表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/45

1ー22 復讐ってのは良いよねえ(ルシールは危険な女)

 「避けろバカ!」シフは思い切りルシールを突き飛ばす。そのため動きが一瞬止まる。

 キノシシが迫る!

 ガボルアが横合いから槍を振り下ろす「むん!」頭に命中! 煩わしそうに頭を振るだけで効いていない。脳味噌が少ないのか?

 その隙にシフは跳んで避ける。

 キノシシが地響きを立てて走り抜ける。間近で見ると大きくて速い。鋭い4本牙がはみ出している。その背のキノコは小さくてきれいな茶色の丸い笠。そのまま藪の向こうへ走る。置いた籠が倒れて松茸が溢れた。

 ルシールは丸まって転がり壁にゴツン!「あいた!」

 「だ、大丈夫かー?」

 シフはわざとらしい口調で呼び掛ける。

 「一応言っとく。さっきの仕返しじゃないからなー?」

 ルシールが頭を押さえて立ち上がる。

 「ふっふっふ、復讐ってのは良いよねえ、あたしみたいな女でも明日への活力? 絶対にやり返してやるって気持ちが湧いてくるよ」瞳が赤くなる。好戦的な面構えでシフを見、それからキノシシの消えた藪を睨み付ける。

 「そうだ、ファイトだ!」危ない女だ。とりあえず励ましておく。

 シフは作戦を組み立てる「視界が悪い。さっき見た広場まで態勢を整える!」

 「「「了解!」」」

 キノシシが藪から飛び出してきた。速い。こいつから走って逃げるのは無理だ。今度の標的はガボルアか!

 「とても逃げられん、やるぞ!」シフは守りに構える。攻撃はガボルアに任せてバックアップだ。鼻に詰めた布を捨てる。鼻血はもう止まった。

 「おう」ガボルアがキノシシの突進を躱しながらその肩口を槍で殴りつける。やっぱ上手い、が効いていない。鋼のような剛毛だ。それでも怯まずキノシシに接近戦を挑む。さすがギルド一番のガード(護衛)、あの巨体相手に至近でも無難な立ち回りだ。

 ゲレゲレが吠えたてる。

 キノシシは苛立った様子。その巨体で弾き飛ばそうとするが、そこをガボルアが叩き込む。ガボルアに向き直ると今度はゲレゲレが吠えたてる。なかなかの連携だ。



 ワンワンワン! ガサガサガサガサガサガサ! ドドドドドドド! ひらり! ドガン! ズバズバ! ビシ! ドダドダドダドダ、ブン! バキバキバキ! ワン! ワン! ワンワン! ガサガサガサガサ! ドドドド!「喰らえ!」ズバン!「ちっ」ドタドダドドド、バキバキ! ブフォオ。



 他のメンバーは遺跡の広場まで走った。

 「スィラージ! ここで二人を守れ」

 「OK」

 シフの指示にスィラージが剣を構える。

 ルシールも魔法の準備を再開。

 シフは5秒して言い直す「いや」遺跡の2階に登れば良い。あの巨体なら高所には登れまい。アイスランスを使うにも都合が良い。一手間違えた「違った、上に上がれ!」

 そこに藪を鳴らしてキノシシが飛び出してきた。標的はシフ!「せっかちな野郎だな」

 追いかけてガボルアが横合いから突きこんだ。捩じりこむ突き! しかし届かない。

 シフは危うく回避する。

 ガボルアが前に出て叩きまくる。

 ゲレゲレもやって来た。疲れが見える。爺ちゃんだから仕方ない。

 さっきの突き技はスクリュードライバーか。大技だが当たれば有効だろう、当たれば。少しで良いから動きを止める必要があるな。見回してすぐ作戦を立てた。

 「ガボルア!」シフは手を振って合図する。俺が引き付け壁に突っ込ませて隙を作る。ガボルアなら分かるだろう。横目で仲間を見る。ルシールがよじ登っている。遅い。スィラージが下から押して手伝う。

 「早く上がれ」

 「こら! 変なところ触らないでよ! 嫌らしい!」

 「なにい! わかった、じゃあ触ってやるよ、全力でなっ!」スィラージがもろにケツを押す。

 「うわ!」

 「あっはっは、良い揉み心地だぜ」

 「この変態! 何やってんの!」無事に2階に上がった。

 「うるさい! お前が悪い! お前が!」スィラージが逆ギレ。

 「まったく何やってんだか」シフは呆れる。

 少年は既に登り終えた。

 スィラージは満足した顔でこちらへ。何かをやり遂げた男の顔だ。

 馬鹿野郎、弱いくせに来るんじゃない!

 ルシールが剣呑な口調で魔法を使う「アイスランス・アサルト!」氷の刃が群れなして奔る。ダダン! ダダダダダ! 次々キノシシに命中するが剛毛に阻まれる。煩わしそうに振り払われた。

 アサルトでは駄目だ。しかし陽動としては充分か。

 この隙にガボルアが反対側から距離を詰めていた。

 充分な体勢、大きく貯めて捩じる突き技、スクリュードライバーが放たれる! ズドンと腹の反対側から槍の穂先が飛び出し、うねった。素早く槍を引き抜くと同時に、噴水のように血が噴き出した。

 「ゴオオオオオオアアアアアアアアアアア!」キノシシが狂ったように暴れだす。

 ガボルアが素早く距離を取る。

 ゲレゲレがもたついた。濡れた地面に滑ったか。その眼前に巨体が迫る!

