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1ー23 第1次キノコ大戦。かくれんぼで勝負だ!「頼む! 見逃してくれ!」 「駄目ですねえ、往生際が悪いですよ」「うぎゃー!」

 村に帰ってキノシシ退治の話をして、その肉を出すと喜ばれた。キノコや山菜はたくさん採れるが、村の狩人が獲ってくる獲物は充分ではなかった。

 「良いね。皆肉が大好きだから、嬉しいよ」その日の夕食には、村長の息子の嫁が家祖伝来のカレー用ミックススパイス(本当?)を用いたカレーには肉とキノコが大量に投入された。村長一家大喜び。キノコの匂いを殺さない絶妙なスパイス分量はまさしく神。芳醇な香りが胃袋を直撃し、キノコにしみ込んだ肉汁がエキセントリックな味わいをもたらした。

 村長の孫で10歳のアイン少年が口いっぱいに頬張り素っ頓狂な声を上げる。

 「もぎゃあああああ! 美味い! 美味すぎるよ! 美味すぎて美味すぎてこの気持ちどう表したらいいの?」

 スィラージが諭す「ふっふっふ、アイン少年、その気持ちはな、ごっくんプリーズと言うんだぜ」うんうんと頷いた。まだ負傷の影響があり食欲控えめ。

 「ごっくんプリーズ?」

 「違う、ごっくんプリーズ♪」アイン少年とスィラージはすっかり仲良し。

 「んごっくんプリィーズゥ♪」シフは正規の発音を教えてやる。ノリノリかつモラルブレイクがコツだ。

 「おい、うちの孫に変な言葉を教えるな」老人のくせによく食べる村長が注意する。

 皆、気でも狂ったような勢いで食べる。

 「たーい♪」村長の孫娘が美味そうにぱっくんちょ。だけど辛味が苦手で泣く「ぎゃああああああ」それでも食べる、泣くの繰り返し。

 天井を仰いでシフは全力で称賛する。

 「くっはああああ! このまろやかさ! この濃厚さ! この味! 一口毎に快感が脳天を突き抜ける!奥さん! 奥さんの料理は最高です!」

 村長の息子の嫁は満足そう「うんうん、みんな良い食いっぷりだねえ」

 ルシールだけは皆の狂態に呆れ顔「この中毒性(依存性)、恐ろしい」



 一夜明けて、残りの肉も回収したいと村人が再訪するが、残念ながら骨だけになっていた。他の野獣の仕業だろう。回収されたのは太い骨と大きな頭骨だ。武具や装身具、呪い(まじない)の素材になるとのこと。特に大きな4本の牙は使い道が多いという。



 朝になってもスィラージは「なんかだるい」と言ってひたすらハンモックの上。寝たり起きたりの繰り返し。昨日のダメージがまだ残っているらしい。

 シフはこっそり枕元に忍び寄り「おい、寝たのか? 寝たのなら返事をしろ」ちょっかいを出す。

 「あの、寝れんからあっち行ってくれ」

 シフは詰まらなそうに退室。

 それを見ていたルシール「子供みたい」

 「おいおい、俺ほど大人らしい男はいないと言っても過言ではないというのに」

 「具体的にどこが?」

 「例えば、そうだな。パチンコでハマり台を出るまで粘るところとか」

 「ダメ人間の証明ね」

 


 キノシシの背中から採ってきたキノコだが、村の長老も知らない種類だった。生物に生えていたので無毒と思われたが確証は無い。傷だらけの爺さんが少しだけ、と皆が止めるのにこっそり焼いてひとかじり。皆が気付いて問い詰めると「ごんな美味いのに毒なわけがあるが」。翌朝を待って判断することになった。

