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1-31 生きるのが辛いと言ってもさ、生きている以上は生きないといけない。やれやれ、やっぱ一人は寂しいよ

挿絵(By みてみん)

 一方その頃、山村ダシル、メッサリーナの教会堂。彼女は自室で絵筆を振るっていた。

 「うーむ、これはなかなか傑作の予感がしますね♪ あたしって天才」今日は銀色プラチナブロンドの髪をお団子まとめ。

 机には羊皮紙の巻物スクロールが広げてある。中央に何らかの魔法陣。その余白に所狭しと美少女と美少年が描かれている。彼女は手慣れた所作で色を着けていく。吹き出しセリフまである。物語仕立てになっているらしい。



 以下彼女の作中。

 美少女「そんなことって! あたしとは遊びだったというの?」

 オラオラ系美少年「もちろん、本気だったさ、あの時まではな」良い笑顔で笑う。

 美少女「今は? 今は違うの?」

 オラオラ美少年「さあ、どうだろうなあ?」



 メッサリーナは独り言を言う「ひどい人、他の人を好きになれば良かった」

 美少年は金髪碧眼、どことなくスィラージに似た面影。

 既に彼女の魔力が込められた巻物は、うっすら赤く輝いている。

 巻物に魔法を仕込む。これがメッサリーナの本業である。

 巻物に魔法陣の形で赤魔法を焼き付け、誰でも使えるものにする。魔法の種類は火球、爆炎、炎の壁、暖房、火矢、青魔法封じなど。種類にもよるが、市場では驚くほど高値が付くものもある。王国政府から注文が入ることもあるが、特に軍事関係で金に糸目をつけない太い客がいる。

 村長を含め村の数人だけが知っている秘密で、特定顧客との取引は彼らに一任してある。彼らはキノコの売買と称して村外に出る。

 基本的に彼女が村から出ることは無いが、その稼ぎは村に大きな利益をもたらしている。

 カリストの教会で祈る宗教活動や、子供相手の私塾はカモフラージュであり、彼女の趣味としての意味合いが強い。

 彼女が本業を明らかにすることは無い。この村でも魔法を忌避する者が多いから。

 だからメッサリーナは先日まで滞在していたルシールという青魔法の使い手が羨ましい。比較的受け入れられやすいヒールを使うとはいえ、魔法使いであることを隠さず、あの自然な態度と振る舞い。楽しそうなやり取り。それは彼女が望んで得られなかったものだ。

 いつの頃からか、メッサリーナは巻物の余白に魔法とは無関係の絵を描くようになった。

 繰り返し作業に飽きたというのもある。自分の存在を主張したかったのか。寂しさを紛らわすためか。好きなアニメや漫画のイラストを思いっきり描くのは楽しかった。

 メッサリーナがダシルの村で拾われて2年、この仕事を始めてからおよそ1年半。

 その巻物スクロールの特徴的な絵は、今では品質証明のシンボルとなり、さらには鑑賞目的で購入する物好きな金持ちもいるという。魔力の光で輝くそれは美しくもある。

 メッサリーナはグァバ茶を淹れて一休み。

 「ふう」

 素朴で優しい香りを堪能した。

 「それにしてもこれ、誰かに似ている気がするんですよね」

 シャリアの描いた、女体化スィラージの絵をじっと眺める。




 今度はルシール。

 彼女はシフたちと別れた後、東へ進んだ。畑作地を貫く砂の道。

 とりあえずはカダ王国の王都を目指す。

 東へ、歩いても5日ほどの距離だったと思う。地図があれば良かったのだけれど。乗合馬車という手もあるが正直乗りたくない。女一人だと目を付けられやすいから。歩こう、道はある。

 東の山に日が上る。

 ひたすら無言。

 昨夜まであんなに賑やかだったのに。

 あまりの寂しさに胸が痛んで涙が滲んでくる。涙などもう枯れ果てたと思っていたのに。彼らも北へ向けて出発する頃だろうか。振り返って空を見上げる。彼らの旅の無事を祈った。

