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24/45

1-20 時が来たようだ。闇の住人スィラージは暗黒の鑑賞会に出席する。

 時は少し遡る。



 深夜、あまりに早寝だったのでルシールは目が覚めた。皆寝静まった後らしくとても静かだ。とりあえず裏庭のトイレに行く。裏庭で見上げた高原の夜空。黄道が中天を横切っている。ひと眠りしたら気持ち的には楽になった。

 家の中に戻ってきたところで人の気配に気づいた。居間に誰かいる。まさか泥棒? 一応足音を殺して居間に通ずる扉を少しだけ開けた。何かの光が漏れてきた。光は拡がりに乏しいが目まぐるしく色を変える。

 テレビの光だ。誰かがこんな時間にテレビを見ているのだ。音は無い。消音モードか。彼女は歩を進める。消灯した家の居間のテレビの前に、一人の男が胡座をかいていた。音はイヤホンという魔道具で聞いているようだ。

 ルシールは小声で呼び掛ける「おいコラあんた」

 スィラージがびくっとして振り返る「なんだ君か、びっくりさせるな」

 「あんた何やってんの」

 CMが終わりアニメのイントロが始まった。スィラージだけイヤホンで聞いている。

 「何って、そりゃ、あんた、アニメ見てるんだよ。それ以外に何がある」

 「どうしてこんな時間に?」

 「そりゃあこの時間こそがアニメのゴールデンタイムだからだよ」彼はアレクサンドリアの自宅でちゃんと録画予約してあると言うが、リアルタイムで見られるなら逃す手は無い。

 「だから夜も遅くにゴキブリみたいにこっそりテレビ見てるの?」

 「ゴキブリとか酷いな君。まあ皆を起こすわけにはいかんからな。こっそり見るしかないんだよ」

 「ふうん、アニメエリートも大変ね」

 「別に大変じゃない。こんな面白いものを見ないのは人生の損失だ」そこまで言うか。

 「そんなもんかなあ」

 「そうだ。だから君も見ろ。これは今期の中では良作だから」予備のイヤホンを手渡してくる。

 「アニメ初心者にもお勧めだ」

 初心者? アニメを見るのに経験とか能力が要るの?

 「なるほど」とりあえず見てみますか。眠くないし。彼女は並んで座る「あんたいつからテレビ見てんの」

 「だいたい30分前からかな」

 「シフは? 誘わなくていいの?」

 「あいつを誘うとネタにされるからいい」

 「ま、それはそうかもね」

 オープニングの歌がもうすぐ終わる。スィラージが本腰を入れて画面に向き合う。

 そのアニメ、タイトルは『こちら怪盗テツヤの少女憂鬱』。テツヤシリーズの第三期だという。

 ナレーター「前回までのあらすじ! テツヤの朝は早い。朝刊のテレビ欄をチェックして好きなアニメの録画予約をセットしないといけないからだ。この日彼は4時に目が覚めたので(老人かよ)玄関で朝刊が来るのを待っていた。そして朝刊を届けにやって来たのは年端もいかぬ少女であった。髪型はツインテール。もう一度言う、ツインテールだッ! 舐めんなよ馬鹿野郎、貴様絶対に許さんからな!」なんだこりゃ。

 スィラージは真剣な眼差しでアニメを見ている。

 奇天烈な格好の青年が主人公のテツヤか。

 ツインテールの少女は待ち受けていたテツヤに気付くと、しばらく眺めて言い放つ。蔑みを込めて「すぐに帰る、弱い男」現代魔王R2のナンバーズナイトの少女のセリフもじりである。

 昨夜、会社の飲み会を一次会で早々に抜け出したテツヤ「貴様! 何故それを知っている! さては組織の人間か!」いいえ、その飲み会があった居酒屋の娘です。

 ルシールは思わず吹き出した「何これ」

 スィラージは画面を見たままニヤリ。



 25分後、アニメが終わった。なかなか面白かったとルシールも思う。特に実家の居酒屋でツインテールの少女が人間観察をするのが面白かった。

 運動会の実況放送みたいな感じで「4番のお兄さん、頑張ってください」「もう少し飲めると思いますよ」「2番のおじさん、凄い飲みっぷりです。元気です」「赤組、弱いです」など聞いて笑ってしまった。

 余韻に浸るルシールを眺めて、スィラージが言った。

 「少しは元気になったみたいだな」

 「……うん」

 「君が、何を抱えているのか、俺は知らんが、シフもガボルアも皆心配しているんだぞ。それを、忘れるなよ」噛んで含めるような口調である。

 「……うん」

 「まったく、気になって夜もおちおち眠れやしない」金髪碧眼イケメンは膝を抱えてアニメを見る。

 「それは嘘。アニメ見るためでしょ」

 「いや違う。君のことを考えて考えて、どうしてやったら良いのかと悩んでいたらアニメの時間になっていたから、じゃあ折角だし見ようかな、と思ってさ。考え事の合間にチラチラ見ながら、な」シフと同じような言い回し。