 ルシールが爺に忠告する「外からの毒にヒールは効かないからね」

 「人の舌と鼻はの、毒なら不味いと寄せ付げん。そういう風にできとるんだっぺ」

 無味無臭の毒をシフは知っているが議論しても仕方無い。



 そのキノコを焼いた香りを後でシフが表現した。

 「濃厚かつジューシーそれでいてあっさり爽やか、じわっと込み上げてくる懐かしさの中に激流のような激しさを秘めた、なんとも言えない香ばしさ」

 「ふうん、なるほどね」ルシールは意味がわからないけど面倒臭いから追求しない。



 さらに翌朝、傷だらけの爺は「なんともないっぺ」と元気そう。

 スィラージも続いて「なんともないっぺよんじゅ」意味不明だが元気になった。

 シフもあのキノコを食べてみる。とりあえず魚醤をかけて焼く。なんとも香ばしい「う~ん、うまい。美味すぎて死ぬ」

 それを見てスィラージも1本食べる「うんこれはうまい」発音注意。爽やかイケメンの最低な発言。何故か拍手を1度。何の真似なのかシフも知らない。さすがアニメエリートは造詣が深い。

 「あえて言おう、カスであると」シフは言った。

 呆れた眼差しで見ていたルシール「死ねば良いのに」

 「え、そうかまいったな」スィラージは何故か嬉しそう。



 そして残ったキノコ4本をめぐり争いが勃発した。参加者はシフ、スィラージ、傷だらけの爺、村長、なんとなく近くで見ていた子供たち4人。世に言う第1次キノコ大戦である。治療待ちの患者たちは見物。

 将棋だと爺に有利すぎるから却下。じゃあ何で勝負するんだよと喧々諤々。子供もいるしどうするんだよ、と。

 治療の合間、休憩中のルシール「みんな暇そうねえ」もういい年なのによくやる。

 結局二つに分けて4対4のチーム戦と決まった。キノコが4本だから。種目は何故か『かくれんぼ』。潜伏5分、捜索10分、限定フィールド下における攻守交代のサドンデスマッチ(意味が分からない)である。