 空が悲しいほど広い。

 感情の純化。帽子の陰で数秒、瞳が赤く光る。通りがかった農作業の少年が、怯えた顔で見送る。

 「さあ、行こう」ルシールは決意を絞り出す。

 だけど本当、どこに行けば良いのかな。行きたい所には行けない。立ち止まるのも駄目。そうだなあ、人の少ない所、離島とか山の上とか案外良いかもしれない。それにしても街で暮らすのはもうやめよう。別れが辛すぎる。ロクなことが無い。思い出だけは貰ったけれど。

 服飾品の各部に使われている石に魔力を注入し、その効果を強化しておく。一般人から見ると驚くほど多くの魔法を自分に掛けてある。

 胸元のブラックオニキスペンダントは魔力隠蔽(効果大)。マントの留め金の小さなガーネットには聴力強化(シフは個人結界と勘違いしていたが)。尖頭靴の爪先の黒い飾り石2つに蛇避けと疲労軽減。三つ編みにした髪の先端をまとめる輪の深い緑の孔雀石には体内の魔力循環効率上昇(効果小)。帽子のツバに埋めた石英には天気予報。魔法効果を継続付与するには鉱石類を使うのが一般的で、結晶などの宝石類が特に効果が大きい。

 上目遣いで石英の色を確かめる。濁りは見えないから今日の天気予報も晴れ。降水確率0%。



 ルシールは疲れた。

 「ふう、肩が痛い」

 テントや水筒など荷物が多くて疲れた。リュックサックのバンドが肩に食い込む。昨日よりも明らかに重い。今までは共有品を分担して持っていたのが全て自分で持たなければならない。

 「これは駄目だ」少し息が荒くなった「ロバでも買うかな。ラクダは高いしなあ」馬とか乗るのは下手だけど。

 隣の村に着いたので、売ってくれそうなロバの居る農家の戸を叩く。

 「ロバ?」農家のおばさんが警戒の眼差しでルシールの風体を上から下まで見る。目が光らなければ魔法使いだとはわからない筈だが、ルシールは拒絶される予感。心が冷える久しぶりの感覚だ。マントやら帽子やら、少し怪しい格好ではあるか。

 「他をあたっておくれ」

 次。家畜の声がたくさん聞こえる農家を見付けたので戸を叩く。

 「ロバか」出てきたおじさんは露骨に嫌そうな顔「そうだな、こいつで良ければ買うか?」

 子供が面倒くさそうにロバを引いてきた。一応の馴致(人を乗せるための訓練)は済ませてあるようだ。暴れる様子は無い。

 「幾らですか?」ルシールは内心落胆する。若いロバだが小柄で痩せて元気が無い。病気かもしれない。ふごふごと呼吸が落ち着かない。灰色の毛並みには全く艶が無い。

 おじさんは表情少なく告げる「こいつなら銀貨で20枚ってところだ。鞍やはみも付けてやる。大サービスお買い得」

 「20枚ですか」こんなロバに高過ぎると思うが、王都までもってくれれば良いか。女一人くらいなら乗れるだろう。大人のロバなら100キロ程度の荷重まで耐えられる「それなら」と言って財布を開く。

