12月~1月の小話(1) ~ある日のハクとりこ・2~
*2009年12月4日の活動報告からの転載です。
「ふわあ~、紅葉が綺麗だね。でもこの1週間で葉っぱもずいぶん落ちちゃった……」
午後の陽射しの中。
赤や黄色の葉がきらきらと輝いて、はらりはらりと舞い落ちていく。
葉がほとんど落ちてしまった木々よりも、地面のほうが華やかな絨毯みたいだった。
落ち葉を踏む乾いた音とふわりとした感触に、もうすぐ冬なんだと改めて感じた。
「りこ。寒くないか?」
ナナカマドに似た葉を持つ木を見上げていた私に、ハクちゃんが言った。
ハクちゃんは、人間の私が風邪をひくのを心配し……怖がっている。
この世界では風邪で人が亡くなることも珍しくない事で、数年前には大流行がおこり大勢の人が亡くなったそうだ。
風邪……インフルエンザかな?
ちなみに。
竜族は風邪をひかないのだと竜帝さんが言っていた。
種族が違うから、ウィルスに感染しないのかな?
私は数日前から、セイフォンからずっと日課にしていた早朝散歩をしていない。
最近、朝晩は特に冷える。
だから。
ハクちゃんは朝の散歩を許可してくれなくなった。
ー気温が低く、体に障るから駄目だ。風邪をひいたらどうするのだ? り、りこが風邪……我のりこが風邪!? 想像しただけで、臓腑を吐きそうだぞ……ぅぐっ!
口を手で覆い前屈みになるハクちゃんの広い背中をさすりながら、早朝のお散歩は春までお休みすると約束した。
そんなに簡単に口から内臓が出ちゃいそうになるなんて、一度人間(竜?)ドックとかに行って身体を調べてもらったほうがいいのかな?
なんたって、実年齢はかなりのお年寄りらしいし……。
今度、竜帝さんに相談してみよう。
「りこ、必要なら我が外套をとってくるが」
「大丈夫よ、ハクちゃん。このショール、すごくあったかいの。チルチルっていう動物の毛で編まれたもので、竜帝さんの冬の一押し商品なんだって。毎年、すぐ売り切れちゃうらしいよ?」
竜帝さんがくれた真っ白なショールは大判で(私はこの世界の女性より小柄だから、よけいに大きいのかも)肌触りも最高だった。
しかも、とっても暖かい。
チルチルの製品は、貴重で高級品。
さすが社長、太っ腹です。
図鑑で調べたチルチルは、アルパカみたいで可愛かった。
長い睫毛に縁取られた、大きくてつぶらな目がラブリー!
しか~し、あの見た目で人間を襲うこともある凶暴肉食動物なんて。
なんか詐欺だ。
チルチル、撫で撫でしてみたかったのにな。
ハクちゃんと手を繋ぎ、盛りを過ぎた紅葉を眺めながらのんびり歩いていると何かを踏んだ。
「ん? あっ」
これ……どんぐり?
右正面にある黄色い葉を持つ大きな木の下に、私が知ってるどんぐりより少し大きい実が無数に落ちていた。
「ハクちゃん、これ……」
「ユニの実だ。りこ、それは食えないぞ? 毒ではないが、食用には適さない」
ハクちゃん。
貴方、自分の奥さんがこれを拾い食いする女だと……そんなに食い意地がはってる印象をもたれてるなんて、かなりショックなんですが。
「ユニ……拾っていこうかな」
キッチンの窓枠の並べたら、とってもかわいいと思う。
「腹を壊すぞ?」
「食べないよ!」
2人でしゃがんで、地面に落ちているユニを拾い始めた。
右手で拾い、左手に集めて……たくさん落ちているから、すぐに私の手はユニが満員御礼状態になった。
ふと、斜め前で黙々とユニを拾うハクちゃんの手を見ると。
1個。
大きな手のひらに1個だけ。
意外だったのでユニを拾うのはやめ、ハクちゃんの様子をさりげな~く観察することにした。
ハクちゃんはしゃがんだまま、金の眼で地面をじーっと睨み。
数分後、1個だけ拾って手のひらにのせ。
先に拾ってあったユニの実と並べ、それをまたまた数分間じーっと見て。
ポイッと、せっかく拾ったユニを捨てた。
彼の手には先にあったもの1個だけ……。
それを延々と繰り返していく。
あ、もしかして……。
私はハクちゃんの隣に移動して、手元を覗き込んだ。
大きな手の平にのった小さなユニの実を見ている私に、ハクちゃんは言った。
「我は、りこに1番良いものをやりたい」
たくさんじゃなく。
1つを。
「うむ。……りこ」
私の手に、ユニの実を1つ置いてくれた。
これは、私のために選んでくれたユニの実。
「ありがとう、ハク。私……すごく、すごく嬉しい!」
ハクちゃんの選んでくれたユニの実だけを、私は持って帰った。
自分で拾っていたものは、ユニの木の根元に置いてきた。
ハクちゃんのくれたユニの実は、虫にかじられたのか……いびつな穴が3箇所開いていた。
まるで、笑っている顔みたいだった。