 先攻は、村長ケン、傷だらけのガト、好奇心旺盛な少年少女。

 対する後攻は、シフ、スィラージ、なんとなく参加した少年少女。

 シフたちは室内で5分待ち、試合(捜索)開始のゴングと共に村長家近隣に散っていった。ちなみに時間を計るのはルシールが引き受けた。

 シフが隊長としてメンバーを鼓舞する「絶対に見つけるぞ! エンジン全開! 出し惜しみは無しだ!」

 スィラージはノリノリで「よっしゃ行くぞ! ゴー!」

 少年少女は戸惑いながらも「ゴー!」と復唱した。

 「ゴー! ゴー! ゴー!」スィラージが超ノリノリ。

 皆楽しそうに探し始める。

 ルシールは中庭のテーブルで茶を飲みながら見物する。村長が畑の人参の陰に腹ばいに隠れるところは見た。もう一人の爺は屋敷の陰。子供たちはどこだろう。全員真剣だ。

 「あ、爺ちゃん! 見つけた!」

 「頼む! 見逃してくれ!」

 「駄目ですねえ、往生際が悪いですよ」やってみると案外やる気の少年少女である。

 5分ほどで全員見つかり攻守交替。先攻は0点。後攻で一人でも生き残ればシフたちの勝ちだ。

 多分とんでもないところに隠れるのだろうと、ルシールは予想していたが、やはりとんでもなくて呆れた。

 スィラージは畑の片隅に寝そべり、上から土を被せるよう子供たちに指示。自分を埋めさせた。顔だけこそっと出しているが、盛り上がっているからバレバレな気がする。

 シフは身軽さを生かして村長屋敷の屋根に登っていく。ギシギシ鳴っているから屋敷内の敵チームにバレバレだろう。

 残りの子供たちは時間が無くてルシールがいるテーブルの下。

 「コラ、人の足を触るんじゃないの。蹴飛ばすよ」

 5分経過。村長たちが捜索を始めた。

 「なんで兄ちゃん生き埋めになってるの?」「おったぞ! 逃がすな! 包囲しろ!」「まだだ! 諦めだらぞごで試合終了じゃ!」あちこち大騒ぎである。

 結局その争いは3回の攻防を経て村長チームが勝利した。勝因となったのは子供の一人が物置小屋の屋根裏に張り付いたもの。

 村長が高らかに勝利を謳う「がっはっはっはっはっは、わしらの勝ちじゃ! 坊主よくやった!」

 シフ&スィラージはハンカチを噛んで「キー、悔しい」

 ゲレゲレがやって来てスィラージの足に噛み付いた。



 ガボルアは我関せずと裏庭で槍の稽古。これも子供が見物している。いつの間にやら人気者。



 そんなこんなで村人たちと仲良くなり、数日が過ぎた。ルシールはライトヒールの治療を続けた。付き添いも交代で行う。キノコ採取と野獣狩り。治療された患者が毎日礼物を持ってくる。中にはどこで拾ったのか砂金の大粒やエメラルドの原石があり、充分な稼ぎになった。ただし宝石類を換金できる宝石商はこの辺りにはいない。カダ湖北岸の港町ダブネルならいるだろうが、換金すると嵩張ってしまうからアレクサンドリアで換金した方が良い。大量の食物や酒も当然余ったので返すしかない。

 キノコを売りにティグリスまで行く者の他、村の人間に出入りは無く、穏やかな日々だった。当然追跡者も来ない。



 スィラージは、シャリアと打ち解け、漫画やアニメの話をするようになった。彼女の趣味は偏っていたがスィラージなら追従できた。シャリアも語りだしたら止まらない。今まで余程同好の仲間に飢えていたようだ。今日も彼女の家の前庭のテーブルで話す。イケメンお父さんはガボルアと狩りに出かけた。

 「と、そんな感じで受け責めの役を振ってみたんだけど」

 「その話を俺にするのか。俺は男だぞ」

 「だって、あんた……受けでしょ?」シャリアは少し恥ずかしそう。

 スィラージは目を丸くした「あっはっはっはっはっは、君は何を言っちゃってんだよ」

 「それで責めが、あのシフって人」ぽ「きゃー」シャリアが嬉しそうに首を振る。

 「はあ、まったく。妄想するのは勝手だけどよ」コイツ腐ってやがる。

 「あたしこれで漫画描けそう」

 スィラージは気を取り直して「君に漫画を教えてくれた教会のシスターもそんななのかい?」何の宗教か知らないが教会で働く女性は、スィラージにとっては全てシスターである。

 シャリアが頷いた「それが基礎だと、お姉さんは言ったけど」

 何の基礎なのか? あのシスター要警戒である。



 昼休み、ガボルア以外の三人で話す。話題はシスターだ。村内で出会えばあいさつを交わす程度の間柄。礼儀正しい所作、全く違う顔立ち、明らかにこの村の出身者ではない。村人に聞いたところでは、2年ほど前に行き倒れていたのを助けて以来、この村で暮らしているのだという。村の知識人として重宝されているとのこと。読み書き算数一般教養を教える私塾で生計を立て、宗教活動はほとんど行わないらしい。昔からいる山岳信仰を奉じる呪術師シャーマンの縄張りを侵すでも無く、平和な生活を営んでいるようだ。その美貌に熱を上げる若者も多く、いずれ還俗して村で結婚するのではないかと噂されている。

 「布教活動をしないならそれは既に還俗しているのでは? 僧侶の仕事は信徒から金を巻き上げることだろ? 神に祈るだけでメシは喰えないんだからよ」シフは言った。

 スィラージが同意する「そんなこんなであのシスターを怪しいと思うわけだ。せっかく村一番の戦闘力26000を誇るのに」彼の持つ特殊スキル? 美少女スカウターによると村一番の戦闘力(美しさ・可愛さ・若さ・スタイルなど魅力の総合評価)を誇るらしい。死ねばいいのに。

 「なるほどね、(あんた)死ねばいいのに。だけどあのシスター、かなりの魔法使いだよ」ルシールは言った。

 「そうなのか?」シフが問い返す。

 「あれだけ魔力が強ければね。近づけば、さすがにあたしでもわかるかな」

 「色は?」

 「赤かな。感じた所では炎と不動、揺らめきってあたりか」ルシールは注意深く言った。只者ではない。

 スィラージも問う「何の宗教だったかな、ゾロアスター? マニ? エジプト系ではないようだが」

 「門にカリストの十字架がかかっていたな」とはシフ。

 「カリストか」

 シフが頷いた「ユダヤのナザレとか言われているあれだ。エルサレムで流行っているという噂の」かなり活発に活動している新興の宗教勢力である。その教祖、神の子と呼ばれたカリストが処刑されて10年ほどだが、神の力で復活したという噂は、アレクサンドリアでは結構有名である。