 おじさんが咎める「違う違う、この村は帝国銀貨しか使っておらん」

 ルシールは内心舌打ちする。足元を見られたか。帝国通貨は王国通貨とは純度が違い、単純に言って倍の価値がある。おじさんの顔に優しさは欠片も無い。

 「それなら他のロバは駄目ですか?」

 「嫌なら他を当たってくれ」交渉の余地は無い。

 「わかりました」

 おじさんが冷笑を浮かべる。

 こういう扱いを受けるのは本当に久しぶりだ。シフたちと一緒だと見ることのなかった表情だ。なんというか、色々守ってくれていたんだなと今更気付く。

 ロバの手綱を引いて、ルシールは村の片隅に移動する。手綱を引くとロバは嫌々付いてきた。リュックサックを鞍に載せてみると何だか苦しそう。どこか悪いのだろう。

 「手間掛かるなあ。のんびりしてる暇無いのに」魔法で治療してみることにした。手袋を変更。首筋にライトヒール(回復)とプリフィティカーオ(浄化)を重ね掛け。

 ロバは興味無さそうにしていたが「ヒヒン? ヒーーーーン!」と狂喜乱舞。ルシールに頭を押し付けてくる。元気になったようだ。

 「ヒン」

 「わかった! わかった! 嬉しいのは分かったから大人しくして!」

 「ヒヒン?」ぐりぐり。

 「だから胸に頭を押し付けてくるな!」バキ! 怒りのアッパーカットが炸裂!

 「ヒーン(涙)」

 「どうしていつも、まったく」文句を言いながらもう一度リュックサックを載せてみる。大丈夫らしい「よし、これでなんとかなりそうね」リュックサックを鞍にしっかり固定する。

 ロバが調子良さそうに一声鳴いた。

 「ブフ(任せとけ)」

 ルシールは旅を再開する。身体が軽い。これなら幾らでも歩けそうだ。騎乗するのはもう少し状態を確認し、慣らしてから試そう。

 「あんたの名前を考えないとね」てくてく「ルビカンテ(神曲に出てくる悪魔の名前)なんてどうかな?」

 「……ブフ」呆れた雰囲気。

 「駄目? じゃあ……スィラージなんてどう?」変態的な雰囲気がするから。

 「ヒヒン(まだそっちの方がマシだ)」

 「よし、今日からあんたはスィラージだから。あと紛らわしいから2号ね」

 「ブフ」

 「じゃあ行くよ、しっかり前を向いて歩くんだよスィラージ」それでも旅の仲間ができて嬉しい。ぽんぽんとスィラージ2号の首筋を叩いた。

 1時間ほど歩いて、ルシールはスィラージ2号の状態を充分に確かめた。これなら乗れる。乗ってみよう。リュックサックを鞍の後ろに固定しなおして、前の方に座る場所を確保する。鐙に足をかけて鞍上になんとか跨る。手綱を持ち、足でポンと馬腹を蹴る。数秒後、思い出したようにスィラージ2号が歩き始めた。予想より揺れる。ロバに乗るのは久しぶりだ。慣れない内は尻が痛くなるだろう。でもこれで距離が稼げる。

 スィラージ2号は淡々と歩を進める。

 


 太陽が中天を過ぎた。

 「ちょっと、ちゃんと歩きなさいスィラージ。まったくどうしようもないカス野郎なんだから」

 スィラージ2号は、ルシールが手綱を離すとすぐに脇道に逸れようとする。旨そうな草があると勝手に立ち止まって食べ始める。なかなか癖のあるロバだ。

 「ヒン」ロバにしては愛想が良い。

 ルシールたちは小さな農村に着いた。戸数は30ほど。食事や物資の補給をしておきたい。ここに宿をとっても良い。メインストリートらしき道に入る。スィラージ2号から降りて手綱を引いていく。

 しかし誰もいない。子供一人、犬一匹いない。さすがに全員畑仕事に出ているとは思えない。

 さすがに変だ。何があったのか。

 軒先の物干しに野菜や洗濯物がぶら下がっている。数件、戸を開けて民家を覗いてみたがやはり誰もいない。埃も少なく生活感がある。荒らされた痕跡も無いようだが……いや、あった。派手に壁を破壊された民家。刀傷のついた樹木。桟から外れた木戸。

 そして次の民家では虫の羽音を聞いた。それも大量の羽音だ。嫌な予感を覚えつつ土間の奥を確かめる。やはり多くの蝿。そこには大量の血痕があった。致死量だろう。まだ古くない。群がる蝿の足跡が今も新しくできている。臭いも酷い。血痕の元になった死体らしきものは欠片も無い。

 ルシールの心拍数が跳ね上がる。

 何者かに襲撃されたのは間違いない。

 近くの蝿を振り払い慌てて外に出る。スィラージ2号の傍らに蹲り、耳を澄まし辺りを警戒する。聴力強化全開。街路樹の梢が揺れる音、小鳥が鳴く音、微かな風鳴、スィラージ2号の変わらない鼻息、蠅の羽音、自分の鼓動。特に自分の鼓動がうるさい。