 「すり抜けながらかっさらえ!」スィラージが咄嗟に走り込んでゲレゲレを抱き上げ、そのまま放る。

 「ギャン!」

 「やば!」ゲレゲレの代わりにスィラージが弾き飛ばされた。バン! と壁に叩きつけられ倒れた。

 ゲレゲレがゴロゴロと転がっていく。

 「何やってんだ馬鹿!」

 「まったくアイツは!」ルシールが衝動的に2階から飛び降りる。

 ガボルアがスィラージを背負って逃げる「やれやれ」

 キノシシは辺りの石像を破壊したり壁にぶつかったりしながら藪の向こうに消えた。すぐ死ぬだろう。

 少年は圧倒されて2階で座り込む。スィラージを呆然と見下ろした。

 霧はいつしか小雨を呼んだ。小さな無数の水滴が音も無く空間を埋め尽くす。

 


 ガボルアは屋根のある所にスィラージを寝かせた。スィラージは意識が無い。鼻と口から流血。頬が陥没している。青褪めた顔。

 「おいスィラージ! しっかりしろ!」シフが腕を軽く叩くも反応が無い。

 「気絶している」ガボルアが冷静に言った。

 「おい、頼めるか」シフは珍しく真面目な顔をして聞いた。

 「もうちょっと待って」

 ルシールがスィラージの枕元に座った。魔法陣の手袋を交換し、深く息をついて集中、数十秒で魔力を練り上げる。瞳が赤くなる。

 「……よし、準備できた。いくよ」

 スィラージの頭と右足太腿に手が当てられた。回復魔法の青い光がスィラージの全身に広がった。

 シフは瞠目する。

 まさか、これはエクストラヒールか? ライトヒールが局部回復だとしたら、ハイヒールが部位回復。そしてこれは全身回復のエクストラヒールだ。かなりの上級魔法である。これで治せない怪我は無いと言っても過言ではない。

 こいつの魔法は本当に底が知れない、とシフは思った。

 ルシールが真剣な顔で魔法を続ける。

 ゲレゲレが心配そうに見ている。



 15分後、魔法の光が消えた。

 「もう大丈夫かな」ルシールが身体を引いた。さすがに疲れた様子だ。

 スィラージはまだ気絶しているが、頬が戻り鼻血も止まった。とりあえず大丈夫か。

 「あー本当に助かった。ありがとよ」

 「うん」

 「この借りは、いつかきっと精神的に。多分コイツ(スィラージ)が」とりあえずおどけてみる。

 「……うん」

 明らかに作り笑いだったのでシフは心配する。

 「大丈夫か、お前」

 「うん、あたしは、大丈夫」

 ゲレゲレが落ち着かない様子で歩き回り、立ち止まるとスィラージを覗きこむ。

 「もう少し待っても起きなかったら背負って帰ろうかね」

 少年も下りてきた。シフがキノシシはまだ他にいるのか? と訊くと多分1頭しかいないと思うんだけど、と答えた。縄張りの主だけが仕掛けてくるパターンか。いずれにせよ早く去った方が良いんだが仕方ない。少年にキノコの籠の回収を指示する。

 「すごかったね」

 「そうだな」シフは声の調子を落とす「おい少年、あの魔法、ものすごい疲れるから滅多に使えないんだ。だから内緒だぞ、内緒」釘

 聞こえただろうがルシールは無言。何かを諦めた顔でスィラージを見守っている。

 「うん、わかった」少年が頷いた。

 ガボルアが周縁の確認に出た。



 キノシシの死骸がすぐに見つかった。

 藪の向こう。まだ温かい死骸の周りに、母親の巨体に比べて、驚くほど小さな猪の子が4頭纏わりついていた。ガボルアが近付くとすぐ逃げたという。

 戦利品として肉を何ヶ所か切り取ってきた。

 話を聞いて少年も肉を切り取った。

 その巨体の背に生えていたキノコも採取された。シフでも知らないキノコだった。動物の身体から生えていたので毒ではないと思うが。とりあえず持ち帰って村で訊くことになった。



 30分経過。スィラージはまだ起きない。寝不足なのか? 気持ち良さそうに寝てやがる。そろそろ出発しないと日没までに帰れない。

 「よし」シフは靴と靴下を脱ぐ。朝から履いた靴下からはスパイシーな芳香が立ちのぼる。それを横たわるスィラージの顔の上にぶら下げた。わくわく。

 「あんたホントにブレないよね」どうなるかルシールが見物する。

 5分後。スィラージの目鼻がぴくぴくし始め、何やら苦しそう。もう少しだ、がんばれスィラージ! 裸足の男が見守っているぞ♪

 「……う、ごほっ、何だよこの臭いは」スィラージが寝返りをうって靴下に顔面ダイブ!「何これ」

 「安心しろ、俺の靴下だ」

 「ぺっぺっ! このカス野郎!」スィラージがガバと体を起こして投げつける。

 「あっはっはっはっはっは。心配させるな、この馬鹿野郎」その肩を叩いた。

 「ワン!」ゲレゲレがスィラージの足に噛みついた。嬉しそうに尻尾を振っている。

 「2人を守れと言ったのにお前はホント、人の話を聞かないよな」

 「君にだけは言われたくない」

 小雨がやんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