはっはっはっはっはっは」

 「あっはっはっはっはっは」

 大騒ぎになり少女は呆然とする。いつの間にか30人ほどが楽しそうに見物している。

 旅の中年商人がやってきた「2枚くれ」

 「……あ、はい!」

 旅の中年商人は優しい顔「彼らに感謝するんだぞ」

 少女はようやく気付いて二人を見る。まだ何か楽しそうに騒いでいる。

 すぐ次の客がやってきた。



 手持無沙汰にシフは船内をぶらぶらする。風景に変化が乏しくもう飽きた。

 賭け事をする連中もいるが、どうせ負けるから覗かない。

 下層甲板に下りてみる。一応無限灯が吊るされているが暗い。階段の横、壁際にスィラージが座っていた。

 「何やってんだ?」

 「暇だから瞑想している」

 「そう?」よくわからないのでスルー。

 下層甲板を見て回り、漕ぎ手が休んでいるのを眺めた。上に戻るかと階段に戻るとまだスィラージが座っていた。

 「ぷ」シフは視線と表情で気付いた。どうやら若い女が階段を上下するのを眺めているらしい。ゲスである。

 この国の女は多く褐色の肌で艶がある。髪を結いあげて眼光が強い。シフの勝手な印象だが南国の女は情が深い。

 バレたら袋叩きにされるだろうに全く。

シフ「暇だ。感想体操でもやるか。1、2、かん、そう」

スィラージ「5、6、かん、そう」

シフ「もっと腕の振りを大きく! 感想書いて!」

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