 10分後、少しだけ落ち着いた。

 近くに危険な相手はいないようだ。

 盗賊だろうか。それとも村人を全員連れ去ったということは奴隷狩りの連中か。こんなところに奴隷狩りが出るとか聞いたことが無い。辺境とはいえ、ここは歴としたカダ王国の領内だ。

 民家の屋根にハゲワシが留まりこちらを見ている。

 もうぐずぐずしていられない。手早く補給を済ませ村を出ねばならない。

 路上に大勢の足跡を見つけた。馬もいるがほぼ歩き。足跡は北への道に続く。ずっと北にはカダ湖がある。

 ルシールはスィラージ2号の手綱を引いて急ぐ。井戸の水を汲む。食物倉とおぼしき小屋を覗く。ここにも襲撃の痕跡。木戸が蹴破られ、積まれた麻袋が裂けて中身が零れたものがある。積み方が揃っていないことから幾つか持ち去られたようだ。

 芋、小麦、干し肉、乾燥野菜を取って袋に詰める。

 「よし、これだけあれば良いでしょ」

 すぐに出ようとして何か動くものに気付いた。

 麻袋の陰から何か小さなものがこちらを見ている。子猫だ。親の姿は無い。

 「お母さんはどうしたの?」

 返事は無い。

 ルシールはしゃがんで見詰める「……一緒に来る?」

 「みゃお」小さく鳴き、ちょこちょこと近付いてくる。黒猫だ。少し茶色が混じっている。体毛が薄い。生後2,3ヶ月といったところか。抱き上げて撫でてみる。温かい。怪我や病気は無さそうだ。

 「お前も1人みたいね」

 ルシールは新たな荷物をスィラージ2号の背に括り付ける。それから少し考え、民家から大きめのタオル取ってきた。それを結んで輪を作り、袈裟懸けにして猫用ハンモックを作ってそこに子猫を入れる。

 「よし、行こう」ルシールはスィラージ2号の手綱を引いて足早に村を出た。懐の子猫を観察する。あまり嫌がる様子は無い。丸くなった。気に入ってくれたらしい。振り返る。追跡者はいない。スィラージ2号の鞍上に跨った。スィラージ2号は全く気にせずマイペースな歩調。急がせてもほとんど速くならないので、すぐ降りてスィラージ2号の手綱を引いて早歩き。

 「ひーん」スィラージ2号が嫌そうな顔をする。

 ルシールはきょろきょろと周囲を警戒する。草原と畑の風景にほとんど変化は無い。

 1時間ほど進んで、それからようやく鞍上に乗った。

 「ふう、それにしても黒猫かあ」

 警戒を崩さず表情を和らげる。

 「魔法使いらしくて良いけど」

 「みゃお」黒猫はルシールの懐でしがみついたまま。

 「おなかが空いた?」干し肉を噛んで柔らかくしたものを与える。子猫は嬉しそうにキャッチ。まだ顎の力が弱いので全力で噛み付く。

 「名前を決めないとね……サテュラ、リディア、メナス」首を振る「なんかしっくりこないなー、黒猫だから……デスブリンガー(死をもたらす者)なんてどうかな」

 「……みゃお」なんとなく呆れた雰囲気。

 「お前も気に入った? でもちょっと長すぎるから、デスブ、いやリンガー」頷く「リンガーが良いね、お前はリンガーだ」

 「みゃお(好きにしてくれ)」

ルシール「ねえリンガー」

リンガー「みゃお?」

ルシール「感想もらえたら嬉しいね」

リンガー「みゃお」

スィラージ2号「ブフォ」

ルシール「そんなくっつかないで」


ノルマ月1の筈が月2でも行けそうな雰囲気。ルシールのネーミングセンスがおかしいというのが判明。拡散と収束の繰り返しで物語を作る。

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