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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
92/212

12月~1月の小話(3) ~ハク・2~

 竜族は人間と違い、非常に温和な生き物だ。

 動物ではもっとも長命種であり、力も強く天敵が存在しない。

 そのため攻撃性が徐々に薄れていった。

 近代種にいたっては、自分が人間に短剣で腹を刺されても「これくらいで死にゃしねぇんだから、報復しなくともいいんだ。ほっときゃ、治るしな」などとほざく個体まで出始めた。

 自己防衛本能まで低下してるというか……。

 まあ、これはランズゲルグのことだが。

 そのような性質に生まれてしまっただけのことなので、責める気も叱るつもりも無い。

 しかし。

 生まれ持った性質そのままに竜騎士に接していては、飼い犬に手を咬まれる結果になるだろう。

 甘やかせば、増長する……あの幼竜共のように。

 


「ハク、ハクちゃん! オフラン君達、すごいねっ。これが練習試合なんて……!」

 

「そうか? これはりこにとって‘すごい‘のか……ふむ。なるほどな」



 ダルフェに誘われ、りこは竜騎士共の屋内鍛錬場に【見学】に来た。

 鍛錬場といっても、単なる‘何も無い場所‘だ。

 大広間の半分ほどの空間には壁と床、そして高い天井があるだけだ。

 同行したカイユはりこの為に椅子とひざ掛けを用意した後、父親に話があると言い隣接された騎士団本部へと向かった。

 ダルフェは幼竜共に二言三言指示し‘練習‘を開始させた。

 自分は参加せず、数ミテ離れた床へと腰を下ろした。

 鮮やかな緑の目玉が幼竜共の動きを追っていた……。

 赤い頭にのった幼生も、父親と同じように幼竜共を見ている。

 ダルフェが息子だけでなく、りこにも‘これ‘を見せる意味。

 それは、我にはどうでも良いことだ。

 積もった雪で散歩ができぬりこにとって、暇つぶしになればそれで充分なのだ。



「ねぇ。ハクちゃんも、こういうの出来るの? ……剣や刀を持ったり、使ったりするの?」



 我を抱く細い腕に力がこもった。

 りこの金の眼がどこか不安げに、我を見下ろした。

 ふむ、これは……。

 剣技に感心はしても、楽しんではいない。



「いや。我は剣も刀も……そういったものは持たぬ」


「そ、そう……」


 りこの口からは、かすかな吐息……これは、安堵したということだろうか? 



 この幼竜共。

 我が見たところ素材自体は、悪くない。

 だからこそ。

 ダルフェは<青>の為に、これらを<青の竜騎士>に仕上げようとしている。

 問題は【主】である<青>だ。

 うまく調教すれば、こやつ等はそこそこの猟犬になるだろう。

 まあ、このままでは駄犬だがな。

 愛玩犬ではなく、猟犬として<青>はあれらを扱わねば駄犬以下……野良犬になりかねん。

 竜騎士の躾けは技術なので、<青>は学べば良い。

 在位中の四竜帝で最も躾けの技術に長けているのは、ベルトジェンガだ。

 あれは手持ちの竜騎士を完全に掌握し、手足のように使うことが出来る。

 ランズゲルグは奴に教えを乞えば……ふむ、あの2人は相性が悪かったか。

 相性?

 くだらんな。

 ベルトジェンガはもうすぐ死に、ランズゲルグには生きる時間が残っている。

 奇跡のように交差したその一瞬を、そのようなくだらん理由で無駄にするとは。



「そうなんだ……ちょっと、ほっとしたかも。ハクちゃんは剣とか興味ないの?」


「ない。りこが望むなら、剣技を<覚える>が……」



 こやつ等は、わざと極端に遅く動いておるな。

 刀ではなく剣を使っておるのも、ダルフェの指示だろう。

 ふむ……なるほどな。

 この幼竜共は、力の調整が課題か……。

 

 


「い、いいよ覚えなくて。ハクちゃんが剣なんて、物騒というか……あ、でも包丁は使えた方がいいかもね。結婚したら旦那様と一緒にお料理するのって、憧れてたし。そうだ! 今度一緒にご飯を作ろうよ!? ケーキができたんだから、きっとお料理もできるよねっ」


 りこが楽しそうに言った。

 りこが楽しいと、我は嬉しい。

  

「そうか。ならば我も、ダルフェにエプロンを縫ってもらわねばな」


「えっ!?」


 りこが楽しいなら……望むなら。

 我はりこと‘お料理‘がしてみたい。


「唐草模様のスカーフではなく、我はりこと‘お揃い‘が良い」


「お……お揃いって…フリフリの花柄がいいの? ほ、本当に!?」


 りこの声は、後半部分が少し高くなった。

 はて?

 何故そのように驚いたのだろうか?


「うむ。我はりこと同じものが良い」


「そ……そっか。う~ん、それはそれで……ま、いいかっ!」




 後日。

 ダルフェが我に、念願のりこと揃いのエプロンをくれた。


 何故か。

 竜体仕様だった。


 人型でりこと‘お料理‘してみたかった我は、少々不満だった。

 だが。

 ダルフェ作のエプロンを装着した我を、りこが強く抱きしめながら‘ちゅう‘をしてくれた上に、これ以上はないというほど讃えてくれたので良しとした。





 りこ。

 我には剣も刀も必要ないのだ。



 貴女を守るのは、この我。




 貴女が綺麗だと褒めたこの爪で、あらゆるものを切り刻み。

 愛しい貴女に触れる、この手で全てを引き裂こう。

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