1ー9.5 夜間行軍③商会の近況を聞く
ルシールが話題を振る「それで商会は交易がメインなの?」
「まあ、そうだと言いたいところではあるんだが」シフは可笑しそうに言葉を濁す。
スィラージも頷く「それだけとは言えないんだよ、ウチは。出版社の手伝いとか、交易の他にも最近は色んなことやってるんだよ」
「猫カフェとタコヤキの出店、そしてマダム人気の護衛術講座とか、ね?」シフは広報活動に余念が無い。
「……そうだな」ガボルアが嫌そうに呟く。
「なぜかマダムに大人気」シフは繰り返す。
スィラージも補足する「あとはエジプト名産を揃えた土産物屋さん。彼のオヤジさんがいるんだぜ」
「はあ」ルシールは微妙な表情。
シフは何故かドヤ顔で「そこで売られているのがあの有名なピラミ君(※1)だ。製造元ベルドゥラルタ商会」
「見たことあるけど、あれベルドゥラルタ商会だったの? あの何を目指しているのか全く分からない、たいして可愛くも無い人形が」
「あっはっは、まあ、そうなるな。ギルマスのよくわからん趣味だ」シフは笑う。
「変な趣味」
「うふ、まあ色々やるから当然失敗もあるんだが」
スィラージが思い出す「変わったところでは恋人の身代わりなんてのがあったな」
「あれこそ失敗だったろ。いくらイケメンでも中身が無いとな」シフは冷静に指摘する。
「え? 成功したよな? あれは」
「向こうのお兄さんにはバレバレだったぞ」
「……マジかよ」
「それでも儲けを出すんだから、やっぱ大した女だよ」
「そんなに色々やるのなら、色んな人がいるんだろうね」
「そうだな、たしかに、問題児というだけではないな。遥か東の国から来たっていう、平たい顔族までいるからなあ、多国籍軍もいいところだ」
「誰でも受け入れる、そういう信条らしいよ」スィラージは少し誇らしげ。
「俺もそれ聞いたけど、少し違うな。能力はちゃんと選んでいるぜ? 拘らないのは人種とか民族、宗教だ」シフが補足。
「ふうん」ルシールは少し置いて「なるほど」と言った。
「後継者争いに負けて亡命してきたお姫様なんてのもいるしなあ」シフの説明は続く。
「へえ」
ふわり。何か、小さな光が路傍から舞い上がる。
一行は歩を止める。
青い。星の青さとは違う、今にも消えそうな小さな光が、羽虫のようにルシールに纏わりつく。
シフは注意を促す「おい、それ」
「虫?」スィラージはきょとん。
「……見たことない?」ルシールは静かに言う。軽く指で円を描くと、光が動きに反応して指先に追従する。ゆらりゆらりと羽虫のように、しかし触れることはない。
「……死者の星か」ガボルアが呟いた。
ルシールは頷く「海で見ることが多いと言うけどね。あたしも誰かの魂だと思うよ。誰かがこの辺りで死んだんだよ。いつのことか知らないけれど」
一面茂った耕作地であるが、その陰に何を隠しているのか知れたものではない。
「なるほど」シフは初めてではないが、滅多に見れるものではない。ルシールが魔法使いだからだろうか。
「触って何があるってわけでもないし、ただ纏わりついてくるだけなんだけど」指先に少しだけ魔力を込めてくるくる、ぴっ、と天を指した。光がゆらゆら昇っていく。
「こうやって夜空の星になるらしいよ。本当のところはどうなのか、知らないんだけど」
昇る光を追いかけるようにしてもう一つ光がやってきた。もつれあうように、じゃれあうように、昇っていく。すぐ星の海に埋もれて見えなくなった。
「さあ行くぞ」シフは先を促す。
スィラージが「はっ! っっっくしょーーん!」
「余韻が台無し」ルシールは苦笑い。
シフはスィラージに話しかける「そういや、知ってるか?」
「知らないけど、ぺっ!」
「あっはっはっは、ちょっとまあ聞いてくれよ。商会の猫カフェに新しい猫が入ったんだがよ」
「本当に猫が好きだなあ」
「なんと80キロもあるんだぜ」
「あっはっはっはっは、そんな猫がいるわけないだろ!」
「やれやれ」ガボルアが言うと、ルシールも「ホントにやれやれ」と言った。
シフの話は続く。
「ところで皆、最近流行りの異世界転生についてどう思う?」
スィラージの回答は「人類の夢だな。新世界で英雄になる」
ルシールの回答は「そういう夢想するのは趣味じゃないかな」
ガボルアの回答は「阿保らしい。転移か転生か知らんが、そんなので人生が変われば誰も苦労せん」
「へえ、哲学だね」シフは珍しく多弁なガボルアに感心した。
「それだけ自分を変えるってのは難しいもんなんだ」
「なるほど」
「業ともいうか」
宗教用語か、シフは知らない。
「……ホントそうだね」ルシールの囁きは誰にも聞こえない。
【※1 ピラミ君】ピラミッドを模した人形。ゆるキャラ。ベルドゥラルタ商会が製作販売。ピラミッドから手足が生えた不思議な造形。




