12月~1月の小話(3) ~ハク・2~
竜族は人間と違い、非常に温和な生き物だ。
動物ではもっとも長命種であり、力も強く天敵が存在しない。
そのため攻撃性が徐々に薄れていった。
近代種にいたっては、自分が人間に短剣で腹を刺されても「これくらいで死にゃしねぇんだから、報復しなくともいいんだ。ほっときゃ、治るしな」などとほざく個体まで出始めた。
自己防衛本能まで低下してるというか……。
まあ、これはランズゲルグのことだが。
そのような性質に生まれてしまっただけのことなので、責める気も叱るつもりも無い。
しかし。
生まれ持った性質そのままに竜騎士に接していては、飼い犬に手を咬まれる結果になるだろう。
甘やかせば、増長する……あの幼竜共のように。
「ハク、ハクちゃん! オフラン君達、すごいねっ。これが練習試合なんて……!」
「そうか? これはりこにとって‘すごい‘のか……ふむ。なるほどな」
ダルフェに誘われ、りこは竜騎士共の屋内鍛錬場に【見学】に来た。
鍛錬場といっても、単なる‘何も無い場所‘だ。
大広間の半分ほどの空間には壁と床、そして高い天井があるだけだ。
同行したカイユはりこの為に椅子とひざ掛けを用意した後、父親に話があると言い隣接された騎士団本部へと向かった。
ダルフェは幼竜共に二言三言指示し‘練習‘を開始させた。
自分は参加せず、数ミテ離れた床へと腰を下ろした。
鮮やかな緑の目玉が幼竜共の動きを追っていた……。
赤い頭にのった幼生も、父親と同じように幼竜共を見ている。
ダルフェが息子だけでなく、りこにも‘これ‘を見せる意味。
それは、我にはどうでも良いことだ。
積もった雪で散歩ができぬりこにとって、暇つぶしになればそれで充分なのだ。
「ねぇ。ハクちゃんも、こういうの出来るの? ……剣や刀を持ったり、使ったりするの?」
我を抱く細い腕に力がこもった。
りこの金の眼がどこか不安げに、我を見下ろした。
ふむ、これは……。
剣技に感心はしても、楽しんではいない。
「いや。我は剣も刀も……そういったものは持たぬ」
「そ、そう……」
りこの口からは、かすかな吐息……これは、安堵したということだろうか?
この幼竜共。
我が見たところ素材自体は、悪くない。
だからこそ。
ダルフェは<青>の為に、これらを<青の竜騎士>に仕上げようとしている。
問題は【主】である<青>だ。
うまく調教すれば、こやつ等はそこそこの猟犬になるだろう。
まあ、このままでは駄犬だがな。
愛玩犬ではなく、猟犬として<青>はあれらを扱わねば駄犬以下……野良犬になりかねん。
竜騎士の躾けは技術なので、<青>は学べば良い。
在位中の四竜帝で最も躾けの技術に長けているのは、ベルトジェンガだ。
あれは手持ちの竜騎士を完全に掌握し、手足のように使うことが出来る。
ランズゲルグは奴に教えを乞えば……ふむ、あの2人は相性が悪かったか。
相性?
くだらんな。
ベルトジェンガはもうすぐ死に、ランズゲルグには生きる時間が残っている。
奇跡のように交差したその一瞬を、そのようなくだらん理由で無駄にするとは。
「そうなんだ……ちょっと、ほっとしたかも。ハクちゃんは剣とか興味ないの?」
「ない。りこが望むなら、剣技を<覚える>が……」
こやつ等は、わざと極端に遅く動いておるな。
刀ではなく剣を使っておるのも、ダルフェの指示だろう。
ふむ……なるほどな。
この幼竜共は、力の調整が課題か……。
「い、いいよ覚えなくて。ハクちゃんが剣なんて、物騒というか……あ、でも包丁は使えた方がいいかもね。結婚したら旦那様と一緒にお料理するのって、憧れてたし。そうだ! 今度一緒にご飯を作ろうよ!? ケーキができたんだから、きっとお料理もできるよねっ」
りこが楽しそうに言った。
りこが楽しいと、我は嬉しい。
「そうか。ならば我も、ダルフェにエプロンを縫ってもらわねばな」
「えっ!?」
りこが楽しいなら……望むなら。
我はりこと‘お料理‘がしてみたい。
「唐草模様のスカーフではなく、我はりこと‘お揃い‘が良い」
「お……お揃いって…フリフリの花柄がいいの? ほ、本当に!?」
りこの声は、後半部分が少し高くなった。
はて?
何故そのように驚いたのだろうか?
「うむ。我はりこと同じものが良い」
「そ……そっか。う~ん、それはそれで……ま、いいかっ!」
後日。
ダルフェが我に、念願のりこと揃いのエプロンをくれた。
何故か。
竜体仕様だった。
人型でりこと‘お料理‘してみたかった我は、少々不満だった。
だが。
ダルフェ作のエプロンを装着した我を、りこが強く抱きしめながら‘ちゅう‘をしてくれた上に、これ以上はないというほど讃えてくれたので良しとした。
りこ。
我には剣も刀も必要ないのだ。
貴女を守るのは、この我。
貴女が綺麗だと褒めたこの爪で、あらゆるものを切り刻み。
愛しい貴女に触れる、この手で全てを引き裂こう。