2話 空から紙が舞い降りた のはいいのだが………
しりとりに飽き、体感時間で1日が過ぎたある日、空から突然紙がヒラヒラと降ってきた。この白い空間に空という概念はないが、なんとなく上の方という解釈でいいだろう。紙を取ろうと手を伸ばし、掴もうとしたが、ヒラヒラと舞っている紙を掴むのは難しく地面に落ちてしまった。
何もないこの空間にはじめて「物」が現れ、気分が高揚している。
落ちた紙を拾おうと周りを見渡すが、どこにもない。落ちたのを目の前で見たが、下を見ても何も落ちてはいない。
「うわぁ……。周りの白と同化しやがってる。」
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だるさが最高潮を迎えた。こんなの完全なる無理ゲーだ。今思えばヒラヒラ落ちる紙を見つけたことは奇跡だったのだろう。
だるいと思っていると、あることをおもいついた。
[探すのめんどいから探さない]と
画期的かつ大胆な発想。これまでにいただろうか。おそらくいないだろう。
凡人どもは[空から紙が降ってきた]という展開が起きたら、取り合えずそれを拾いたくなるだろう。だが僕は違う。めんどいから拾わないのだ。
多分、下を這いつくばり死に物狂いで探せば見つかるだろうが、面倒くさい。何が書いているかわからない物に、そんな熱量を使うなんてもったいない。
もしも紙に 「期待した?ねぇ期待した?」なんて書かれていたとしたら、もう、僕、怒っちゃう。
……だが逆にエロい娘の写真が紙に貼っていたとしたら。
まあそんなことはないだろう。
可能性は低いだろうな。
あ、でもヒラヒラ落ちてくるときになんか女の子っぽいのが見えたような、見えないような。
まあそんなのに踊らされる僕ではない。
などと考えているうちに僕は、地面に頬擦りをしていた。
OTLTLOTLOTLOTLOTLOTLOTLOTLOTL
ただ一人の空間で、己の性欲を糧に女を探すこの男。
醜い男である。だが、俺はこの男のことをかっこいいと思ってしまう。
今からこの醜い男の、醜い様を、「もうひとりの僕」こと、この俺が実況、解説をしていこうと思う。
JTOJTOJTOJTOJTOJTOJTOJTOJTOJTOJTO
ひれ伏し、這いつくばっている彼。それを上から見下し、観察する俺。ちょっとした優越感にテンションが上がる。が、そんな俺のことは関係なく、彼は紙を探し続けている。
さあ、今回は俺の暇潰しだ!
、。、。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
彼はなんの工夫もせず、ただ最初の状態から変わらない。実況のしようがない。
俺としては、スポーツの実況の如く激しいものをしたかった。実況のしがいがない。
まぁ、致したかない。強制的に動かせるか。
………………5分後。実況開始。
ああっと、急に動きが!何かあったのでしょうか。
白々しい実況のスタートのなってしまったが、これくらいはいいだろう。さあ、実況を再開しましょう。
ひれ伏した体勢から一転し、大の字に寝転がる彼。ここからなにをするというのだ。
「あぁ、今日も風が気持ちいいなぁ。なぁ、お前もそうだろう。」
これは[青春の一時]だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!青春の雰囲気を醸し出すことによって紙のほうから自分の方に誘き寄せようということでしょう。
彼はわかっているのでしょうか。
紙は、動きません。
青春を演出しようが動くことはない。当然である。彼は阿呆なのか。いや、確実に阿呆である。
おっと今度は立ち上がった!まだ[青春の一時]をやるというのか。
「紙。恥ずかしがらずに出てこいよ。僕は君を受け入れるよ」
下ネタにしか聞こえない。
「おっと間違えてしまった、」
おっとこれは下ネタに聞こえてしまったこちら実況側の早とちりか…
「本当は僕のナニを受けい…」
圧倒的下ネタをぶちこんで来やがった。見た目が下ネタのやつが言うと下ネタの大渋滞が起きてしまっている。これをもとの世界で行っていたら確実に現行犯逮捕で人生詰むであろう。
いま、解説しているこの瞬間にも下ネタを言い続けている。おそらく彼は、本能の塊で、俺が理性でできているから、このような状況が起きていると考えられる。
なんだかすごい憂鬱だ。想像したことがあるだろうか、自分が全裸で下ネタを言っている姿を。そしてそれを、実況、解説している自分を。どっちのほうが変態かわからない。
空しい。
虚しい。
誰も、何もないこの空間で、この行き場のない気持ちはどこに放てばいいのだろうか。
あぁ、やはり大声で叫ぶしかないのだろう。
叫ぶ言葉は、まぁ何でもいいが、今回はあの言葉がいいだろう。
気持ちを込めて全力で叫ぶとしよう。
「「青春のバカやろおぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
擬人化魔法[青春の一ページ]を発動しました。