番外編 ~第57話編・その朝の出来事~
*第57話でりことカイユの会話にあった『朝の出来事』のお話です。苦手な方にはお勧めできない内容(R15)となっております。ご注意下さい。
「ハクちゃん、こっちをひっぱると……ほら、リボン結びがとけたでしょう?」
「うむ、なるほど」
まだパジャマが上手に脱げない、小さな竜。
だからちょっとだけ手を貸してあげた。
パジャマを脱いだ白い小竜は、私の大事な旦那様。
ベットの上でちょこんと正座をして、パジャマを畳むその姿は……見蕩れるほど、可愛らしい。
ハクちゃんはパジャマを丁寧に畳み終わると、何故か私の枕の下へと押し込んだ。
不思議。
なんでかな?
本人がそうしたいみたいだから、別にいいんだけど。
「りこ、その……おはようの接吻を、人型でもして良いか?」
あまりに愛らしい旦那様をぽーっと見ていたら。
手をにぎにぎさせながら、ハクちゃんは金の眼で私を見上げて言った。
「え、う……うん」
瞬きより短い時間で人型になったハクちゃんは。
「りこ」
座っていた私を囲うように抱き、そのままベットに……。
うわぁ。
なに、この体勢はっ。
おはようの接吻を、こんな本格的(?)な体勢でするんですか!?
「りこ……おはよう」
そっと触れて、離れた唇。
小竜の時にしてくれたのと同じ、優しい口付け。
なのに、私は。
昨日の温室でのキスを思い出してしまい。
少し物足りないって、感じてしまった。
「お、おはよう。ハクちゃん」
昨日。
温室で、私とハクちゃんは……。
うう~っ何考えてるのよ、私ったら。
駄目、眼を開けてられない!
だって、貴方の吐息が。
あまりに近くて。
思い出してしまう。
「りこは我がぱじゃまを脱ぐのを‘お手伝い‘してくれた。礼に我が、りこのパジャマを脱がして畳んでやろうではないか!」
……へ?
脱がして、畳む……ぎゃああ!
しなくていい!
「そんなお礼いらな……ひゃんっ! ……ぁ」
ひんやりした手が、指が。
いつの間にか裾から進入して。
何か確かめるように……私に触れていた。
もちろん、パジャマの下は何も着ていない。
腰に添えられた大きな手が、動き。
ひんやりとした指先が肋骨を1本1本、ゆっくりと中心へ向かってなぞっていく……。
「んんっ! ハクちゃ……っ」
「りこ……」
あ。
これって。
つまり……もしかして‘お誘い‘ってやつなの?
お手伝いがどうのっていうのは、遠まわしな言い方で……。
絶対そうだよね!?
男の人って、朝からそういう気分になることもあるって聞いた事がある。
朝から、今から?
どどど……ど、どうしよう!?
「大丈夫だ、我は……これは巧いのだ」
緊張で硬くなった身体に気づいたハクちゃんが、額にキスをしてくれた。
巧い……自分で言う?
さすが、ハクちゃん。
あ、まあ、確かにそうかも知れません。
昨日、身を持って体験致しましたから。
「う、うん。よ……よろしくお願いします」
ハクちゃん。
昨日の続き、私に教えてください。
「ハ……ク。ハクちゃんっ」
ボタンを1つずつ外しながら。
大きな手が、10本の指が。
「……あ……っん!」
布の上から胸に触れ、撫でた。
撫でながら、転がされ。
大きな手で優しく包まれ……息が止まりそうになる。
「ぁあ……ハクちゃっ……」
「……りこ」
貴方の声。
大好き。
「りこ。我のりこ」
あぁ、なんて声。
耳から溶けちゃいそう。
ハクちゃん。
昨日は、ごめんね?
もう、朝とか夜とかどうでもいいから。
私だって貴方と……したかったんだもの。
今度こそ、ちゃんと記憶に残すから。
「ハクちゃん……」
よし! 思い切って。
私からキスしてみようかな?
「ハク……大好……」
ハクちゃんの首に両腕をまわし、引き寄せようとして。
拒まれた。
「へっ!?……ちょ、なんで外すのよ!?」
しかも、ハクちゃんは私の腕からすぽっと頭を抜いてしまったのだ。
「何故って……これではぱじゃまが脱がせられぬだろう?」
肩からパジャマをずらし、ささっと両腕を袖から抜いて。
私の背を左手でひょいっと少し持ち上げて、パジャマをするりと取り去った。
「よし、‘お上手‘に脱がせられた。後はこのぱじゃまを畳むのだ!」
私の上から足元の方へ移動し。
ハクちゃんは正座をした。
そして、無表情ながらどことなく真剣な目つきでパジャマを畳み始めた。
「!? ……う……そっ」
私達が居るのは大きなベットの上で。
新婚で、2人っきりで。
私は貴方にパジャマを脱がされて、下着1枚身に着けてるだけ。
つまり、胸丸出しのパンツ1丁の情けない姿で。
真っ裸で正座してパジャマを畳む、冷酷系悪役美形顔の旦那様を見ていた……。
「うむ、上出来だな! 畳むのは我ながら、かなり巧い。脱がすのも‘お上手‘なのだ。そうであろう? りこ! ……りこ?」
畳むのが、巧い。
脱がすのは……お上手?
ふ~ん。
誰に‘お上手‘なんて言ってもらったんでしょうかね?
「りこ?」
貴方の腕に抱かれてるのは、私じゃなくて……パジャマ。
「…………」
する気が無いなら、なんであんなエッチぃ脱がせ方して、エロい触り方したのよぉ~!
ボタンいじりながら、違う所もいっぱい触ってたクセに!
も……もしかして、あれは単なる偶然?
あれが貴方の仰いました‘お上手な脱がし方‘であって、その気なんて無かったってこと?
ぎゃあああ~、そんなあぁああ!?
する気満々になっちゃった自分が恥ずかしいー!
勘違いしちゃった自分が、情けないようぉおおお!!
「な、なんでもない。……あははは……はあっ」
ねぇ、ハクちゃん。
やっぱり、胸がCじゃ駄目なの?
毎日お風呂でマッサージしたら、少しは大きくなるんだろうか……この歳じゃ、もう無理か。
私はぴちぴち女子高生じゃない。
もう限界まで育って、この胸なんだよね……。
「りこ、どうしたのだ? 自分で乳を揉んだりして……痒いのか?」
「か、痒くなんかないです! くすん……ほっといてよ」
「乳をいじっとらんで早く服を着ろ、りこ。散歩に行くのだろう?」
乳。
揉む。
痒い。
いじる。
その顔でそんな単語を連発しますかっ、魔王様ー!
「お散歩、行きますとも! ハクちゃんも早く竜体に戻って。抱っこでお散歩したいって言ってたでしょう? ……人型じゃ、抱っこしてあげられないよ?」
「む!? それは困る。我は今日はりこの抱っこで散歩すると、昨夜から決めておったのだからな」
そう言いながら小竜に戻ったハクちゃんは、私のお膝にちょこんと座り。
「乳が痒い時は、遠慮なく我に言うが良い。‘お手伝い‘してやるぞ?」
「……けっこうです」
奇天烈謎思考回路ハクちゃんとこんな私の新婚生活。
はたして、夢見たような甘~いものになるんだろうか?
ちょっと、自信が無くなった私だった。