 「ナザレ、ね」ルシールでもその噂は知っている。

 もしも復活が真実なら、あたしの他にもアレイズの使い手がいるということになるけど。あの本は、ずっと前からアレクサンドリア帝立図書館の本棚に置きっぱなしになっていたみたいだから、可能性はある。どっちにしろ、避けた方が良いかな。幾ら気配を隠そうが、絶対なんてことはないから。あたしが相手の魔力を感じたように、相手もあたしの魔力を感じただろうから。

 胸元のペンダントに触れる。大粒のブラックオニキスが嵌め込まれたペンダントには、自分の魔力を隠蔽する魔法が掛かっている。逃亡する魔法使いの必需品だが絶対ではない。

 「その勢力がこんなところまで来ているとは俄かには信じ難いが」シフが言った。国境の町村ではナザレの教会など全く見なかったというのに。

 「まあ訳ありなんだろう。腐っているからかもしれんな」スィラージが応じる。

 「何の関係があるのか意味が分からん。それに、この辺の人種ではないよな」白い肌、亜麻色の髪、茶色の瞳。顔立ちは多分ずっと北のものだ。

 「あの顔立ちならトラキアとか黒海辺りかなとは思うけど。それかもっと北」ルシールには見覚えがある顔立ちだ。

 シフが頷く「なるほど。まあ、多分村長なら知ってるんだろうが」

 そこでわざわざ村長に尋ねるほど詮索好きでもないが。



 そろそろ下山の頃合いか、当初予定していた7日目が今日だ、とシフは考え始めた。そろそろ渡船再開しているかもしれない。ルシールの追手たちも他の街を探しに行ったかもしれない。仕事の納期、帰る道程を数えればギリギリ間に合わない。運が良ければ間に合うか。そうだな、明日発つか。

 シフは、ルシールの回復魔法に立ち会う傍ら、様子を見にやって来た村長に伝える。

 「村長、そろそろ行こうかと思うんだが」

 「そうかい、やはり行くか。もっと居ても良いんだがの」

 「かなり予定が遅れているので」

 「まあ、あんたらも、やらにゃならんことがあるだろうしな」

 「重症の人はとりあえず診終わったんだよな」

 「そうだの」治らなかった患者は全体の2割ほど。

 実はライトヒールだけの治療にしては治る率がかなり高かった。口外しないがシフは気付いている。誰も気付いていないようだ。

 「そういうわけでそろそろ行くぞ」

 「りょーかい」ルシールが応じた。



 その日の夕刻、メンバーに旅立ちを伝えたシフは、ひとり池の畔で夕日を眺めた。水面に映る山の峰々も染まる。ざっと見て頂上までは3時間といったところか。山容を見れば登攀ルートを想像できる。登ってみたかったが仕方ない。もう星が見える。さざ波が立つ。高原特有の奇妙な花が揺れて羽虫が飛ぶ。風が冷えてきた。

 ルシールもやってきた「へえ、これは綺麗ね」大石に腰かける。

 「ああ」

 二人珍しく黙って眺めた。沈黙が苦にならない関係は良いものだ。

 シフはルシールを見る「そろそろ回答を聞いても良いか。ウチに入る気になったか?」

 たっぷり間を開けてルシールが答えた「正直言って、どうしようかなと思ってる」

 「そうか」

 「もう少し待ってもらっていい?」

 「まあいいけど。嫌なら嫌って言っても良いんだぞ? どちらにしろ、アレクサンドリアまでは間違いなく連れて行ってやるから」

 「ありがとう」

 「だけど断られたらスィラージが泣いちゃうかもしれないな」

 「うふ」

シフ「感想体操行くぞ!」

スィラージ「おー!」

シフ「1、2、かん、そう」

スィラージ「5、6、かん、そう」


仕事が忙しい

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