 「既にバレバレなのに誤魔化そうという気持ちがわからない」

 「ぐむー」

 「もう一つ、一応念を押しとくけど、今度また、あたしに夜這い仕掛けて来たら殺すから」

 スィラージは画面を見たまま、面白くなさそうに棒読み「すいませんでした、もうしません、二度としません、絶対にしません、許してください」

 「うふ、よろしい」

 スィラージは、ほわわんと溜め息。



 そして今朝だ。

 「魔力がまだ回復していないから」と理由を作って、シフはルシールを連れ出すことに成功した。全員でキノコ採取へレッツゴー! 狩りを希望したガボルアには悪いが、これもルシールのためだ。だから仕方ないよな。うひうひ。椎茸に舞茸。採りたては香りが違うんだよ、香りが。他にも色々なキノコが採れるらしい。これはベルドゥラルタ商会のキノコ担当として一度調査する必要がある。

 キノコ採取の手間賃は一応出るが安いもので、滞在費に消えるだろう。

 朝の高原は涼しくて気持ちが良い。この辺りの街や村が、湖の周辺以外、低地を避ける理由がよくわかる。山の頂上には雲がかかっている。



 朝になって押し寄せた十数人の患者たちは残念がったが、仕方ないと帰宅。

 昨日治した村人やその家族たちもやってきた。昨日のお礼だと、大量の食材や酒を持ってきた。その中にはシャリアの父親もいて、酒樽を抱えてきた。

 「せめてこれくらいは出させてくれ」

 キノコ採取の仕事について知った村人たちが案内したいと申し出る。村長も誰か案内役を探す必要があったからキノコ採取になるべく詳しい者を指名した。選ばれたのは先日左腕の骨折を治してもらった少年だ。もう少しで完治というところか。

 「ガード(護衛)の人もいるし、穴場に行ってみようか。たくさん採れるよ♪」ウッキウキ。

 「そりゃ楽しみだ。よろしく頼む」シフは少年の頭を撫でた。



 ところで、シフは朝からもやもや案件を抱えていて、どうも注意散漫だ。

 昨夜から今朝にかけての出来事を整理する。

 かすかな女の笑い声。ベッドに居なかったスィラージ。落ち込んでいたのがすっかり元気なルシール。なんとなく雰囲気の良いルシールとスィラージ。

 思い過ごしかもしれないが、いろんな想像をしてしまう。ああ、なんだこの気持ち。心がザラザラする!(サイコロボットアニメの見過ぎ)ってなんだかこれ、久しぶりの感情だな。ふう、とりあえず、そういことか。そういうことなのか。



 「どうした、珍しくおとなしいな」スィラージがシフの肩を叩く。無駄に良いキメ顔だ。

 「ああ、ちょっと世界の平和について考えていてな」シフは少し戸惑い適当に返事する。

 ルシールもシフの横に並ぶ「それは嘘ね!」

 近いんだよ、ムズムズする。

 「もう大丈夫なのか」シフは尋ねた。

 「もちのロンくさ♪ ベイビー!」無駄にハイテンションな女だ。そして何故だか博多弁(※1)。

 「よくわからんが、元気は元気みたいだな。さあ準備しろよ」

 ガボルアが少し離れて眺めている。



 ところで猟犬を1匹連れていくことになった。先日スィラージを噛んだ老犬だ。普段は広場で放し飼いにされている。中型犬。耳が少し丸い。体毛が長くて焦げ茶色、癖が強い。特に髭。名をゲレゲレ。雄。

 老いてはいるが絶対に損は無いから、と村長が推薦。

 「ゲレゲレは鼻が物凄く良いんだよ」少年がしゃがみこんでゲレゲレの頭を撫でる。ゲレゲレは嬉しそうに尻尾を振る。

 「そうなのか。なるほど」シフはスィラージを見る。

 「何故俺を見るんだよ」

 「臭いから噛まれたのかなと思ってさ」

 「ぺっ!」

 「わん!」早速ゲレゲレがスィラージのズボンに噛み付いた。

 「またかよ! どうしてお前はいつも!」スィラージはズボンを引っ張る「離せコラ」

 「わうう」簡単に離しそうにはない。

 「あっはっはっはっはっは」ルシールが楽しそうに笑った。

 



 【※1 もちのロンくさ】意味は『もちろん』。語尾に『くさ』をつけるのは古い博多弁に。シフがアニメから憶えてたまに使っていた。

ルシール「ねえガボさん感想書いたことある?」

ガボルア「俺は無いがお前は書けよ、ローマ市民権を持つ者の義務だろう?(嘘)」

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